東日本選手権

去年は関東選手権のみで終わっていたが、今年は東日本選手権に出ることが出来た。


いつもの関東を含め北海道や東北、新潟から参加している選手と戦うことになる。

地域こそ増えているが、その各地域の精鋭たちということで大会のレベルは自ずと上がっている。


ここで一定の順位に入ると、全日本ジュニア選手権への参加が可能となる。


関東選手権では優勝してきたが、今回は何位になれるのだろう。


ショートプログラムはノーミスをし、なんと「45.50」を出して再び一位通過した。


しかも安村コーチはこの時リリィのショートプログラムの点数が、全国で見てもトップクラスであることに気付いていた。


そもそもジュニアのショートプログラムで40点台は現時点ではかなり高いのである。

もちろん今後技術点等にインフレが起きてさらに上がる可能性もあるが、少なくとも2012年現在においては本当に高い点数を取っている。


昨年全日本ジュニアを優勝した松坂朝陽が確かショートプログラムで50を少し超えたくらいだったか。


驚く弟子を横目に安村コーチは少しだけ期待の眼差しを向けた。


フリーは初めての最終滑走。

滑り慣れたであろう「ダッタン人の踊り」


序章のフルートの音から始まり、滑り始める。


序章の終わり間近で、最初のジャンプでトリプルループを単体で跳ぶ。


その後娘たちの踊りに入りトリプルフリップ+トリプルトウループのコンビネーションジャンプ。


これも自分でも気持ちがいいほど綺麗に降りられた。


自分の体が思うように動くようになった、しかもまだまだもっとできるようになる気がする。


ずっとしがみついていてよかった、心からそう思う。


全員の踊りに入ったタイミングで足換えコンビネーションスピン。


キャメルスピンから入りドーナツスピンの後軸足を変えてシットスピンの後、そのままI字スピンをしストレートラインステップへと入る。


これも何度も自分で動画を取り、他の上手い人に真似をしてもらって綺麗な動きを見てなんとか完成度を高めてきた。


最後はフライングキャメルで締め、ノーミスで終わった。


さぁ、全日本ジュニアに行けるだろうか。


『現在の順位は第一位です』


最終滑走なのにこのアナウンスが聞こえた、それはつまり...


思わず安村コーチにもたれ掛かる。そんなリリィを安村コーチはそっとその肩を撫でた。


バックヤードに入った時。


「先生去年「いきなり全日本行けるかもしれない」って言ったよね...そんなまさかって思ったけど...現実になっちゃった...」


それを聞くと安村コーチは少し笑い


「2年前リリィちゃんの意識が変わった時に「これは成長ポイント来たな、これ逃したら絶対ダメだ」と思ったの」


安村コーチが明確に厳しくなった時期を思い出した。


「だから去年の時点で「あともう一年、明確に結果が見えるな」と思ったら...思った通り、全日本で戦う資格のある選手になったわね」


もし全日本ジュニアで5位以内に入った場合、シニアの全日本への出場が認められる。


でも日本中の精鋭が集まる中での5位以内はさすがに現実味が無さすぎる。


昨年ワンツーとなっていた聖子や朝陽はシニアに行ったため今年は出ないが、ジュニアグランプリシリーズに出場した選手が複数人いる。

というかまちの出場が決まっている。


恐らく今年の優勝候補の一人はまちであろう。


せめて来年ジュニアグランプリシリーズには出させてもらえるような結果を出そう、そう決めて横浜に戻った。

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