転生侍女は乙女ゲーム世界を覆す!【『悪役令嬢が行方不明!?』スピンオフ作品!】

mimiaizu

第1話 イエスタデイ ―過去―

私の名前はミルナ・ウィン・コキア。これは私の悲しき思い出話になる。



夜遅くに帰ってきた父は沈痛な顔で母と話をしていた。気になった私が途中で話に割り込んで耳にした話を覚えている。


『お前たちすまない! 私達は貴族の地位を失った! これからは平民として生きていくことになってしまった。これから厳しい生活になるから覚悟してくれ……』


『そんな……ソノーザ家の尻拭いのために何故私達がそんな目に遭うのですか……!』


『お父様、お母様。何の話をしてるの?』


『……ああ、私がふがいないという話さ。そのせいで……すまんミルナ!』


『え……?』


そう言って私を父が強く抱きしめて泣いた。母も顔を覆ってシクシクと泣き出した。この時の私は何が何だか分からなかったが、後になってとんでもないことになったと身を持って思い知ることになる。



生まれはコキア子爵家。いや、正確には元子爵家だ。何故なら、私の家はソノーザ家の政治闘争に巻き込まれて没落したのだ。押し付けられた多額の借金を返せず、爵位を失って家は取り潰しとなって、貴族から平民になってしまった。だからもう家名を名乗ることはない。ただの平民のミルナだ。



初めての平民の暮らしは最悪だったのを覚えてる。財産は奪われ、住む家は仮宿、食べ物の質が一気に下がり、食事もよくて二食。服も貧相なものしか着れないし、日用品すらなかなか手に入らない。両親も平民の仕事のために夜遅くに帰ってくる。日ごとにやつれていった。


そして、悲劇が訪れる。貴族から平民に落ちて一年後、母が体を病に蝕まれて亡くなり、その更に一年後に父も病で倒れた。


『お父様! 死んじゃやだ! お母様だけじゃなくてお父様まで死んだら私一人ぼっちになっちゃう!』


『ミルナ……私は、もう駄目だ。お前は、彼を頼りなさい……お前だけでも……』


『だ、旦那様! しっかりなさってください! やっと旦那様方を見つけ出したのです! これから私が旦那様もミルナお嬢様も引き取って……え? 旦那様! 目を開けてください!』


『い、嫌……お父様ー!』


父も病で死んだ。私とかつての自分の部下の前で。



貴族の暮らししか知らない両親は年老いた体で平民の生き方に慣れるはずもなく、病であっけなく死んでしまった。私が病気にならなかったのは、両親がせめて私だけでもと考えて大事に育ててくれたからだ。おかげで貧しくても健やかに育ったけど、私は天涯孤独の身となった。ただ、父は死ぬ前に私をかつての自分の部下に託してくれた。部下の人は父の意をくんで、私を平民でも貴族でも入れる侍女の専門学校に通わせてくれた。そのおかげで一流の侍女になることができた。


これでいつでも仕事に就いて給料をもらえて暮らしに困らない。後はどの家の侍女になるか決めるかなのだが、求人広告を見た時に息を飲んだ。


「ソノーザ伯爵、いえ公爵……!」


ソノーザ公爵。それは私の家を潰した張本人のことだった。当時は伯爵だったのに今は公爵になっていたのに驚かされた。野心家で手段は選ばないと聞いていたが、そこまで上り詰めていたことに驚きいた。それ以上に怒りがこみ上げた。


「許せない。私達は平民になって、お父様とお母様は病気で死んだのに!」


ソノーザが許せない。私たち親子を陥れた男の家が許せない。絶対に仕返ししてやる。そんな復讐心を抱いた私は、何かできないかと思って公爵家の侍女になった。メガネをかけて化粧でそばかすを作りかつての面影のない姿になって、うまく入り込めたのは運が良かった。ソノーザ家も私の正体に気付かないでいたのも運が味方したと思った。


まずは、屋敷で夫人と娘たちに仕える見習いから始まったのだが、ソノーザの屋敷で私は信じがたい光景を目にした。それは想像さえしなかった、母娘のとても歪な家庭環境だった。

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