始まりがあれば終わりがある
第27話 いつだって突然に
シオンは次の日から配信を再開した。理由は光から目を逸らして別の事に集中したいがためだ。
だが、最早配信を始めた当初の思いなどそこには無く、あまりの変わりようにリスナーたちは心配と困惑の声を上げていた。
「今日の配信はここまでにします。ありがとうございました」
淡々と告げられる配信終了の挨拶。まるで感情を失ったかのような声色は、以前のシオンとは180度違っている。前はどちらかというと当たりの強いツンツン系でありながら、清楚感も醸し出す詐欺のような性格をしていた。それが今や根暗のヤンデレのようだ。
留美もそんなシオンを心配してか何度かコラボしようと持ち掛けたようだったが、シオンはすべて断ってしまった。徹底的に誰かと関わることを避けようとしているのだ。消えた時のために。
「ねえ静流さん。シオンさんは大丈夫なの?」
シオン以外が集まる朝食の席でそう声をかけて来たのは意外なことに夏海だった。普段の様子から見ても仲が良いのか悪いのかよく分からない関係性を築いていた夏海とシオンだったが、いよいよ夏海すらもシオンの事が心配になって来たらしい。
あれからシオンは実体化を保つために何度か俺の前に姿を現した。見た目は明らかに大丈夫そうでは無かったが、「大丈夫か」と聞くと必ず「大丈夫」と返って来るので本当のところどうなのか計りかねてしまっている。幽霊と人間では違うところが多いので、一概にそうだと断定出来ないのだ。
「本人は大丈夫だと言ってるけど、どうだろうな」
シオンは光に怯えている。それが何なのかは死んだことが無い俺には予想することしか出来ない。あの怯えようだ、きっとこの世のどんな光とも違うのだろう。
それにしても、もしシオンが見ている光が幽霊なら一度は見るものなら、他の三人に聞いてみれば対処法も分かるかもしれない。どうせなら今聞いておいた方が良いだろうか。
「牧野以外の3人に聞きたいんだけど、お前たちは死んだ時に光を見たりしたか?」
「光、ですか? 私はそもそも死んだときの記憶が無いので分かりませんけど、お2人はどうです?」
「んー私も崖から落ちて気づいたら幽霊になってたから分かんない」
「……私は見たことがあると思う」
アカリと留美は見たことが無いそうだが夏海は見たことがあるらしい。という事は夏海は一度成仏しかけたという事になる。
「それは今も見えてるのか?」
「ううん、今は見えない。しばらくしたら消えたから」
「そうか、それはたぶん成仏する時の光だ。それに入ればお前は成仏出来てた。なぜ入らなかったんだ?」
そう言うと、夏海は目を逸らして言いずらそうな顔をした。
「それは、その……エッチなことを見るのに夢中になってまして」
「はあっ!? 色情魔かお前!?」
「そんなわけないでしょ! 思春期だったんですよっ!」
そうか、考えてみればこいつ中学生か高校生か何かだったな。それなら……いや流石にシオンがあんなになるような光を見といて色に走るとか無いだろ!
待てよ? てことはエロいことを考えれば光に怯えなくて済むのでは……?
「ふーむ」
このままシオンが沈んでいるのはこの家にとっても良くないし、何より成仏するにしろ何にしろしばらく時間が欲しい。平穏に過ごせる時間が。
「なんだかなぁ」
しかしエロか。シオンにどういえばいいかなぁ。幽霊にもそう言う感情があるのはアカリと夏海の話から分かっているんだが、それにしたってこの二人より性欲ありそうにないんだよなぁ。
最近しずくからシオンへの連絡も頻繁に来るようになった。シオンはスマホの電源を切って連絡を絶ってるようで、俺の方に結構な数のメッセージが来るようになった。いつの間にか仕事用ではなく個人用のアカウントで連絡してくるようにもなっているし、近いうちに突撃してきそうな雰囲気だ。
すぐにでもシオンを何とか安定させておきたいな。突撃されたら間違いなくシオンが揺れる。精神的に不安定な今は会わせるのは得策じゃない。
「どうすっかなぁ。なあ、お前らシオンの性癖とか知らない?」
「知るわけないでしょ! 何言ってるんですか先輩! 子供も居るんですよ!」
「あー、わりわり。だよなぁ」
こうなりゃ俺が直接行ってごにょごにょするしかないか。あまり気は進まんがな。仕方ない。
俺は、幽霊とそう言う行為をするのは全く考えても居なかったし、これからもするつもりは無かった。アカリのアピールもずっと断って来たんだ。最近は暑くなってきて一緒に寝てる時にひんやりした体が気持ちいいなとか思いながらも我慢していたんだ。
だって最初の相手は普通の人間が良いだろ。幽霊じゃなくてさ。悪いか?
でもこういう事態になったら仕方ない。自分で発散できるならそれでいいさ。とにかくシオンの部屋に突撃してみるか。
とりあえずノック。
「おいシオン。居るか?」
「……」
「居るな。入るぞ」
「ちょっと。入っていいなんて言ってないわよ」
「知ってる。でもさ、もう面倒くさくなっちまって」
「そんなの知らないわよ。さっさと出てって」
「嫌だ。それよりさシオン。お前の性癖ってなんだ?」
「……は?」
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