第9話 少しお金を積んだ

 通販スキルはありがたかったが、残念ながらお金が限られているため、何でもかんでも買うわけにはいかない。


「と言いつつ、漫画をかなり買ってしまった」


 どうしても読みたい漫画の新刊とかが出ていたのだから仕方がない。

 元の世界に帰るまでお預けかと思っていたのに、まさか異世界でも最新巻を読めるなんて。


 レベル5では本や音楽、それからゲームなどを買えるようになっていた。

 電気が通っていないためゲームができないのは残念だが、これで睡眠や瞑想、隣の部屋の声を盗み聞きする以外に、部屋時間の使い方ができたぞ。


「どうにかしてお金を稼ぎたいな。この異世界の品を購入金額以上の値段で売れることができれば、その差額で稼ぐことができるんだが……」


 生憎と売る相手がいない。

 クラスメイトの誰かに、この部屋のことを教えておけばよかったかも……。


 そんなふうに後悔していた、ある日のことだった。


〈来客です〉


 どうやらこの部屋に誰か来たらしい。

 また隣の宗教勧誘だろうかと思いつつドアを透かしてみると、


「え? 金ちゃん?」


 そこに立っていたのは、クラスで唯一と言ってもいいだろう俺の友人、坂本金太郎だった。


「小森殿、ここにいるでござるか? 金太郎でござる」


 この侍っぽい言葉遣い、間違いなく金ちゃんだ。

 彼が古風なのは名前だけでないのである。


 俺は扉を開けた。


「おお、小森殿。ようやく見つけたでござるよ」

「金ちゃん? 何でここが分かったんだ? いや、立ち話もなんだから、とりあえず中に入ってくれ。狭くて汚いとこだけど」


 俺は金ちゃんを部屋の中に招き入れる。

 ほうほう、ここが小森殿の新居でござるか、と興味深そうに言いながら周囲を見回す金ちゃん。


 金ちゃんとは中学生の頃からの仲だ。

 平均的な身長の俺より少し背が高く、ぽっちゃり体型。

 なぜか今どき珍しいぐるぐる眼鏡をかけていて、変な喋り方をする。


 どうやら好きなアニメのキャラクターを真似しているらしく、要するに結構なオタクだ。

 俺はアニメこそあまり見ないが、昔から漫画やゲームが好きだったこともあって、それで親しくなったのだった。


 それでよく虐められないよなと思うが、実は家が空手の道場をやっていて、金ちゃん自身も黒帯だったりする。

 だからこの体型なのに意外とスポーツができた。動けるデブってやつだ。


 結局のところ、不良って弱い奴にしか手を出さないんだよな。


「金ちゃんは確か、職業が『商王』だったよな?」

「そうでござる。今は商売人として活動しているでござるよ」


 商王というのは、商人系統の上級職だ。

 王女様からは王宮で雇いたいと言われたそうだが、それを辞退して一から商売を始めたらしい。


「それで、どうやってこの場所が?」

「王都中の不動産を当たってみたでござるよ」

「借主の許可も取らずに勝手に教えてくれたのか?」

「少しお金を積んだでござるからな。まぁ、異世界だからその辺の融通は利くでござるよ」


 金を積んだって……金ちゃん、高校生だよな?


「幸い十分な資金ができて、商会を立ち上げられるくらいにはなったでござる」

「起業したってことか? 凄いな。どうやってお金を集めたんだ?」

「簡単だったでござるよ。なにせ最初から最高レベルの鑑定スキルを持っていたでござるからな。骨董市で掘り出し物を見つけ、それを高く売る。あっという間に大金持ちでござるよ」

「そ、そうなんだ……」


 俺が引き籠っている間に金ちゃんは成功者になってしまったようだ。


「他の連中はどうしているんだ?」

「中には拙者のようにすでに王宮を出たクラスメイトもいるでござるが、大半はまだ王宮の庇護のもとで訓練しているでござるな。勇者であった神野殿に関しては、別の国の王様が直々にやってきて王女様と交渉し、連れて行ってしまったでござるよ。もちろん王女様も神野殿はこの国に置いておきたかったようでござるが……噂によると、一年分の国家予算に匹敵するほどの大金を提示され、折れたそうでござるな」


 さすがは勇者……話の次元が違う……。


「それで小森殿はこの期間、どうしていたでござるか?」


 ……神野の後に自分のことを話すの、正直ちょっとキツいんだが?

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