第14話 檜山進一郎の受難 その5

 弾は四ツ戒堂の左胸に孔をひとつ増やした。


「むぅ……これだけ食らっては動けぬか。賞金稼ぎバウンティハンターよ、次はこうはいかぬぞ」


 四ツ戒堂はよろよろと後ろに下がっていたが、不意にかき消すように闇の中へと姿を消した。


「何度も会いたかァねえなあ……」


 面白くもなさそうにつぶやいた真島は、塀ぎわに倒れている川中島のところに行き、しばらくしゃがみこんでいたが、そのうち、じいさんこっぴどくやられたなァなどといいながらバシバシと叩きはじめた。

 放心したように立ち尽くしていた檜山に真島の声が飛ぶ。


「おい、檜山。ボケっと突っ立ってねえで手伝えっつの」

「あ、はい!」


 あわてて駆け寄った檜山は真島と一緒に倒れている老人を担ぎ上げた。

 ボロボロになってはいるが死んではいない。よくあんな得体の知れない男の攻撃に耐えたものだ。


 ふと四ツ戒堂の消えたあたりに目がいった。

 今は、ただの闇だ。


「真島さん、あれ、何だったんですかね」

「俺に聞いたってわかるはずねえだろ。じいさんのほうが詳しいんじゃねえのか」


 そういえば川中島はあの男――四ツ戒堂と呼んでいたか――を知り合いだと言っていた。いったいどんな知り合いだと言うのだろう。

 ひどく気になったが、川中島がこの状態では聞くわけにもいかない。


 真島も同じことを考えていたのか、どのみち今は聞けねえなあとため息をついて抱えている老人に目をやった。


「……やれやれ、マッチョのじいさんに銃の効かないバケモンか……何だかヤな感じ」


 川中島を後部座席に乗せ、檜山たちも車に乗りこんだ。

 真島がキーを差し込みひねってみたのだが、どうもエンジンはご機嫌ななめのようで、キュルキュルキュル――と悲しそうに繰り返している。

 助手席におさまった檜山はさっきの礼を言った。


「真島さん、さっきはありがとうございました」


 今までいろいろな犯罪者やターゲットに出会ってきたが、あんなバケモノに出会ったのは初めてだった。あそこで真島の援護がなかったらどうなっていたかわからない。


 それにしても――。

 真島には驚かされた。

 常軌を逸した言動と行動が多い真島だが、いくら状況が状況だからといって、いきなり頭部に銃弾を撃ちこむとは無茶苦茶だ。幸いと言ってはおかしいが、四ツ戒堂はあれだけ銃弾を食らっても倒れないバケモノだったので射殺ということにはならなかったが、もし奴が普通の人間だったらやっかいなことになっていたにちがいない。


 それとも――。

 真島は四ツ戒堂が人間ではないことを見切って撃ったのだろうか。

 何を考えているのかよくわからない人だが、それでも彼はトップクラスの賞金稼ぎバウンティハンターだ。気配とか臭いみたいなものを感じるのかもしれない。


 気になったので訊いてみた。

 真島は得意気に言った。


「檜山、俺もひとつ教えてやろう。いいか、黒マント着てる奴ァ昔から悪党って決まってんだよ」


 悪党だから頭に撃ちこんだ。ただそれだけらしい。

 聞かなきゃよかった、と檜山は思った。

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