第14話 決闘の後

「お二人とも大丈夫ですか。すごい爆発音がしたので、心配になって来てみたのです」

 しばらくすると村長さんとベール先生がやってきた。やっぱり、さっきの魔力爆発は轟音すぎたか。ニコライを倒すために、ちょっと本気で魔力を使いすぎた。


 このふたりには、本当のことを話してもいいのかもしれない。ナターシャにアイコンタクトをすると、うなずいてくれた。


 だよな、この村には俺たちもよくしてもらっているからな。隠し事はできる限り少ない方がいい。

 俺は内密にしてくれと頼んで、ことの詳細をすべて説明した。


 ※


「なんと、勇者ニコライ様が乱心して、アレク様に決闘を挑んできたんですか?」

「はい、ただこれはギルドの重大な規約違反なので、ご内密にお願いします」


「ですが――非は完全に、向こうにあるのではないのですか。いくら勇者とはいえ、我が村の英雄のアレク様・ナターシャ様に危害を加えようとするなど、許されるものではありません」



「そうですが、ニコライは人類側で唯一の光の魔術魔法の修得者です。彼の存在無くして、人類は魔物に対抗できません。ここは大局的な見地で、不問にしたほうがいいんですよ」

「しかし……」


「あいつ、本当は、すごいイイ奴なんです。ただ、少し熱病みたいなものにかかっているだけで。お願いします、俺の親友にもう一度チャンスをあげてください」

「わかりました。この事は他言いたしません。しかし、勇者と戦った割には、アレク様は大きなケガとかはなさっていませんね」


「ああ、それならそうですよ。先輩は、ニコライの攻撃を全部かわしてましたから」

「「全部かわした!?」」

「そうですよ~ それも、あの男の奥義も全部、見切ってましたからね~ もう、私の婚約者、強すぎですよ~」


 どうして、ナターシャはそんなに話を盛るんだ? あれ、紙一重だったんだよ? 本人としては?


「奥義というと、まさか――"オルガノンの裁き"のことですか? あの魔王軍幹部ですら、打ち破れなかった戦略兵器を……」

「そうです、赤子の手をひねるみたいな感じで、11連撃全部かわしてました~ みんなにも見せたかったな~ その姿、本当にかっこよかったです」


「「ひぃー」」

 ご老人たちは言葉を失って、奇声を発していた。たしかに、ニコライの"オルガノンの裁き"は、新聞などを通してかなり有名になっていたから、名声がひとり歩きしている側面もあるんだけど――


「でも、どうしてもわからないんです。先輩、教えてください!」

「ああ、魔力爆発のことだよな」


「はい、ニコライのセイントアーマーが粉々に砕け散ってしまうくらいの爆発を引き起こしたのに、爆発や延焼面積がかなり制限されていましたよ。普通に考えて、私たちだって巻きこまれるはずの威力でしょ? それに、先輩が魔術の詠唱をしている様子もありませんでした。なのに、爆裂魔法の中でも最高位以上の威力を持った爆発をどうやって引き起こしたんですか?」


「さすがは、魔術職の専門家だな。質問が鋭いよ、ナターシャ。あれには、ふたつのトリックがあったんだよ。バスターソードと、俺の左手」


「剣と左手?」


「実はな、左手に魔力をこめていたんだ。補助魔法で、バリアみたいなものを作れるやつ」

「ああ、あの防御魔法ですね。一時的に、指定空間の魔力干渉を弱める効果が―― あっ、そうか」


「そう。俺は、ニコライの攻撃を避けている間に、地面を触って、魔力干渉する空間をあいつの周りに作り上げたんだ」

「爆発のトリガーは、先輩の魔法剣。今度は、爆裂魔術をしこんでいたんですね。そして、動きながら、空間内に剣が吸収できなかった余りの魔力を充満させていた。最後の爆発が、限定された環境で威力が増強されるように――」


「さすが、ナターシャ。そう、それが俺のトリックだ。ニコライの最後の連撃に乗じて、剣は俺の手から離れて溜まっていた魔力も暴走し、充満していた魔力が爆発するトリガーになる」

 あとは、攻撃をかわすふりをして、爆発の影響範囲から脱出してしまえば、結界内でニコライだけに爆発のダメージが集中する寸法だ。


 俺たちの安全を確保して、ニコライだけを倒すにはこれしかなかった。真正面から行っても絶対に勝てないし。


「なに、さらっと、天才的なことしてるんですか、先輩のばーか」

「えっ?」

 なんで、俺怒られるの? 頑張ったのに?


「なんで、怒られるのって顔してますね。教えてあげますよ。簡単に、言ってくれますけどね。先輩は魔力を両手で使っているということですよね?」

「うん」


「誰でもできると勘違いしているようなので、教えてあげますよ。そんなの普通出来ません。私はもちろん、魔術ランキング1位のあの女賢者も絶対にできないんです」

「えっ?」

 そういえば誰もやっているところ見たことがないかも。魔法剣の練習中に偶然できるようになって、誰にも言わなかったけど――


「それが歴史上で、できたひとは、私の知る限りふたりです。先輩と、魔王軍四天王筆頭冥王を打ち破った伝説級賢者ジジ様のふたりだけ!」


「「「ええええー」」」

「なんで、本人が一番驚いているんですか、まったく。これだから、天才は困るのよ」

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