電池切れ
試合が終了した。
会場から出た後は再び黄昏のスケートリンクに向かうこと無く一直線に帰宅し、特に何も特別なことはないままいつもより早い時間に眠った。
夢を見る。
スケートの大会会場だった。
これから本番を迎えるのだろう。
リリィもこの大会の参加者として順番待ちをしていた。
周りの歳の近い女の子たちはみんな衣装に着替え、ウォームアップをし、順番になればスケートリンクへと出て演技をする。
その順番がリリィにも迫っていた。
しかし、手ぶらだった。
スケート靴も衣装も何も持っていない。
そして何よりもまず滑るべきプログラムすら持っていない。
近くに親もいない、安村コーチもいない。
ただ一人何もないまま、迫る順番に怯えながらどうにかしようと奔走していた。
目を覚ますと午前3時。寝たとは思えない疲労感が重くのしかかっていた。
目を覚ました瞬間に頭をよぎるのは、「もうスケートをやめてやろうか」ということ。
こんなことは今まで一度もなかった。
今までの夢が全て剥がれ落ち、大したことの無い、名前も知られず、世界へ行くことも無い選手なのだということを改めて叩きつけられた。
何人が全日本を目指して、そして出られぬままスケート人生を終えるのか。
自分はその出られずに終わる選手のうちの一人なのだと思えて仕方がない。
むしろ今までよく折れなかったなと、我ながらどのようなメンタルで昨日までやってきたのかと天井を見つめながら思う。
「お母さん...私今日あんま調子良くないから朝は休むよ...」
そう起こしに来た母に言って、再び眠りについた。
二度寝なんてしたことがなかった。
いつも同級生達よりもずっと早い時間に起きて朝練へ向かっていたが、今日はもう体が持ち上がらなかった。
いつだったか筋肉痛で全身が痛かった時の方がまだ体を動かせたくらいだ。
風邪も引かないし、インフルエンザも生まれてから一度も掛かったことがないので体調不良で練習を休んだことも無い。
実際今も体調は悪くないので、学校は普通に行った。
学校は何も変わらない。いつもと同じことをするだけ。
しかし、問題は終わった後だった。
今までずっと学校が終わればすぐにリンクへと練習に向かっていた。
毎日毎日何年もそうしてきた。
しかし、今日はいつものように玄関に置いてあるスケートに必要なものが一式入ったバッグを持って家を出る気力がなかった。
そのまま家へ入り、着替えもせずにベッドへ飛び乗った。
そして、練習の時間になってもそのまま動かずにいた。
練習を休んだのはこれが初めてだ。
怪我も病気もしていないのに。ついて行かなくてはならない家の用事があったわけでもないのに。
「リリィ練習行かないの?まだ調子悪い?」
「....うーん...別に悪くないけど....」
「そう、なら付いてきてくれない?」
そう言うと母は妹の紗奈と共にリリィを家の外へ連れ出した。
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