出会いと婚姻の章。

第2話 アーリーとアーネスト。

<<クーン城、謁見の間>>


謁見室のドアが開き、入室して来たのは若い貴族の男性だった。それはデルタリア共和国から派遣交代要員として赴任してきた一人の親善大使だ。


執事「デルタリア親善大使、アーネスト様お成りです」


特使「失礼します」


アーリー「・・・(あっ!あなたは」


入室して来たその青年を一目見たアーリーは少し動揺していた。


「初めまして、デルタリア共和国、親善大使のアーネスト・ウェブスターと申します」


「私はクーン精霊女王のアーリー・メンディエタ、よろしくねアーネスト」


アーネストは身長180センチ、パッと見やせ形に見えるが中身は中々の筋肉質だ。髪はスチールグレイ、瞳は大きく鼻もそこそこ高いが、いま流行りの強面脳筋兵士とは違いさっぱり系の顔立ちだ。


「はい、アーリー様こちらこそよろしくお願いします」


アーリー女王の見た目は40歳前後、髪は金髪、小顔だが細めの目は結構きつい、身長も体形も普通の女性だ。まぁ昔は麗人だっただろうとアーネストはこの時思っていた。


「それでアーネスト、あなたは何が目的なの?」


「はぁ、目的ですか・・通商折衝はまだ当分先ですしコレと言ってもやることが無いのです、適当に繋ぎとして送られてきたのでしょうね」


「あなた、結構ハッキリ言うわね」


「ええ、新米貴族ですから良いように使われるのですよ、クーンに興味があると言ったら即座に決まりました、ははは」


後頭部に手を置き笑うアーネスト。そう、彼は学校を出たばかりの新米貴族だ。他の貴族がクーン親善大使の役目を嫌い、議長にクーンに興味があるかと聞かれた彼は好奇心から「面白そうですね、どんなところなのでしょう 」と答えれば即座に 「それじゃ、行って見てくればいいじゃないか」と返され、即座に大使に任命され派遣されたのだった。


「それなら、適当に可愛い女の子と遊んで帰れば良いじゃないの?」


「流石に遊ぶと目を付けられますね、任期期間の3ヶ月は適当に視察でもします。色々興味もありますし」


「貴方、今日から赴任よね、クーンの第一印象を聞いてみたいわ」


アーネストはアーリーからクーンの第一印象を聞かれ、その答えは意外だった。


「女王、ちゃんとした風呂を作りませんか?体臭がきついです」


「はっ?今なんと」


いきなりとんでも発言を全く遠慮せず言い放つアーネストに驚くアーリーは流石にこの展開は読めなかったのだろう。獣人達は全く風呂に入らない訳ではなく自分の体臭を強めに押し出すことで存在感を知らしめる事がクーンでは普通だ、だが流石に我慢できる許容を超えていたので進言したのだった。


「ここの獣人達はあまり風呂に入らないから臭いのです」


「キッ!」


キッとアーネストを睨むアーリーも赴任当初は臭いと感じたが、その理由を知るとそのまま放置し、いつの間にやら気にならなくなっていた。


「女王、ストレートにって言いましたよね、早速ですが公衆浴場の整備と風呂に入る有効性の説明、日常化する為の告知をお願いします。臭くて食欲が湧きません」


「クッ!それは提言として受け止めるわよ」


「提案です、内政に関わるので大使の仕事では無いと思いますが」


「ふふ、気に入ったわ貴方」


度胸があり裏表のないアーネストを1発で気に入ったアーリーだった。数日後、言葉通り適当に視察を終え、今は執務室で何やら相談事をしている。


「アーリー女王これって無駄ですよね、昼食の1時間前に数千人の注文を捌くとなると人員コストも上がり食品ロスも増えています」


「そうね・・気が変わる事があるから直前の注文にしたんだけど」


アーネストが指摘したのは城や空港など公的な機関で働く労働者の昼食のことだった。直前の注文を受け付ける事で満足度が上がっていたと思っていたが、実際は多めに作る事で無駄にコストが上がり、配達員達の負担も増えていた。


「そうですね、無駄というより意味がないです、残った食材は廃棄せず持ち帰っているのが救いですね」


「・・・・・なるべくみんなの意見を取り入れたつもりなんだけど」


ちょっとイラついてジッとアーネストを睨むアーリーは、答えを言いなさいと目が訴えていた。


「ええ、言いたい事はわかりますが、満足度が低ければ改善した方が良いと思います」


アーネストは改善策を考え、もっと早い時間に注文、配送ルートの再検討などを行った数日後・・・。


「アーネスト、貴方に言われた通り改善してみたわ、遠方の警備責任者が喜んでいたわ、温かい食事が届くようになったってお礼を言われたわよ」


「結局、直前注文に対応するために主菜を早めに作れば冷えますからね。今の話を調理係に伝えれば喜びますよ、そういう小さいことでもやる気につながりますから」


「そうね、ありがとうアーネスト、これから相談しても良いかしら」


「また何か気がついたら報告しますので遠慮しないでください、結構暇ですので・・・」


その日からアーネストは親善大使としてではなくアーリーの執務室が勤務先に早変わりするとサポート役に徹していた。仕事内容は財務状況を調べ細かい問題点を洗い出しをしたり、新法案など多岐に渡り仕事を行なっていた。


「アーネスト、これどう思う?この橋は高さを変えて作った方がいいかな?」


「たしか去年の洪水で流された橋ですよね」


「そうよ、数年に一度流されるのよ」


「わかりました少し調べてみます」


数時間後、建築部に出向き今まで作った橋の詳細を教えてもらい、気象予報班にその地方の天気の特性などを教わり執務室に戻ってきた。


「アーリー女王この橋は数年に一回、大型タイフーンが来ると毎回流されていますよね」


アーリー「そうなの、毎回流されているわ」


「それなら沈下橋にすればいいと思います」


「何それ、ちんかきょう?」


「ええ、手すりとか作らない橋のことで大雨の際に完全に沈んでしまうので、逆に流されにくい橋のことです」


「ええ、そんな橋があるんだ・・・」


「まあ、発想の転換ですね。高さを大幅に変更するには周りの土地が低すぎて工事費用も嵩みますし、住人の立ち退き問題も出ますので沈下橋が最適化と」


「わかった、そうしてみるよ」


「私が建設部に行って説明しますね」


「ええ、よろしくねアーネスト」


そして数日後、もうこの頃になるとアーネストの仕事はクーンの統治?整備?とまぁ、為政者というより実務者に成り切り、普通の働く役人と何ら変わらなかった。


「ねえアーネスト、新設する城の発着デッキのことなんだけど」


アーネスト「ええ、利便性を考えて客間の近くの広場がいいと思います。玄関から離れますが警備の事を考えると・・・・」


そしてまた数日後・・。


「ねえアーネスト、デルタリアの貴族の事を教えて貰えるかな?」


「はい、どなたの事でしょう。このタブレットで詳細が見れます」


「おお、助かるわ(どれどれ銀髪緑眼の貴族令嬢は・・・」


アーリーは何故かデルタリアの貴族令嬢を探すのだった・・・。


ーー


アーリー「ねえアーネスト、この話って詐欺かしら」


アーネスト「はい、これは間違いなく詐欺です」


ーー


アーリー「ねえアーネスト、来週デルタリアの通商代表と会食するけど、その時に着るドレスはどれが似合う」


アーネスト「単なる会食でしたら白を基準で、実務協議を兼ねているのでしたら紺色か黒のスーツが良いかと」


ーー


赴任したアーネストは既にアーリーの良き相談者となり、週末は必ず夕食に招待し親睦を深めていたが、その際の話題はデルタリアとクーンの内情など実務的な話ばかりだった。そしてアーネストの任期が残り1ヶ月と迫ったある日、2人はアーリーの自室でお茶を嗜んでいた。


「ねえアーネスト、ほかの大使と違ってズバズバ本音で喋るわよね」


「ええ、腹の探り合いは嫌いでして、ハッキリ言える時は裏表なしに答えるようにしています」


「それなら聞くわ、遠慮しないで答えて、なんでここには”女王”しかいないって聞かないの?みなさん遠慮しているのかしら?」


「そうですね、報告書を見ても王族に関して情報は無比ですね」


「それで貴方はどう思っているの?」


「普通に考えて思いつくのは、”王と死別”、”精霊女王には何か制約がある?”、”男嫌い?”でしょうか、それくらいしか思いつきません」


「ほんとキッパリ言うわね」


「すみません、もう一つ抜けていました」


「なに?」


「この星には人間の男がいないから1人寂しく我慢している」


「クッ!あなた、ほんと殺したくなる位に遠慮しないわね!それなら、私は何歳くらいに見えるのよ」


流石に頭に来たのか、段々目つきが鋭くなり、オコ顔に変わるアーリー。実はアーネストの感情の揺れを見ているのだった・・・。


「ええ、遠慮するなと言われましたし、ですが女性に年齢の話は失礼です」


「ふん、気にしないでいいわよ」


「そうですね・・・見た目は年齢不詳って所でしょうか」


「ふん!答えになっていないわよ」


「女王、もっと近くでお顔を拝見して宜しいですか?」


「・・・・・いいわよ」


アーネストは腰に装着している銃を取り外し女王に近づくと、控えていた護衛が即座に行動をし、スッと剣を抜きアーネストの喉元近くに持っていく。


アーネスト「おう、俺の首が切れるよ」


ジャガー「お前近づきすぎだ!」


中々の剣捌きだ音も立てずに近づき人間では出せない速さで抜剣していた。


アーリー「ジャガー、剣を下しなさい!この人からは殺気が感じられないわ、続けて下さらない」


ジャガー「はい、仰せのままに」


「そりゃ親善大使ですし、僕、ひ弱なんでー」


冗談を言いつつスッと近づくアーネストとアーリーの距離は30センチほどだ。


「ち、近いわねアーネスト」


「すみません、以前から気になっていたので、すぐに終わらせます」


そして、首筋、目尻、手など露出している所を失礼がない様にサッと見て観察を終える。


「それで分かったの?」


「少し考えさせてください」


アーネストが見た箇所は確かにそれ相応の40前後の女性の肌をしていた。だが以前から話す時の「応答の速さ」「声の艶」「軽い身のこなし」が少し気になっていた。実はこの人もっと若いんじゃね?と考え、そしてある所を見て確信したのだった・・。


「・・・・(この人実は偽装しているよね・・・」


腕を組み悩んでいるふりをしているアーネストは何か確信があるのだろうか、ニッと口角を上げるのだった・・。


アーリー「・・・(ヒャ!バレた?」


ジャガー「・・・ジト(最近忘れてませんかアーリー様」


ジト目のジャガーはなにか言いたげだった・・・。

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