第85話 逃亡・勇者と大罪人・賢者
―ニコライside―
俺はずっとトップを走り続けていた。学生時代、ルーキー時代、そして、ついこの前まで……
俺はずっとずっとトップだった。
世界の最高戦力としてみんなに頼られて、アレクのような子分がいて、世界ランク1位の冒険者にもなった。世界最強の俺には魔王軍幹部でも敵わず、立ち塞がるやつらはみんな、剣の
実力がある俺は選ばれた者なんだ。だから、何をしても許される。そう思っていたし、愛しいエレンもそう言ってくれた。
ずっと相棒だったアレクは、増長して俺の大事なエレンに暴言を吐いた。あいつは選ばれた者じゃないのに、勘違いしてしまったんだな。俺はあいつのことを考えてパーティーを追放したのに、勘違いしたあいつは俺の権威を傷つけた。
すべて、あいつが悪い。
あいつが悪いから、俺は不当に扱われているんだ。病院に幽閉されて、犯罪者に仕立て上げられてしまった。世界の英雄である俺が、犯罪者となってギルド協会に追われている。こんなバカなことがあってたまるか!!
復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる。
俺は逃亡生活中、ずっとそう考えていた。
次に会ったら、絶対に……
「ニコライ! そっちに魔獣がいったわよ」
エレンの声が聞こえる。俺は、彼女の声によって現実に戻る。
そうだ、今は戦闘中だった。
俺は慌てて、武器を構えたが、魔獣の攻撃には間に合わなかった。大型猿獣の攻撃によって、俺は吹き飛ばされる。
嘘だろ、痛ェ。どう考えても、あいつはB級クラスの魔獣だ。格下の魔獣なのに、攻撃のヒットを許したばかりか、俺は情けなく地面に叩きつけられる。口の中に、土の味と鉄の味がにじんでくる。
あの時と一緒だ。俺が、アレクに負けた時と同じだ。どうしてだ。どうして、うまくいかなくなってしまったんだ。アレクと一緒だったら、こんなことにならなかったはずなのに……
「クソがアアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアア」
俺は魔力を解き放って、猿を吹き飛ばす。魔力と共に、アレクへの未練を断ち切った。
泥まみれになりながら、俺は屈辱に震える。
※
―エレンside―
最悪だ。どうして、私がこんなに目にあわなくちゃいけないの!?
ギルド協会から逃げるために、人目を避けて移動。どこから情報が洩れるかわからないから、数日ごとに教団の隠れ家をひっそり移動しなくてはいけない。それも移動ルートに整備された道は使えないから、森や沼を突っ切らなくてはいけない。
そのようなルートでは、昼間のように魔獣に襲われることなんて日常茶飯事。
水だって貴重だから、移動によってついた泥は、次の隠れ家につくまでそのまま。
私の綺麗な顔や肌は、泥や戦闘などの厳しい逃亡生活でボロボロ。
挙句の果てに、隠れ家はドンドン潰されている。きっと、ギルド協会の追っ手にやられたんだ。このままでは、私たちは隠れる場所もなくなれば、いつかはギルド協会に捕まって、みすぼらしい姿を観衆に見られながら引き回されて、形だけの裁判を受けることになる。
そして、待ち構える裁判の結末は、きっと、
ニコライはもしかすると減刑されるかもしれないけど、私は間違いなく処刑されて、無様な姿をさらされるのは間違いないわ。
選ばれた者だったはずの私は、今や足のマメは潰れて、ドロドロになって捕まって死刑になるんじゃないかと怯えるばかり。
本当に惨めだわ。
ブオナパルテを失ったのが痛かったわ。ニコライは結局、口先だけ! 肝心の時に、アレクには勝てないし、本当に使えない!!
アレクの補佐がなければ、あんな奴、B級の獣にも一発もらう情けない奴だとは思わなかったわ。
「痛っ!!」
足に激痛が走る。もう、歩きたくない。フカフカのベッドで眠りたい。温かいお風呂に入りたい。世界の英雄の妻として、称賛されたい。
少なくとも追っ手に怯えて、床で眠るなんて、私に似合わない!!
こうなったら、一発逆転の賭けにでるしかないわ!
使えないニコライがどうなったって構わない。私は、みんなにチヤホヤされる存在になりたいだけよ。このままでは教団の使える駒は壊滅する。
ジリ貧になる前に、私は覚悟を固めた。
これは復讐よ!
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