第4話 性格


 私はお世辞にもいい性格はしていない。


 短気だし思った事はすぐ口に出るし、何かと揉め事に首を突っ込みたくなる。特に人の悪口や容姿をバカにした言動を聞くといても立ってもいられない。


 決して私の一部分が水平線だからじゃないよ?


 そんな私は当然と言っていいのかなんなのか。まぁアレよ、彼氏が出来たことはない。そして好きな人も……いや正確には過去に一度だけ恋をしていたと思う。


 思うと言うのは記憶が曖昧で朧気だから。




雪音ゆきね、次体育だから更衣室行くぞ」

「あ、うん今行く!」


 私はかおると共に教室を出る。そして去り際にチラリと隣の席を横目に捉える。

 昨日の雪ビンタの事が気不味くて、私は何度も謝ろうとしたけど結局出来なかった。思い出すだけでフツフツとしたものがまた蘇りそうだったから。

 無言で体操着袋を机に置いたり横にかけたりして話すタイミングを伺っていたけど、彼は立ち上がりどこかへ行ってしまった。


 アレ? 男子はクラスで着替えるはずじゃ。


 そんな事を思ったけれど、かおるに急かされて彼の出て行った扉と反対側から更衣室へと向かう。


 ――――――


「そういえばそっちのクラスに新しい子来たんでしょ?」

「来たよ」

「どんな子?」

「う〜ん、不思議な子」

「何よそれ〜」


 女子更衣室での会話は専ら彼の話。入学が少し遅れたから変に目立ったのかもしれない。その会話に耳をそばだてる私は神経質になっているのかも。ちなみに体育は私達のクラス含めて合同で行われる。


「でもアレかなぁ。彼氏にするならちょっとね」

「アンタ面食いだもんね。って事は顔はイマイチって事?」

「まぁね」


 女子達の会話はいつもこの手の話題ばかり。正直他にも無いものかといつも思う。


 アレだよ? それは単に私がそういう事に疎いからではなくてだね……


「それになんか不思議というか不気味というか……ちょっと怖い感じ」

「ふ〜ん。もしかしてヤンチャしてたのかな?」

「ありうる!」

「ギャハハハッ」


 本人が居ないからって好き放題言っちゃって。なんだか自分の事の様にイライラしてきた。

 

「ちょっとアナ……」


 アナタ達そこまで言う必要無いじゃない。

 そう続く言葉が出てこなかった。


「お前ら、その口閉じてろ」


「「「――っ!」」」


 話し込んでいた3人組の前に現れた1人の女の子が静かに闘志を燃やしていた。


「えっと……犬飼いぬかいさん?」


 怯えた様子のクラスメイトが彼女の名を呼ぶ。


「今度アイツの悪口を私の前で言ってみろ……潰すぞ」

「ひっ……」


 後ろから見る彼女の背中は見た事が無い程震えていた。きっと怖いとか緊張とかそういう震えでは無いのは辛うじて理解できる。



「フフッ……人を呪わば穴二つ。君たちも気をつけた方がいいよ」


 いつの間にか隣に現れたソラもそんな事を言い出した。


貴女あなた達。雉ノ宮きじのみやを敵に回すつもりはあるのかしら?」


 咲葉さくはも参戦。

 一体何が起こっているの?


「あっ……いや」

「その……」

「ごめん……なさい」


 噂話をしていた彼女達は3人のあまりの圧力に押されてたじろいでしまう。そして我先にと扉を出て行く。


 更衣室に残った私は3人に詰め寄る。


「みんなどうしたの? 普段なら私が突入して、騒ぎが大きくなって面白おかしく笑ってんじゃん」


 今迄の彼女達とは違っていたので疑問を投げかける。


「ん? そうか? いつも通りだろ」

「フフ……新たな私を見て戦慄するがいい」

「今回は雪音の出番は無いわね」


 すっとぼける3人を疑問に思いながら時計の針を見る。


「う〜ん。まぁいいやそれより早く着替えないと遅れるよ」


 私はどこか拍子抜けして彼女達を促す。



 ――――――



 今日の授業は体力測定を兼ねた持久走。私はあまり体力に自信がある方じゃない。それに昔の怪我が原因で体を動かすのがちょっと苦手。


 男女別に行われる持久走。

 準備運動も終わり運動部に入っている人達が殺気立っている。きっとこの後がお昼休みだから何か競走でもしているのかも。


 ピーッという笛の音を合図に走り出す。

 もちろん持久走だから自分との戦いなのだけど、我先にいかんとする人達が目につく。そんな中後方の方で厚着をした男の子が一所懸命に足を動かしていた。


 はぁ……はぁ……と荒い息がここまで聞こえてきそうなほど彼は懸命に走っている。女子にカッコイイ所を見せたい男子が1周目を駆け抜ける頃、彼はやっと3分の1といった所。


「……がんばれ」


 どこかから声が聞こえる。


「がんばれよ」


 まただ。


「がんば」


 いつの間にか私の周りに親友達が陣取っていた。


「……雪音。しっかり見ててやれ」

「うん? う、うん」


 かおるからの声が妙に真剣だったから変な頷き方しか出来なかったけど、私の心も親友達と同じ。


「がんばれ、鬼神おにがみくん」



 ――――――



 結局彼は持久走を最後まで走りきる事が出来なかった。途中で教師が止めてそのまま保健室へと連れていかれた。


 昼休みを過ぎた5時間目の授業にも、彼は教室に現れなかった。

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