Awakening
基本すらまともに出来ないのは、基本を正しくやってきていないからであると思い知らされた。
今日は全身筋肉痛になってしまって、リリィは朝から起き上がるのに苦労していた。
だが、それと同時にこんなに長くやっていて今更こんな筋肉痛に苦しむなんてどれだけちゃんとやっていなかったのか思い知らされた。
続けるしかない。どんなに嫌でも続けるしかないのだ。
この世界から追放されたくないのなら。
自分にはまだ世界に行けるだけの可能性があると信じたいのなら。
昨日はあのきつい練習をやっているうちにによって今までよく陥っていた練習中のネガティブ思考がどんどん消えていくのが分かった。
周りを見て僻んで病むくらいなら最初から上手い子やコーチに直接聞けばよかったのだ。
なぜそれにもっと早く気付けなかったのだろう。
それは、周りが天才で自分には才能がないと思い込んでいたからだ。
銀河はその優れた身体能力こそ生まれ持ったものかもしれないが、それ以上に上手い人に対する観察力、そして自身の体をどう動かしたらできるようになるか実証するまで何度も何度も同じ技を繰り返す。
柚樹はスケートがマイナーな地域から来て約一年ですっかりこのクラブのお手本的存在であり、世界でもトップクラスの選手となっている。
でもそれは彼がこの環境にあぐらをかいてエスカレーターのように自動的に上がったわけではない。
まちがやっているのはフィギュアスケートだけではない。水泳、体操、ピアノなど様々な習い事を時間を縫ってやりながら、スケートリンクにいる間は一分だってその時間を無駄にしなかった。
冷生は元々病弱で、練習中や調子が悪ければ本番でも体力がもたないことがある。
練習中に体力が尽きてコーチが心配し氷から上がるよう言ってもまだ「できます」と言って、練習の難易度は下げたとしても続ける。
喘息の発作に襲われて吸入が必要になった時以外は決して諦めて氷から降りることはしない。
聖子は日々自分がどうやれば上手く美しくなれるかを学んでいる。
若干こちらを見下しているように感じるのはただの被害妄想かもしれないが、そうされても文句がないくらい聖子のレベルは高かった。
なら自分は何をしていたかと考える。
言われたことを緩くやって、時間ギリギリまで氷から降りはしないもののなにもせずただぐるぐると目的もなく氷の上を彷徨き、上手い人を目に入れては「どうして自分は...」と嘆く。
「最悪だ......」
自分の悪い所を振り返ると、体の奥底から冷えていく感じがして本当に気持ちが悪い。
習い事の範囲から抜け出せなかったのは自分のせいでしかなかったのだ。
でも受け入れて直すしかない。
そのために何ができるかを見つけないといけない。
とりあえずうつ伏せのまま動けなくなっている身体を濁点が付きそうな呻き声を上げながら起こした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます