第54話 開会式とレース

期末試験が終わって答案が返却され、成績が上がった科目では喜んだり、反対に下がった科目では落ち込んだりすることを繰り返しながら終業式を迎え、待ちに待った夏休みになった。それと同時に学生寮も閉寮するので、ミユたち寮生は実家に戻って家でお盆を過ごすことになる。とはいえ、お盆が終わる八月の第三週からアイアンレースが始まることもあってか、みんなお盆も自主的に練習を続けていた。


そして、レース当日がやってきた。

予定通り、高専アイアンレース中四国大会の開会式が讃岐高専の西讃キャンパスで行われ、開会式ののち、すぐにそこからヨットレースが始まった。ミユたち讃岐高専の学生たちはキャンパスとスタート地点が近いので、ほとんどのレース関係者が開会式に参加したけれども、遠方の学校の場合は、ヨットの関係者だけが開会式に参加していたようだ。


アイアンレース大会は、ヨットレース、自転車レース、カートレースの独立した三つのレースで、その各々に順位が付けられて形式的にそれぞれの優勝が決まる。ただし、複合レースなので、すべてのレース終了後に、総合的に評価されて総合優勝校が決まる。そして総合評価の高い上位二校は、中四国ブロック十四校の代表として、全国大会へ進出することになる。


すべてのレースはポイント制になっていて、一着で三ポイント、二着で二ポイント、三着で一ポイントが加算される。さらに、レースに出走する乗り物を自作すると、創作点として一ポイント、レースを途中棄権せずに完走すると技術点として一ポイントが付与される。つまり、自作した乗り物で一着になれば、全部で五ポイントが加算され、たとえ最下位であったとしても、自作した乗り物でリタイアせずに完走することができれば二ポイントが加算される。


レース一日目のヨットレースは、商船高専の独擅場だった。商船高専はその名の通り、外航船舶の航行に従事する人材を養成する機関であるため、船に関して右に並ぶ者はない。中四国は昔からの交通の要衝として瀬戸内海を有しているためか、商船高専が多い。全国で五校ある商船高専のうち、三校が中四国にある。そのため、レース前の下馬評では、入賞は商船高専が独占すると言われていた。


その下馬評通り、山陽商船高専は自作のFRP製のヨットを巧みに操り、面目躍如の一着だった。二着は山口商船。三着はというと、意外にも讃岐高専だった。三校ある商船高専の一つを抑えての入賞となったけれど、これは、讃岐高専西讃キャンパスの宮武姉妹の健闘によるところが大きい。四着は、惜しくも愛媛商船だった。


すべてのヨットがゴールしたあと、まず、レースでの順位に応じてポイントが付与される。一着の山陽商船に三ポイント、二着の山口商船に二ポイント、三着の讃岐高専に一ポイントが加算された。


自作のヨットで出場した山陽商船の一校だけは、創作点としてさらに一ポイント追加された。また、ヨットレースではチェックポイントでの足切りがなく、全校が完走したため、すべてのチームに一ポイントが追加された。


その結果、得点は、山陽商船が五ポイント、山口商船が三ポイント、讃岐高専が二ポイント、それ以外の高専は一ポイントで横並びになった。


続く二日目のタンデム自転車レース。

三人乗りの変則的なタンデムとはいえ、自転車に関しては全国最強と名高い強豪の愛媛高専が一着になることはレース前からほぼ決まっていた。そのため、各校の興味は、どこが二着になるかという点に注がれた。


いざ、自転車レースが始まると、大方の予想通り、後続を大きく引き離して愛媛高専が一着でゴール。大きく離されたものの二着が岡山高専、僅差で讃岐高専が三着となった。全校自作のタンデムで出場したものの、レース途中で自転車が破損して棄権する学校が続出し、半数近いチームが完走できなかったが、大きな事故はなく終了した。


二日目が終わった時点では、トップは七ポイントで山陽商船高専、二位は六ポイントで愛媛高専、三位は山口商船、岡山高専、讃岐高専が五ポイントで並んでいる状況だ。


自力優勝の可能性があるのは、一位の山陽商船高専と、二位の愛媛高専の二校のみだけれども、その上位二校の勝敗次第では、三位以下の学校にも十分に優勝の可能性が残されている接戦である。総合優勝校がどこになるか分からないまま、ミユたちはついに三日目のカートレースを迎えた。

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