日々減り続ける




 棚を組み立てたら、ネジが四本余った。

 予備かと思ったけれど、説明書を見るとネジはちょうどの数しか入っていないと書かれていた。

 ちょうど帰宅した妻にその話をすると、弾かれたように立ち上がって「すぐ組み立て直して!」と叫ばれてしまった。彼女はいつもこうだ。もう慣れた。

 一通りチェックしたところ、棚に異常はない。これくらいなら大丈夫だと思うのだけど、彼女を怒らせると怖いので、おとなしく指示に従おう。

 一度全てバラバラにして、再度組み立て直した。二時間ほどかかって汗だくになったけれど、二時間なら妻の説教の半分くらい

「さて、困ったな」

 今度はネジが六本余った。

 棚は無事に組み上がったので、そのまま使えなくもない。

「いい加減にして!」

 しかし、妻にネジの件を報告すると、危なっかしくて使えるわけがないと散々怒られた。

「ちゃんと組めるまで、晩ご飯はないからね」

 三十五歳になってこんな仕打ちを受けるとは、と思ったが、やはり逆らうわけにはいかなかった。

 また棚をバラバラにして、組み立て直す。

「そうなのね」

 やはりネジが余ってしまう。今度は八本だ。

 妻に言ってもまた怒鳴られるだけなので、何も言わずに棚を分解した。板の枚数とネジの本数を確認する。過不足はない。

 しかし棚が組み上がると、今度はネジが十本余った。

「はて?」

 根気よく何度も棚を組み直していると、とうとうネジが全て余った。

 一本もネジを使っていないのに、朝日を浴びて棚は凜と立っている。

「うん、立派なもんだ」

 大量のネジを両手に抱えたまま、棚の前で立ち尽くした。

「あ、無事に組み立てられたよ」

 ちょうど妻が起きて来たので、そう告げるしかなくなってしまった。

 妻は棚を一瞥すると「遅かったわね」とだけ言って洗面所に行ってしまう。

 しかたないので、余ったネジをポケットに詰めて、そっと寝室に向かった。徹夜で棚と格闘していたせいで、眠気はピークに達している。

 二階の寝室に辿り着くと、ポケットのネジを全てゴミ箱に捨てて、見えないように上にいくつかの紙くずを敷き詰めた。

 寝る前に風呂に入りたかったけれど、洗面所には妻がいる。全てを諦めて、ベッドに横になった。身体の節々が痛い。やわらかいベッドに沈み込むのと同時に意識も沈んでいく。

 階下から大きな悲鳴が聞こえてきた気がしたけれど、きっと気のせいだろう。

 俺はもう、眠いんだ。

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