第32話 ジョーカー ―証拠―
国王陛下に返答を求められれば答えなきゃいけないですよ。さあ早く。
「……はい。その通りです陛下。カーズ殿下とレフトン殿下のおっしゃることは真実にございます。屋敷を長く見ていなかった私、ベーリュ・ヴァン・ソノーザも我が娘サエナリアの失踪した日に気付いたばかりでした。家庭のことを顧みなかったばかりに娘の部屋が物置と併用されたことすら把握していませんでした。父親としてあまりにも情けない限りです」
……おい、何悲し気に答えてるんだ。被害者ぶるな。
「さようか。確かにそなたは出世欲が強い傾向があって仕事熱心な男だ。滅多に屋敷にも帰らないから家庭をおろそかにしてしまうのかもしれん」
「過分な評価にございます」
そうですよ。出世欲の権化にすぎません。
「だが、それはいいわけにしか聞こえん。その言い方だと家のことは知らないから自分は悪くないとも聞こえるが、本当に反省しているのか?」
流石は国王陛下。いいわけだと見抜いておられます。
「もちろん反省しています。出世ばかりに気を取られて家庭を見なかったのは私の落ち度です。娘の部屋を決めたのは妻のネフーミですが、たとえ私が屋敷にいたとしても反対していたかどうか分かりません。お恥ずかしいことですが、私にとって娘は出世のための駒だったのです。……行方不明になるまでは」
「行方不明になるまでは、だと?」
今更何言ってるんだあいつ?
「はい。この1ヶ月、私は行方不明になった娘のことを深く考え続けました。最初のうちは恥ずかしながら『駒』がいなくなった苛立ち程度でしたが、娘の部屋を見ているうちに大変な苦労をさせたのだと思うようになりました」
嘘つきめ。とんでもなく怒っていたではないですか。部屋のことも元はと言えば誰のせいだと!
「更に、唯一残った使用人の話から、母親と妹の我が儘に付き合わされ続けた苦労も知りました。それを思うと胸が張り裂けそうになりました。その時やっと、失って初めて気付いたのです。血の繋がった我が子の価値を。………皮肉ですね。政治の道具にしようとしてきた自分が許せなくて仕方がなくなるほど悔やみました」
悔やんでないでしょ。少なくとも、私が貴方たちの屋敷にいるまでは。
「国王陛下。私達は娘を失って己の過ちに気づかされました。その過ちに少しでも報いることができるというのなら私達はどのような処罰でも受け入れます」
「ほう、どのような処罰でもだな?」
「……はい」
……言いましたね、言いましたね。どのような処罰もと。言質は取りましたよ。国王陛下も含む多くの人の目の前で!
「ならば、過去の罪のことで罰せられても文句は言うまいな」
「え?」
「この裁判はサエナリア嬢のことだけではない。それを忘れてはおるまい」
「それは……」
忘れるはずがないでしょう。数え切れぬほどの罪を背負っている自覚があるのなら。
「忘れたならもう一度言ってやろうか? そなたの過去の悪事が発覚した、これはそのための裁判でもあるとな……ああ、発覚した悪事というのは何も一つ二つではないぞ。せっかくだから一つ一つここで語ってやろうではないか。なあ?」
「え……?」
遂に罪を暴く切り札が登場する出番が来たのですね。私達がカーズを使って王家に託した日記が。
「くくく、困惑しているなベーリュ。どうせ『何がバレた』とか思っておるのだろう? 言ったではないか今から教えてやるとな」
「う……」
正解は、すべてバレたんですよ。それをこれから証明していくおつもりなのですね。
「まずはそうだなぁ。そなたの罪を知るきっかけから見せてやるとしようか。おい、あれを見せろ」
「はい、ただいま」
国王の合図で宰相のクラマ・ナマ・クーラが現れました。やはり、あの国王にあの宰相……いやいや、今はゲーム知識はいいのです。
「そ、それは……?」
「見て分からぬか? 一応、そなたの『物だった』らしいが?」
その言い方から国王陛下が日記を隅から隅まで調べたと分かります。そんな細かい情報をわざわざ口にしたのですから。
「ソノーザ公爵。本当に分かりませんか?」
「は、はあ……」
「……さようですか」
「せっかくだ、一番最初の内容を読んで聞かせてやろうではないか」
国王陛下が指をパチンッと鳴らす、いい音で。そして、クラマ宰相が読み上げます。おお、丁寧に読み上げてくれますね
◇
「こ、これは……!」
流石は公爵なだけあって察しはついたようですね。
「くくく、どうだ? ベーリュよ、思い出したか?」
「あ……あ、ああ……!」
真っ白な顔、血の気が引いた顔ですね。面白いです。
「くくく、その顔を見ると思い出してくれたようではないか。その通り、これはサエナリア嬢の部屋から見つかったフィリップス・ヴァン・ソノーザの日記だ。我が愚息が元婚約者の部屋から誰にも許可されたわけでもないのに勝手に持ち出した掘り出し物だ」
「そ、それは……」
国王陛下の言う通り、あの日記は今は亡きフィリップス氏のものなのです。一つ違うのは私がお嬢様の部屋に置いて、カーズに見つけさせたのですが。
「いい顔だなベーリュ。この先が面白そうじゃないか? この場にいる全ての者たちが理解しやすいように読み聞かせてみようではないか。なあ?」
「そ、そんなことは……!」
「何を言っても止めてやらない。宰相よ、読み上げろ」
「はい」
……あの国王、絶対楽しんでるでしょ。顔に出てますよ。さっきの威厳ある王様とは別人のようです。もっとも、私も日記が読み上げられるこの状況を楽しんでるんですけどね。
◇
「わああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
「ちっ」
うわーお! ベーリュ・ヴァン・ソノーザの絶叫! いや、発狂でしょうか!? どっちにしろ追い詰められた男の姿を見せてくれました。ざまあ!
「おいおい、どうしたのだ? ソノーザ公爵よ、いや、ベーリュ?」
「はぁ、はぁ……!」
追い詰められた気分になるのも仕方ないですよねえ。実の弟の日記に己の悪事が細かく記されて、それを裁判で読み上げられるんですから。これ以上の暴露本はないですよねえ。
「くっくっくっ、ベーリュよ、なあ、どんな感じだ? 日記の中に記されつくした己の罪を読み上げられた感じは? しかもそれが実の弟の日記によるものだというとなると皮肉が効いているとは思わんか? ん?」
「へ、陛下……」
国王陛下が煽っておらっしゃる。それに対してベーリュは悔しがるしかない。ふふふ、面白い光景がまだまだ見られそうですね。
「陛下! お言葉ですがその日記は私の罪の証拠になど決してなりませぬ!」
「ほ~う。何故かね?」
ほう、やはり反論に出ましたか。仮にも公爵ですし当然か。
「私と弟のフィリップスは兄弟仲は険悪なものでした。弟はいつも生徒会に所属していた私に対して劣等感を感じ、挙句には嫌っていてろくな会話すら成り立っていませんでした。そんな弟のことです。きっとありもしないことを日記に記して己を慰めていたにすぎません。いや、それどころか日記に記されている非道の行いの数々は弟の手によるものだった可能性すらあります!」
「「「「「っ!?」」」」」
「……何だと?」
「そうではありませんか! そもそも、あんな弟の日記が私の罪の証拠になるなど馬鹿げているのです! 下手をすれば、私に己の罪を着せるためにこうなうように仕向けたという考えだってありえるでしょう! そうですとも、きっと我が弟フィリップスこそが最低最悪の大罪人なのです!」
「……そうくるか」
……なんて奴、己の弟に罪をなすりつけに出るか。袂を分かれたとはいえ血の繋がった弟になすりつけようとするなんて……予想通りの行動をとってくれますね。やはり貴方は最低です。
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