幼馴染に恋人ができた

第15話 弱弱しい笑み

「まずは私じゃなくて彩先輩に謝ってきなさいよ！」

　登校中に俺は葵を追いかけて話しかけると、まだ怒っているようだった。

　当然か。

「……啓介がこんなヤツだとは思わなかった」

　そう言ってこちらを一瞬睨むと、スタスタと行ってしまった。

「あーあ。やっちまったなぁ」

　聞き覚えのある声に振り返るとそこには原田が。

　隣には三嶋もいる。

「やっちまったって、何がだよ」

「彩先輩と別れた上に、葵にもフラれた。そればかりか部活での悪影響も計り知れない。サークルクラッシャーかよぉ」

「知っていたのか」

「葵から聞いた」

　迂闊だった。

　葵は原田に異様に心を開いているので何でも話してしまう傾向がある。

　もちろん昨日のような大事もすぐに。

「啓介」

「なんだ、三嶋」

「細かいことには口を出さないけど、部活にはできるだけ持ち込むなよ」

「……努力する」

　とはいえ葵も彩先輩も俺がいる部活に来ようと思うのか。

「そういえば原田と三嶋が朝揃って来るのは珍しいな」

　俺がそう言うと二人は一瞬固まった。

「そ、そう！さっきたまたま三嶋と会ってさ……」

　珍しくたどたどしい原田。

「ま、まさかお前ら！」

「あー！もう！そうだよ！」

「僕ら付き合うことになったんだ」

「おめでとう！」

　原田に目をやると、照れ隠しか目を逸らした。

「そうかぁ。よかったな、原田」

「ん？啓介知っていたのか？」

「ああ。三嶋と葵が話しているのを見てやきもきしていたからな」

「ちょっと！そういうの言わないでよ！ってか三嶋もそんな顔すんな！」

　嬉しそうに見る三嶋に抗議する原田。

「で、葵には言ったのか？」

　そう聞くと真顔になってこちらを見返す。

「言ってないよん。誰かさんのせいでね。あんな空気で言えるわけないじゃんね」

「それはごめん」

「大体、啓介が葵をマネージャーに誘ったのが良くなかったんじゃないの？」

「それを言うなら原田だって葵を学級委員同士の三嶋から逸らすためにマネージャーに誘ったんじゃないの？」

「そんなわけない。ただ一緒にいたかったから」

「俺だってあいつにとって良かれと思って……」

「まぁまぁ、二人とも。僕だって純粋な気持ちで桜木さんを誘ったし、それは同じはず。それに桜木さんがマネージャーになったことは、僕らにとっても桜木さんにとっても良かったと思うんだ」

「それはそうだけど……」

「だから、誘ったことが悪かったんじゃない。啓介の今回の行動が問題なんだ」

「うっ」

「そうだそうだ！」

　自分で蒔いた種とはいえ、気が重い。

　まずは彩先輩と話さなくては。

　それからは後ろのカップルからの文句を聞きながら俺は学校へ向かった。

　彩先輩に会おうと、彼女の教室へ向かうと見覚えのある姿が。

「彩先輩！」

　声を掛けて振り返った顔は疲れ切っていた。

　いつもの柔らかな雰囲気とはどことなく違う。

　こんな先輩を見るのは初めてだった。

　こんな風にさせてしまったのは、他でもないこの俺だ。

「少しお話してもいいですか？」

　彩先輩は弱弱しい笑みを浮かべながら頷いた。