第30話 スイーツ ー温もりー
この私ミルナの過去、そして目的、サエナリアお嬢様の願い。それらをうまく(?)説明できた直後に、アクセイル子爵領地につきました。……よかった。
「もうエンジの領地についたのか」
「いいところで終わってしまったね」
いえいえいえいえ! これ以上はもう無理ですよ! 下手なこと言わないか緊張しながら話すのって神経削りますよもう! ここで終わって本当に良かった~!
「それじゃあ、二人とも、俺は自分の屋敷に戻るよ。父上と母上にミルナのことを伝えたいからな」
「おう。二人ともお幸せに!」
「ごめんね、二人きりにするのが遅くなって」
「な、何を言い出すんだお前ら……」
エンジ様が顔を赤くされる。照れているのですね。可愛いです。もっとも、今の私は平民ですから……。
「い、行こうミルナ」
「はい、エンジ様」
「…………」
私はエンジ様について行く。
◇
私とエンジ様、いざ二人きりになると何だかぎこちなくなってしまいました。それもそのはず、幼馴染で元婚約者といえども、空いた時間が長すぎてお互いに見違えるほど成長してしまったのです。話したいことはたくさんあっても何から話せばいいのか分からない。お互いにそんな状態です……。
ですが、そんな状況も一変します。アクセイル子爵家の屋敷についてエンジ様のご家族に私のことが伝えられた途端、アクセイル子爵夫妻は泣いて喜ばれたのです。
「おお、ミルナ嬢! 無事だったんだね!」
「ああ、こんなに綺麗になって!」
感極まったお二人は私を抱きしめます。く、苦しいけど喜んでもらえて嬉しいとも思いました。そしたら、エンジ様ももらい泣きされました。
「……ああ、よかった。本当に良かったよ……ミルナ! うう……」
……エンジ様、彼のこんな風になく姿は見たことが、ない。あれ? 私も、泣いて……?
「う、うう、うわああああああああん!」
結局、たまらなくなった私も泣き出してしまいました。両親が亡くなってから久しぶりに泣きました。
◇
その後、屋敷の一室で四人で話をしました、レフトン殿下たちにもした話と内容は一緒……いや、私の過去がメインです。もちろん、私の両親のことも。
「そうか、コキア家はもう君しかいないのか。何も力になってあげられなくて済まなかった」
「そんな! 全てはソノーザ公爵のせいです。子爵様がそのような……」
「それでもだ。私は自分の無力が悔しくて仕方がないよ」
「父上、それは俺も同じ思いです……」
少し重苦しい空気になってしまいました。でも、ここで。子爵の奥様が機転を利かせてくれました。
「もう! こんな話はこの子が来てすぐでなくてもいいでしょ!」
「「「え!?」」」
いきなり机をバンッと叩いて皆の注目を浴びる奥様。何を言い出すのかと言うと。
「今すぐ! ミルナちゃんの歓迎パーティーを開かないといけないでしょう! 本当に男ってのは気が利かないわね!」
「ええ!? だが、」
「貴方! ミルナちゃんのためよ!」
「あ、ああ、そうだな……」
子爵様が折れました。どうやら尻に敷かれているご様子のようですね。相変わらずです。
「エンジ! 貴方も今日くらい笑って祝いなさい! あんなに仲が良かったでしょう!」
「そ、そうだな。そうだよね、母上……」
エンジ様もこういう時は母親に勝てない。こういうのも懐かしい。
「さ~あ、使用人の皆! 今日はパーティーよ! 使用人総出で準備をしなさい!」
「「「「「ええ!? 今からですか!?」」」」」
「さっさとしなさい! 口答えはしない!」
そう言われると使用人の方々はせっせと行動を開始します。こういうのは、以前より活発になっていませんかね?
まあ、流石はと言わざるを得ませんか。これがアクセイル子爵スプリン・ギュー・アクセイル様なのですから。
結局、その日は私の歓迎パーティーをすることになって屋敷全体でにぎわいました。暗い話は後回しということで。
◇
歓迎パーティーの後からは、アクセイル子爵のご厚意で私は屋敷で客人という扱いになりました。と言っても、屋敷にこもりっきりということでもなく、打ち解け直したエンジ様と一緒にたくさん話をしたり領地を見て回ったり、ごちそうを食べたりと、平民になってから得ることが滅多に無くなった温かい生活を送ることになりました。
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