第3話 バイオレンス ―衝撃―
この私、ミルナがサエナリアお嬢様の専属になって数日後。もう専属侍女として慣れた頃に、あの出来事が起こった。そう、私の心の運命の別れめだ。
我儘娘のワカナがサエナリアお嬢様のコーヒーのほうが美味しそうなどとふざけたこと言ってお嬢様のコーヒーカップを奪ったのだ。それなのに一口飲んだだけで、文句を言い放った。
「何よ! お姉さまのほうが美味しいと思ったのに、このコーヒー! さっきと変わらないじゃない! いらない!」
それはそうでしょう。同じコーヒー豆から作られてるんだから同じ味に決まってるでしょう!
「えい!」
「「!?」」
それだけに飽き足らず、あろうことかワカナはサエナリアお嬢様にティーカップを投げつけたのだ。信じられない! 何を考えているんだ、貴族にあるまじき行為だ。私はとっさに身を呈してサエナリアお嬢様を庇った。
「お嬢様、危ない! うっ!」
ティーカップは見事に私の頭に命中。具体的には額だ。痛い!
「ワカナ、何やってるの! 物を投げつけるなんてはしたないわよ!」
流石の奥方様もワカナをはしたないと注意したが、私とサエナリアお嬢様に部屋から出て行くように指示してくる。悔しくて呆れながらも私達は従った。するとこんな声が。
「ワカナ、ティーカップを投げたりしてはいけませんよ。割れたら危ないじゃない。使用人にあたっただけで済んだからいいけど、割れた破片が飛び散ったら危ないでしょ」
「……は~い」
……何だこの会話? 使用人にあたるならいいのか? なんて母親だろう。こんな奴がソノーザ家の夫人なら私が何もしなくても滅ぶんじゃない? 次女はあんな風に育ってるし。どっちも貴族として最低じゃない。公爵が聞いて呆れる。
「……傷は、大したこと無さそうですね」
額に手を当ててみる。痛みを感じるが出血はなしということでそのままでいようと思ったが、サエナリアお嬢様は、私の身を案じて一緒に手当してくれた。ああ、ありがとうございます。私はその気持ちだけで胸がいっぱいです!
「………………?」
手当ての最中に頭から違和感を感じ始めた。その時は何だかよく分からなくて、気にしないでおこうと思った。どうせカップが当たった衝撃にすぎない。仕事に支障はなかったけど、就寝前になっても違和感は変わらなかった。
「どうしちゃったんだろ?」
気になった私は鏡で額を見てみようとした。すると、鏡に写った自分の顔を見た瞬間、驚いた。鏡に映った顔が私の顔に見えなかったのだ。黒髪黒目は同じだが、ちょっと違う気がする。いや、別人だ。
「ど、どういうこと!? 私の顔が、うっ……何、これ……?」
その時、意識がもうろうとした私はそのまま気を失った。
「お……お嬢……様……」
◇
気が付くと朝になっていた。気を失ったまま眠り込んだようだが、いつもより早く起きてしまった。だが、これからのことを考えると都合がよかったと今は思う。
「私……生まれ変わってたんだ……」
そう。私は前世の記憶を思い出した。私は日本からの転生者だったのです。そして、乙女ゲームの悪役令嬢の侍女に生まれ変わったことも。
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