第145話 感謝祭の夜にイチャイチャ

 俺たちは、ナターシャの自室に戻ってきていた。

 一応、2つのベッドが用意されていて、俺たちは別々に寝るように配慮されていた。


 にしても大きなベッドだ。

 こんな大きな寝具が、2つ入ってもまだ、広々としているのは、ナターシャが本当に伯爵令嬢ということを俺に突き付けてくる。


 責任重大だな。


「結局、肝心なことはわからずじまいでしたね、先輩?」

「いやでも、手掛かりは教えてもらったんだし、かなり前進したんじゃないかな?」

「秘密結社と言われても、さがせないじゃないですか~」


 そう言って、ナターシャは、顔を枕にうずめて嘆いた。


「話は変わりますが、先輩。おぼえていますか、わたしたちが感謝祭を一緒に過ごすのは今回が2回目ですよね」

「ああ、おぼえているよ。でも、あの時は戦争の後だったから、あんまりゆっくりできた感じはしなかったけどね」

「バル攻防戦。先輩たちの名前が初めて世界にとどろいた時でしたもんね。私は後方医療支援でしたけど……」


 西大陸の要衝であり第3の都市であるバルに魔王軍西方師団が襲来し、血で血を洗う大戦争になった。


 俺たちは、A級冒険者として戦争に参加し、数万の戦力に取り囲まれたバルを救援したんだよな。


 副会長ともあの戦争で初めて会った。彼は第7艦隊を率いて、魔王軍の海上封鎖を突破し、戦局をひっくり返した。さらに、司令官としては、戦争の最終盤で全軍を指揮して、魔王軍西方師団を包囲殲滅。


 俺とニコライも大乱戦の中、魔王軍幹部を討ち取る大戦果を遂げた。

 懐かしいな。


 激戦の中で、俺は大けがを負ったので、戦争終了後に後方に運び込まれて、医療活動の中心的な存在になっていナターシャによって治療されたんだよな。戦争終結が12月31日。感謝祭の最終日だった。


「あの時のナターシャは、まるで神様の使いみたいに、気高くて天使みたいだった」

「ほめ過ぎですよ。でも、あの時は、本当に心配したんですからね」


 そう言って、ナターシャは俺の手を軽くつねった。


「ごめん。いつも助けてもらってばかりだな、ホントに」

「大丈夫ですよ、それは私もですから。そうだ、知っていますか、先輩?」


「なにを?」


「よくある言い伝えですよ。感謝祭の最終日、恋人同士が手を繋ぎながら、新年を迎えると、ふたりは永遠に幸せになるんですよ」


「そうなんだ……」


 あえて、それに続く言葉を俺は言わなかった。

 言わなくても、お互いにわかっているから。

 ナターシャは、あえて回りくどく言っているんだ。


 、と。


「ちなみにですが、私はその伝説を信じています。だって、今、とても幸せですから……」

「えっ……」


「だって、バル攻防戦の後に、先輩を治療するために、私はずっと手を握っていましたから、ね」

 後輩は、そう言って笑った。

 

 ※


 ひとつのベッドで……


 ※


「やっぱり、この季節は寒いですね」

 ナターシャは、深夜にそつぶやいた。


「まだ、起きてたのか?」


「先輩こそ……独り言のつもりでつぶやいたのに、反応しないでくださいよ。ビックリするじゃないですか」


「それは理不尽だろ?」


「反応してくれると思わなかったから、照れ隠しですよ」


「そうか」


「不思議な気持ちです。ずっと使っていたこの部屋に、先輩と一緒に寝ているなんて……」


「俺も緊張してる。なんかナターシャのにおいにずっと包まれているみたいだから……」


「なんですか? ちょっと変態みたいなこと言ってませんか?」


「しょうがないだろ。女の子部屋なんて、初めてだから……」


「小さい頃にエカテリーナさんと遊んでたんじゃないんですか~」


「そんな小さい頃の話じゃねーよ」


「へー、じゃあどういう話なんですか? 詳しく教えてくださいよ、く・わ・し・く」


 ナターシャめっ! わかって言ってるな。

 エカテリーナの部屋に入ったことはあるけど、そんなのまだ俺が一桁の年齢の時のことだぞ。異性としてエカテリーナを意識してねぇよ。


「なんでもない、失言だ、忘れてくれ」


「そうなんですか。てっきり、異性として意識したのは、私だけだと思っていたんですが……違いましたか?」


 やっぱり、わかってるじゃねーか。


「……」


「無言はイエスですね。先輩、わかりやすーい!」


「ナターシャはどうなんだよ? 俺以外に意識した男とかいなかったのかよ?」


「愚問ですね。何度も言ってるでしょ。私は、初恋をこじらせているんですよ。だから、そんな人いません」


 言い寄る男はたくさんいただろうにな。

 そう思うと、ナターシャは本当に一途なんだよな。


「そりゃどうも」


 でも、正直に言ってもらっても恥ずかしいものは恥ずかしいな。嬉し恥ずかしい。


「言ってる私まで恥ずかしくなってきました。先輩のせいですよ!!」


「今日、2回目の理不尽をありがとう」


「恥ずかしくなってきたら、寒くなってきました……」


「ふつう逆じゃない!?」


「細かいことはどうでもいいんですよ! そっちの布団に行ってもいいですか?」


「えっ!?」


「寒くなってきたから、そっちの布団に行きたいんです」


「……」


「嫌、ですか?」


「いいよ」


「ありがとうございます」


 そう言って、彼女はゆっくりと俺のベッドに移動する。月の光に映し出された彼女は、ドキリとするくらい美しかった。


「やっぱり、ふたりだと温かいですよね」


「寒いのは、口実だろ?」


「秘密です……いじわる」

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