似ているようで似ていない二人と赤いきつねと緑のたぬき

みたらし団子

何から何まで一緒じゃないの!

◇「絶対、赤いきつねだね!」

「いーや、緑のたぬきだよ!」

鏡と言い争いをしている子?


「みきの分らず屋!」

「お姉ちゃんの分らず屋!」

いえ、一卵性双生児の女の子達です。


身長から、表情、好きな色、お気に入りの服。

何から何まで一緒な仲良し二人組が言い争い。


「珍しい……」

思わず口に出るほど、レアな光景でした。


まだプリプリしているみきからは多分、話を聞き出せそうにないので、どうしたの?と、取り敢えず、お姉ちゃんのまきに事情を聞く。


すると、まきはぶすくれた顔をして、先程、起きた出来事について話し始める。

「……あのね、」



◇——数分前

『〜♪』

「ねぇねぇ!お姉ちゃん!あともう少しで年越しだよ!」

「そうだね〜!楽しみ……!それとカウントダウンもしなくっちゃ!」

二人揃って、座った椅子の床に届かない足を空中でぶらぶらさせて、

『続いてはこちら!〜♪』

暖かい暖房にぬくぬくしつつ、なんとなく点けているTVから流れる音楽に更に眠気を誘われる。


「……ねぇ、お姉ちゃん?」

横から呼ばれてみきを見やると、みきは様子を伺うようにこちらを見ている。


「どうしたの、みき?」

「みき、今年も年越しそば、食べたいなぁって思っ…」

「いいね!一緒に探そ!」


眠気より食い気。


まきは、みきの言葉が言い終わらないうちに椅子から勢いよく降り、みきの手を取ってパントリーへ駆け出す。


「みき隊員!みき隊員は、緑のたぬきを、まき隊長は赤いきつねを探します!」

「ラ、ラジャー!」



◇「その時は、まきも、みきもワクワクしてて、まだ喧嘩してなかったの!」

依然、ぶすくれた顔をし、肩にかかっている髪を出来事の核心に近づいていくほど苛々と弄くり回しながらまきは続ける。


「でも……」

うちではすっかり年越しの定番となった、赤いきつねと緑のたぬき。


しかし、二人は探す途中、禁忌とされている戦い、『赤いきつねと緑のたぬき、どちらの方が美味しいか論争』という、世間でも、未だ上手く決着のついていない戦いを二人は我が家のパントリー前で開戦してしまったらしい。



◇「「やっぱり〜」」

「赤いきつねだよね!」とお姉ちゃんのまき

「緑のたぬきだよね!」と妹のみき

お互い、声がハモらなかったことに信じられない顔でお互いを見合わせる。


「赤いきつねの方が、柔らかいうどんが、もちもち!ってなって、お揚げに甘いお出汁がじゅわわ〜って滲みてて!噛んだら噛んだだけ、もちじゅわーほわ〜って感じなのに!」


「緑のたぬきの方が、お蕎麦がのどにツルツル〜って感じで、天ぷらはスープに入って柔らかくなって、でもちょこっとだけカリってなってて、お蕎麦と天ぷらのいい匂いペアがふわ〜!って鼻にも口にも広がっていって、ツル!カリ!ふわふわふわ〜!って感じなのに!」



◇ 体をめいいっぱい使って表現するまきと、いつもはムキにならない気弱なみきが、この論争になると熱くなるのを想像すると、なんだか、くすりと笑えてきちゃいました。


「赤いきつねの方が美味しいもん!……でも、まぁ、赤いきつねの方が美味しいって認めてくれるなら、仲直りしてあげてもいいけどね!」


ダメだ、こりゃ。まきが、こんなこと言ったの、みきが聞いたら、絶対にまたケンカになっちゃう。どうしようかn……

「……絶対、緑のたぬきの方が美味しいもん…」

そんなピリピリした声と、後ろから私の洋服をぎゅっと握る感触を感じて、後ろを振り返れば、みきが、むっとした顔でまきのことを、じとーっと見つめている。


一触即発。

そんな言葉が私の頭をよぎる。


「ちょっと、ストーップ!」

視線がばちばちと火花を散らしている二人の間に割り込み、二人の背丈まで屈む。


「ねぇ、二人とも?ママにいいアイデアがあるんだけど、聞いてくれる?」

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