第222話 魔王の攻撃

 俺は艦隊全体に魔力障壁を展開した。

 強烈な魔力攻撃が俺の障壁を襲う。


「なんていう重さだ。こんな攻撃知らないぞ。きっと古代魔力だな」


 地獄の業火に匹敵する魔力攻撃を3発か。やはり、上空にいるのは魔王か。

 最新鋭艦の主砲すら届かないほどの高高度を自由に飛ぶ怪物。

 さらに同時に古代魔力を3発連続で撃てる規格外の魔力キャパシティ。


「やばい。これはもたないぞ」


 障壁の最も外側を襲っていた古代魔力が激しさを増す。障壁の一部が崩壊した。


 貫通した魔力が外側の艦を襲う。


『駆逐艦ゾーフィル及びアーレン被弾、炎上しています』

『すぐに救助活動を!!』

 くそ完全には防げなかったか。


 そして、もう一つの赤い柱が魔力障壁を崩壊させようとしていた。


「まったくすごすぎるな。アレクや、こっちは任せろ! お主は中央の攻撃に専念しろ」

 そう言うと会長は、雷魔力を駆使して敵の攻撃に接近した。


 攻撃の真下まで移動すると魔力を解放し、魔王の攻撃を相殺する。


 会長の発言的にもうひとつは俺がどうにかしろということだろうな。


 だが、圧力は半分に減った。これならいける。


 俺は障壁の濃度を極限まで高めて魔王の攻撃を受け止めた。


 そして、障壁に吸収させることでそれを無効化する。


 俺を心配して見守ってくれていたナターシャに確認する。


「上空の敵はどうなった?」


「消えました。奇襲だけが目的だったみたいです」


「よし、とりあえず安全だな」


 俺は副会長達が待つ部屋に戻った。


 ※


「あれが伝説級冒険者かよ。あのふたりがいなかったら俺たちは艦隊ごと吹き飛んでいたぞ」


「魔王ってやつも恐ろしいけど、あの二人の次元も異次元だよ。あの巨大な攻撃を相殺できるなんて……」


 ※


「被害は?」

 さきほどまで勝利に浮かれていた面々は沈痛な表情になっていた。


「残念ながら駆逐艦が2隻がやられた。魔王軍の損害に比べれば軽微かもしれないがな」


「救助は進んでいますか?」


「ああ。だが、艦が一瞬にして爆発したせいでかなりの犠牲者が出てしまった」


 副会長は無念そうな表情だ。


「だが、ここで止まることはできない。もう、我々のさいは投げられたしまったからな。ここで引いてしまえば、それこそ犠牲者が浮かばれない」


 会長も帰還して皆を引き締めた。さすがは現役最年長の冒険者だ。強い意志を感じる。


「そうですね。ナターシャ君とマリア君に上空まで警戒をお願いして、決戦に向かいましょう。戦力的にはこちらが有利です。それに、我々の切り札は無傷ですからね」


 ※


 魔王の攻撃をとりあえず防いで1時間後。


 俺たちは作戦の最終確認をするために会議室に詰めた。


「それでは最後の作戦の確認だ。まずは敵艦隊と遭遇したら艦隊は二つに分かれる。このグランド・アレクとそれ以外の艦隊だ。残存艦隊の指揮は、ヨシフ官房審議官に任せる」


 最初に聞いた時はずいぶんと大胆な作戦だと思った。


「そして、この戦艦が単騎で敵艦隊に殴り込みをかける。残存艦隊は、あくまでグランド・アレクの援護に専念し突撃を助けてくれ」


「しかし、ずいぶんと大胆な作戦だ。グランド・アレクが撃沈されれば主要幹部は全滅するぞ?」

 会長は苦笑いした。


「そこらへんは大丈夫でしょう。このグランド・アレクは1隻で戦況を変えてしまう能力を持つ艦ですから。古代魔力以外の攻撃ではほとんどダメージを負わないでしょうし。こちらが囮のように動けば攻撃は集中する。他の艦への被害は最小限で済ませることができる。こちらは敵の攻撃を迎え撃つ戦力も整っている。いけるはずです」


「ああ、キミの作戦立案能力は史上屈指だろうからな。そこは信頼しているよ」


「おそらくこの最新鋭艦とまともに撃ち合えるのは、魔王軍の総旗艦くらいでしょう。それも艦対艦の状況ならこちらの方が有利だ。だから魔王本人がさっきのように直接出てくるしかない。そこを狙い撃つ」


 みんな緊張感が高まっていく。先ほどの戦闘でもこの戦艦の実力ははっきりわかったはずだ。

 副会長の策は、奇策だが、最も勝算が高いものだろう。


 王道の正面衝突では、こちらも僚艦を守るために戦力を割かなくてはいけない。ならば、戦力を集中させて一気に投入する。奇策に見えて戦力の集中運用を目指す王道戦略だった。それでいて、相手の思考を超えていく作戦。


「副会長? そのまま魔王軍総旗艦を目指して敵陣を中央突破し、魔王軍総旗艦相手に殴り込みをかけるってことでいいんですよね?」


「ああ、アレクの言うとおりだ。作戦はいたってシンプルだろう? こちらの人員と持っている戦艦の能力を最大限生かすんだからな」


 本当に希代の将軍なのに、副会長の作戦はシンプルなものが多い。だが、シンプルなものほど失敗しにくいのものだからな。副会長は常に優勢な状況を作るのがうまい。事前準備をしっかりして補給路を確保し戦力を集中させる。


 そして、予定時刻はやってきた。

 エカテリーナの予想は的中した。


「敵艦見ゆ」


 その報告はすぐに俺たちに伝わった。


「各員、戦闘配置」


  ギルド協会陣営、魔王軍陣営双方が持てる戦力をすべて投入した大海戦の幕が切って落とされた。


 後にイブラルタル沖海戦と呼ばれるだろう史上最大の海戦がはじまる。

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