苦
「ママの父方の名字だった
「うん。蓮歌さんが児童虐待で訴えて、マスコミにもリークして社会的に抹殺したんだってね」
「……それ、誰情報?」
「蓮歌さんの恋人のテンマさん」
「やっぱり天馬なのね。いつ聞いたの?」
「こないだシーカとあのオジサンに会いに行ったのを、テンマさんに話した時」
天馬=アフィーノ。イギリス国籍の日系イギリス人で、母の恋人だった人。私とヨハンの患った難病を治す薬に出資してくれてた。
幾つかの事業を立ち上げて、掛け持ち社長してるくらい、お金持ち。
実は生前の母とも共同で事業を立ち上げてて、母と天馬の性格はよく似てると思う。どっちも天才肌。
母が亡くなった後も、私の実の父親と協力して私を育ててくれた。私とは血が繋がってないにも拘らず、療養中も完治後も恋人だった母の娘だという理由だけでね。
実は私の父は世界的にちょっと有名なピアニスト。コンサートやアーティストとコラボして、海外で活動する時もある。
そんな時は、まだ一人でお留守番するのには幼かった私の面倒を、天馬が見てくれたりもしたわ。父も天馬も、シッターに預けるっていう選択肢はなかったし、父の両親は生きているらしいけど、疎遠にしていて私も会った事がない。
母には内緒だけど、私の初恋の人だったりする。もちろん天馬が私を女として見た事は一度もないの。母とそっくりな顔立ちでも、駄目みたい。
母の魂そのものに惚れているんじゃないかなって、今は完全に諦めて吹っ切れている。
「相変わらず、天馬は不穏なんだから」
「仕方ないよ。テンマさんは蓮歌さんを傷つけた人間には容赦しないから。それにあながち間違ってないんでしょう?」
「あながちというより、事実ではあるわ。当時のママって十歳にもなってなかったはずなのに」
きっと母のそういう所が、父と天馬が腹黒いって揶揄する由縁なんだろうな。
「小さい時から蓮歌さんは蓮歌さんだったんだなって、僕はむしろ納得しかしないよ」
ヨハンは相変わらず母の信者ね。私も否定はしない。
「それもそうね。まあそんな感じで神継とは一度、距離を置いてるの。地下牢に監禁したり、足に障害が残るくらいの虐待が明るみになったから、公的な機関も間に入った」
「邸宅で火災騒ぎがあったのが、蓮歌さんが助かったきっかけなんでしょう?」
「うん。地下牢のすぐ近くにあった倉庫が出火元だった。危うく地下牢まで火が回りそうになって、その時たまたま屋敷に遊びに来ていたパパがママを助けたのが二人の出会い」
「それ知ってる。その後、煙を吸っただけじゃなく、栄養失調状態で、左足も大怪我してたから、ウタさんが救急車を呼んで虐待が明るみになったんだよね」
「そんな状態のママを、それでも神継の奴らは隠そうとしたみたい」
「最低だね」
思わず、といった感じで吐き捨てるヨハン。
意外ね。ヨハンは私と同じ難病を同じ時期に克服しただけじゃない。意気投合して、親友にまで私達は仲を発展させたのが縁で、天馬の事業にも関わってる。
時々、私抜きで父とも会ってるみたいで、父と天馬それぞれから母の話を沢山聞かされてるわ。なのにそのあたりは詳しく知らなかったのね。
「じゃあ蓮歌さんが母方の
「ううん。ママのママ、私の母方のお祖母ちゃんはとっくに亡くなってたから。ママのお祖父ちゃん、私の曾お祖父ちゃんが引き取るって言ったのを、その時はママが拒否したの」
「じゃあ父方の鬼逆に名字を変えたのは、もっと後だったんだ?」
「そうみたい。経緯はよく知らないけど、ママの実の父親、私の祖父に当たる人がある日突然亡くなって、遺言で全てをママに譲るって書いてあって……」
「はぁ!? 虐待した父親が!? 何で!? 蓮歌さんへの今更の贖罪とかじゃないでしょ!? 絶対、裏があるじゃん!」
私の話を遮るくらい、ヨハンも崇拝する母を傷つけた人間に腹が立ってたみたい。
父と天馬、更にヨハンの三人の母への信仰が根強すぎる。
「ママが言うには、神継の当主は刀が選ぶからだって。刀が選ばない人間が、刀の選んだ当主以外を当主に据えると、呪いが発動するって。冗談だって笑ってたけど、かくしおにを体験した後だと……」
「……蓮歌さん、冗談は言っても嘘はつかない人だから……」
画面越しに、お互い苦笑してしまった。
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