第27話 芽生えた気持ち1

 週明け月曜日から復帰した桂さん。あれから遅刻は少し減った気がするが、時間ギリギリ登校は相変わらずだ。出席さえすれば真面目に授業を受けているのに、どうにも朝が弱いようだ。今日は遅刻しなかったこともあり、昼食を一緒に食べる。こないだ桂さんが「メニューに小さく書かれてた」とかいう「カレーに追加料金を足すとからあげをつけることが出来る」裏メニューを二人して頼んでみた。本当に乗って出て来たものだから驚きだ。

「僕も桂さんに部屋の合鍵、渡しておきます」

「いいのかよ」

「お互い一人暮らしで、何かあったら鍵で生存確認できるということがわかったので」

 入居時にもらっていて引き出しに入れていた合鍵を桂さんの手のひらに落とす。

「ウチの家の鍵と一緒につけとくから。落とした時は、駿河ん家も鍵変更だぞ」

 そう言ってアハハと笑う桂さんには頭を抱えてしまう。

「本当に紛失だけは勘弁してくださいね」

「あいよ~」

「返事が軽すぎて心配ですが」

「まぁ僕も今一番信頼しているのは桂さんなので」と続けようと思ったが、恥ずかしくて飲み込んだ。

「それにしても駿河さぁ、約束忘れてないか?」

「約束?」

「ほら、受験の日に言ったろ? 再会出来たら遊びに連れてってくれって」

「あぁ、そうでしたね」

 忘れてた訳ではない。彼女が最初に言ったことだから、僕から言うのもおかしいかなと思ってその時が来るのを待っていた。四月は入学式、教科書購入、履修登録など慣れないイベントで忙しく、桂さんはそれに加えてバイト先が決まったり、寝坊を繰り返すし、その上、風邪ひくしでいろいろありすぎた。

「ワタシ、大学に行く時に使えるリュック欲しいんだよ。トートだと肩が痛くて。だから、天王寺に探しに行くの手伝ってくれよ」

「わかりました。今度の土曜日にでも行きましょうか」

「おう。やっと約束果たしてもらえる! 楽しみだな」


 その日の夜、湯船に浸かりながらふと考えた。彼女をしっかり案内できるのかと。かくいう僕も天王寺は引っ越ししてきてから行っただけで、その時もスマホで調べながら巡ったのだった。それに加えて、友達とどこかに出かけるという経験がない。遠足の班行動くらいで、休日にわざわざ約束を取り付けてということはない。しかも異性と出かけるなんて……。いきなりハードル高すぎじゃないか? リュック探しを手伝うだけだからそんな難しいことでも……あ、でもお昼ご飯とかお茶する場所も考えておくべきなのか。そういえば、誕生日プレゼントも渡しそびれている。ああ……考えすぎると変に緊張してしまうな。それでも、楽しみで仕方ない自分がいる。

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