第199話 無双連刃

 ネトスラ30連勝チャレンジの4戦目。

 追加の百円を投入した俺は、チャレンジャーが現れるのを待っていた。

 …が、やはり簡単にマッチングすることなく、画面にはレベルマックス5ストックCPU3体VS1ストックの俺のキャラが表示される。

 相変わらず設定がどうかしてるな…。


 ていうかこれだけは言える。

 コラボキャンペーンの対象ゲームをこれにし、CPUをランダム鬼畜設定にしている担当者は頭がおかしい。

 上司にちゃんと怒られろ。


「うわっ…こんなのムリゲーじゃないですか…?」

「まあ、慣れるまで時間はかかるかもね」

「1回ごとに相手の設定が変わるんですね」

「何パターンか用意しておいて、ランダムに変わるよう設定されているらしいな」

「てか、よく喋りながらできま…あ、終わった」


 少年三人に解説をしている内に、この試合も終了する。

 後ろで見ている三人は『おー』とか『すげー』としきりにリアクションしてくれているが、CPUで出来る程度の高難易度は全てやっていた俺は特に問題なかった。

 冬樹との対決の時は、冬樹自体はまあまあの強さだったが、緊張感があったので燃えたんだけどな。


 せめて挑戦者が来てくれないと、もっと熱くなれない。



 そう思いながらも勝ちを重ねていった俺に、15戦目にしてようやく"人の対戦相手"が現れた。


「あ、"NEW CHALLENGER"って出てますよ!」

「だな…えーと、"クロノス"さんって人だ」

「あ、その人は…」

「知り合い?」

「いえ…でもネトスラ界隈では有名みたいですよ。かなり強いって…」

「そうなんだ」


 有名プレイヤーって事か。楽しみだ。

 そして相手が選んだのはブレイブナイトか…普通に強キャラだ。

 こっちは…じゃあ、サムライにしよう。


 お互いがキャラを選び終わると、READY…GO!のアナウンスと共に試合が始まる。

 画面では日本のサムライと西洋のナイトが広いステージを駆けまわっている。


 うん…強いな。

 とても上手いし、バグ技とかも使ってこない正攻法ノーマルプレイヤーだ。

 若かりし日の自分を思い出し、思わず笑みがこぼれてしまう。

 こちらも、ストレートに攻めるとしよう。


「わっ!あれが避けられるんだ」

「ガードしながらダッシュうまっ!」

「相手のブレイブナイトも負けてないぞ!!」


 後ろから聞こえる三人の歓声を受けながら、俺は純粋なテクニックで攻めていき、クロノスさんも上手く凌いでいる。

 …が、やがてこちらが優勢になり、そして―――


 SLAAAAASH!


 サムライの必殺斬りがヒットし、決着が着いた。


「勝った…!あのクロノスさんに勝ってる!?」

「スゲェ!!」

「ふぅ…」


 三人が大盛り上がりを見せた。

 でも確かに良い相手だった。熱くなれたぜ。

 このまま連戦してくれるだろうか…?


「…ダメか」


 再戦を申し込んでみたが、叶うことは無かった。

 画面には再びマッチング中の文字が表示され、プレイヤーが見つからずまたしてもCPU戦へと移行してしまう。


「ようやく折り返しですね!」

「おう」

「頑張ってください!」


 ようやく半分に差し掛かり、俺は気合いを入れ直しゲームに臨んだのだった。











 _______












 一方そのころ…


「あー!アーム弱すぎですよこれ!!」

「惜しいなー」


 ユニと琴夜の二人は、お目当ての"呪いの刃"【千石せんごく 京太郎きょうたろう】リアルグレードフィギュアに大苦戦していた。

 勿論琴夜は視聴済み…呪いの刃:リニア編…!











 _______











「すごい…!あと3勝だ…!」

「もしかしてもしかして…コレ行けるんじゃないか…!?」

「やばいやばい…ゲットしたらMeTubeにアップしないと…!」

「…ふぅ」


 ようやく連勝カウントが27まで来る。

 クロノスさん以降は対人戦が2回ほどあったが、どちらもそれほど強くは無かった。

 CPUもさほど苦戦することなくここまで来ることが出来たが…


「流石にちょいと疲れるな…」


 学生時代ならいざ知らず、流石にこの歳になってこんなにぶっ続けでプレイするのは少ししんどい。

 負けられないプレッシャー…というのもあるが、単純に連続プレイがね…。

 少年の提示した挑戦金の上限は三千円分だったが、これで負けたらもう今日はやれないな。

 こんな時、能力でメンタルも回復出来たら楽なんだけど…なんて思ってみたり。


「…大丈夫ですか?お兄さん」

「おう…。流石に疲れるな、これだけやると」

「いやいや、無理もないっすよ。今まで連勝カウント"5"が限界のこの台で"27"まで、それもノーデスで辿り着くなんて、人間業じゃないっすよ」

「はは…」

「見てくださいよ、限定カード見たさにこんなにギャラリーが」


 振り返るとフロアには大勢の人が、俺たちから少しだけ距離を取ってこちらを見ていた。

 少年たちと同じくらいの歳の子や俺よりも年上っぽいのまで。

 エナメルバッグに"プライブ"の缶バッジが綺麗にびっしり付いている女子や、リュックからビームサーベルが伸びている男子まで。

 あらゆる人たちが見ている。


 これだけのギャラリーの前で達成目前で負けられないな…

 よし…!頑張るぞい…!!


「…ん?」


 俺が心の中で気合いを入れゲーム台に向かって座り直したその時、横から飲み物の差し入れがあった。

 ドクトルペッパーだ。

 丁度喉も乾いたし、甘いものを飲みたいと思っていたんだ。

 気が効くな、少年たち。


「ありがとうな―――」

「頑張って、卓也」

「…志津香」


 何と、後ろには特対職員の竜胆 志津香がいたのだった。

 瞬間俺の脳内には、大規模作戦でB班の治療を行った時に差し入れしてもらった光景がフラッシュバックした。


「どうしてここに…?」

「今、あなたの後ろに居るの」

「目の前で言われても…」

「私志津香、うふふふふ」

「いやサティちゃんの電話のおもちゃソレ」


 無表情かつそれほど抑揚のない喋りでボケる志津香。

 そして突然の来訪に少年たちも反応する。


「お兄さん、この可愛い人、誰っすか?」

「もしかして彼女さんっすか!」

「ムムっ!!?くぅーーー!!」


 ひとりカバラさん居るし…俺一人で対処しきれんぞ。


「いや、この子は友人で…」

「今はまだそう」

「うぉお…!まだって、そういうことっすよね!?」

「今週の土曜は遊園地。一年経ったらハネムーン」

「どこぞのロマンの神様だ」


 場がわちゃわちゃし始めたな。

 とりあえず、ずっと差し出され続けている飲み物をありがたく受け取り、プルタブを開けて飲ませてもらう。

 瞬間、炭酸の刺激とケミカルな甘みが体全体に染み込んで、回復しているのが分かった。


「ぷはっ…」

「どう?」

「ありがとう…回復したよ」

「そう。作った甲斐があった」

「いや機械が…ってもうええわ」


 懐かしいやり取り。天丼とはたまげたなぁ…


「くわしい説明はあと…。今は集中して」

「…分かったよ」


 志津香に促され、再び台に向き合う。

 心なしか、大分メンタルが回復したように感じた。

 助かるぜ…。


「よし、じゃあラスト3戦…行くぜ」


 俺が少年たちに百円玉を見せつけるように掲げると、後ろのギャラリーたちからも歓声が上がる。

 そしていよいよ、ラストコインが台に投入された。



「お、すぐマッチングした」


 コインを投入して28戦目のマッチングが開始されて直ぐ、対戦相手が見つかる。

 プレイヤー名…『王』か。読み方はおう?それともキング?

 随分と大仰な名前にしたモンだな。


「王って、最近出てきたあの王か…?」


 ギャラリーの一人が思い当たるフシがあるかのように話している。

 90秒のキャラクター選択時間に、俺は後ろに居る少年の一人に訪ねてみることにした。


「知ってる?王さん」

「今調べてみたんですけど、何でもここ1ヶ月くらいで急にネトスラに参戦してきた新進気鋭のプレイヤーらしいです」

「ふーん…」

「攻撃が当たらなかったリ、開始直後の必殺斬りといったバグ技も使ってくるとか…」

「そっか」


 俺と冬樹が使った技の数々は、ゲームシステムの粗を利用したテクニックで、不正ではない。

 別に使われたからと言って文句を言うような事ではないし、言葉は悪いが「知らない方が悪い」となってしまうくらいポピュラーな知識だ。

 とはいえこちらは達成報酬がかかっているし、次は丁度お互いのスタート位置が最も近くなる頃だ。


 俺は念には念を入れ、最も必殺斬り発動の早い"ニンジャ"を選択した。

 相手はサムライ。農民の"必殺斬り無敵時間バグ"の可能性もない。

 画面が開始前の暗転になった瞬間、俺は最速で必殺斬りボタンを入力した。

 そして―――


「あっ!どっちももう必殺の構えを取ってる!?」


 後ろで少年が言うように、開始の合図『READY』が表示された時にはもうお互い目の前で必殺を放つところである。

 やはり、利用して来たか…暗転斬り。


 結局28戦目は、『GO』と『SLASH』の間が僅か1カウントにも満たないうちに終了という異常事態となってしまった。


 当然、"王"は再戦を申し出てきた。


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