第2話

「ジュンコ、あれ!」


 森の中まで来ると、サフラは妖精が示す馬車の姿を捉えた。黒い布切れの様な姿をした魔物が複数体、高そうな馬車を囲むように唸っていたのだった。


「ウウ、ウウッ……!」


 御者台に座っている中年の男は、魔物に襲われたショックからか気を失っているようで、馬車は無防備な状態になっていた。


「貴族の馬車ね。でも、こういう馬車には大抵護衛がついているものだけど……」

「あそこ!」


 妖精に言われて馬車から少し離れたところを見ると、そこには恐怖で足が竦んでしまったのか及び腰になっている若い男と、座り込んだまま「来るな……来るな……!」と繰り返しながら剣を振り回す若い男の馬車の護衛らしき二人組がいたのだった。

 サフラは大きく溜め息をついた。


「やっぱり、私の出番か……。ポル」

「は~い!」


 待ってましたとばかりにサフラをここまで案内してくれた紫色の妖精――ポルが空中で一回転すると、花の形をした紫色のコンパクトが出現する。

 サフラはコンパクトを受け取ると、すうっと息を吸い込んだのだった。


「紫の花の妖精よ。私に力を貸して――フラワーアリスワーニ!」


 紫色の光と共にコンパクトの蓋が開くと、ポルが中に入る。紫色の光がサフラを包んだかと思うと、サフラの姿が変わっていった。

 おさげの赤紫色の髪は頭の上で結ばれて、膝近くまで長さのある紫色のツインテールになり、耳にはアメジストの様なイヤリングが輝く。革靴は白地に紫色のブーツになり、花をモチーフにしたトップスを身につけると、地味な装いのロングスカートが紫と白のミニスカートに変わる。

 サフラが目を開けると、変身前から鮮やかな色をしていた紫色の瞳はより明るさを増し、顔には軽く化粧が施される。


「紫は慈愛の証。花の魔法少女・フラワーアリス。……って、言ってる暇があったら魔物を倒せってね」


 フラワーアリスに変身したサフラは地面を蹴ると跳躍する。


「はぁぁぁ!」


 手から光と共に紫色のスティックを取り出すと、馬車を囲んでいた魔物に振りかざす。スティックが当たった魔物は、紫色の花びらとなって宙に溶けていった。


「大丈夫ですか?」


 サフラは腰が抜けて座り込んでいる若い男たちの前に立つと、魔物たちを霧散させながら話しかける。


「は、はい……」

「ここは危険です。早く安全な場所に避難を!」

「はい!」


 若い男たちの内、一人は馬車の御者台に乗ると、気を失っていた御者の代わりに手綱を引き、もう一人は馬車の側面についている窓から中を確認した。最初こそ馬は怯えていたようだったが、男が何度も手綱を引くとようやく馬は駆け出した。窓から中を確認していた若い男も馬車を追う様にして、木々の向こうに走り去ったのだった。


「これで大丈夫」


 周囲に誰もいなくなると、サフラは息を吸い込む。


「一気に片付ける。……紫の花の妖精よ。私に力を貸して――アリスワーニ・フラワーポル!」


 サフラが持つスティックが剣に変わったかと思うと、剣からまばゆい紫色の光と共に一閃が放たれる。その光に包まれた魔物たちは悲鳴と共に紫色の花びらとなると、浄化されたのだった。

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