第17話 気づき5

 自己紹介が終わり、自由時間となる。結局みな、それなりにグループが出来ている状態で参加していて交流する雰囲気ではない。僕も桂さんと一緒に行動し、話す。というか、桂さんの表情が硬い。自己紹介終わったあたりから、顔が曇っている。

「桂さん、大丈夫ですか?」

「うん。もう自己紹介という山は越えたからな。あとはちょっとジュース飲んで、なんか食べて、様子見てさっさと帰るぞ」

「誰かに声かけたりしないんですか?」

「ワ、ワタシはいい……」

「一回生の人もそのあたりにパラパラいますよ」

「ワタシは本当に大丈夫だから……。そういう駿河は誰か話したいヤツでもいんのかよ」

「うーん……。まぁ、いないですけど……」

「こういうイベントは、タダ飯いただくために参加するもんなんだよ。交流なんて無理にしなくていいんだ」


 桂さんがシャケのおにぎりを頬張ったと同じタイミングで、ひと際大声で話す声が聞こえてきた。

「君一人じゃない? 寂しいでしょ?」

「ていうか、君、背高くてスタイルいいねぇ~」

 声の方を見ると、長机の近くで一人立っていた女の子に、たぶん先輩だと思われる男二人が声をかけていた。「未成年もいるのでお酒は用意してません」とアナウンスがあったが、自分たち用に買って持ってきて飲んだのだろう、手にはビールの缶。すでに酔って、動作がふらふらとしている。

「向こうで一緒に話そう?」

「向こう行ったらいっぱいお友達出来るよぉ~。な?」

 と言うと、男だらけで飲み食いしているグループが「うぇーい!」と野太い声を上げた。パッと見た感じ、地味でおとなしそうな身なりをしているのに、酒が入ると強気な態度をとってくるものなのか。

「やめてください……!」

 女の子は強い語気で言うが、目が潤んでいる。よく見ると、あの子は同じ一回生の佐野さんだ。出席番号が僕の一つ前の女の子だから、話したことはないが知っている。いつも見かけると、笑顔で文芸学科の女子たちと会話しているが、今日は一人なのだろうか。

 すると、佐野さんの手首を男の一人が掴んで、無理やり引っ張り始めた。精一杯抵抗するが力負けしている。

「ちょっとあれは放っておけませんね」

 と、僕が立ち上がると同時に桂さんも立ち上がった。眉間に皺が寄って、目から怒りがにじみ出ている。

「駿河、これ持って待ってて」

 僕にジュースと食べかけのおにぎりを渡すと、靴を履き、桂さんは佐野さんのもとへ歩きはじめた。

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