リアル脱出ゲーム




 目が覚めると部屋の中にいた。

 それ自体はいい。部屋の外で目が覚めるより、よっぽどまともな状態だ。問題なのは、ここが知らない部屋なことだ。

 おそらくビジネスホテルだろう。どこも似たような間取りなので見当はつく。部屋の半分以上を占めるシングルベッドと壁際の大きな鏡、カウンターのような細いテーブル。ただ、妙にくすんで見えた。部屋のいくつかの灯りが壊れているせいかもしれない。

 さて、ここからどうするか。ポケットに財布はあるがケータイはない。ひとまず廊下に出てみようとドアノブに手をかけたが、まったく手応えがなかった。押しても引いてもびくともしない。学生時代にやっていたアメフトを活かしてタックルをかましても、まったく開く気配すらしなかった。閉じ込められたのか。

 テーブルの上の電話にも一応は手をかけたけれど、繋がるわけもなかった。そもそも、電話線が繋がっていない。どうなってるんだこの部屋は。

 引き出しを開けるとLANケーブルが入っていた。くそ、電話線じゃないのか。その奥には黒いファイル、『一一〇一号室』と書かれたテープが貼られている。ファイルの中身はルームサービスだった。電話が繋がったらサンドイッチでも持ってきてもらおう。

 腹が減ったと思い、テーブルの下に備え付けられている小さな冷蔵庫を開ける。水しか入っていない。だけど助かった。喉も渇いていたところだ。

 部屋の中のドアを開けると案の定ユニットバスだった。浴槽の中になぜかプラスドライバーが落ちている。そういえば、壁に鉄板が取り付けてあった。あれの四隅はネジで留められていたはずだ。

 まあいい、別にこんなもの必要ない。

 靴下を脱いで、財布の中に詰まっていた小銭をじゃらじゃらと入れる。

 即席のブラックジャックだ!

 振り回して勢いを付けてから、思いっきり窓に叩きつけた。盛大な音を立ててガラスが割れる。脱出できるように、二度三度叩きつけて窓からガラスを綺麗に取り除いていると、部屋のドアが開いて仮面をつけた男が慌てて駆け込んできた。

「ちょっと、これはそういうのじゃないんです!」

「うるせえな、どういうのだよ」

 俺を止めようとする仮面の男を力任せに振り払い、ブラックジャックの一撃をお見舞いする。当たり所が良かったのか気持ちよく気絶してしまった。仮面の下は案外特徴のない普通の顔で、知り合いでも何でもない。

 結局ドアから普通に外に出る。近くの部屋を確認すると、俺と同じように閉じ込められた人が六人いたらしい。年齢も性別もバラバラで共通点はどこにもない。

 ぞろぞろと連れだって管理室に行くと、人数分の便箋が用意されていた。それによると、どうやらこの廃ホテルを舞台にして、脱出ゲームが行われるはずだったらしい。異常者め。

 気絶している仮面の男を念のため拘束して、警察の到着を待つ。

 目が覚めたときは、見知らぬ部屋にいるだろう。

 今のうちにそこがどこか教えておいてやろう。その場所の名前は『留置所』っていうんだ。

 脱出できるものなら、してみればいい。

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