第44話 深き衝動

「それってどういうことだ?」

「その……私ここで治験のバイトしてて……その時に聞いたんだけどね」

「ちょっと待って。ここで治験のバイトしてたの!?」

「うん」

「うん、じゃないよ!治験は危ないんだからやめてね!」

「ごめんなさい……」


理由とかも聞きたいが今はそんな時ではないだろう。この子、意外とアグレッシブなんだよなぁ。


「……それで?どんなこと聞いたの?」

「その時には『ここの地下で何かのウイルスを作ってる』って噂を聞いたんだけど……正直嘘だと思ってた」

「えらくアバウトだな」

「うろ覚えだからね……もし本当にウイルスを作ってるんなら、自分達が感染しないようにワクチンを作ると思う」


確かに一理ある。だけど予測にすぎないからな。もし作ってたとしても全部廃棄されてるかもしれない。わざわざ命を賭けてまで探す価値はあるのかと言われると考えてしまうな。


「……それを俺たちがする必要はあるのか?」

「……ないかもだけど……世界を救えそうな状況で何もしないのは……なんか嫌なの」


世界を救うか。かなり壮大な話になったな。……世界を救った英雄というのも悪くはないかもな。


「よし。一旦探してみるか」

「ごめんね。助けてもらったのにまた働かせちゃって」

「別にいいよ。俺はどうせ死なん。それより桃は――」


桃の顔を見る。少し曇っているように見えた。……この子と離れないって決めた直ぐに何言おうとしてんだよ。


「――一緒に行こうか」


桃の顔がパァーっと明るくなった。太陽のように眩しい笑顔だ。元気が出てきた。


肩を鳴らす。あるとしたらもっと地下の所だろう。手当り次第に探してたら、またあの女みたいなやつに襲われるかもしれないからな。


俺は桃の腕を掴んで歩き出した。













しばらく歩いた。この階には人っ子一人いなかった。化け物も職員も。流石におかしい。こんな広いところに誰一人居ないなんて。一体何が起こったんだ。


「……誰もいないな」

「いないね」

「捕まってる時に職員とか見かけなかったの?」

「いや。見かけてないよ」


ん~。わかんない。もう変なことは考えないようにしよう。今はとりあえずワクチンを探すことだけを中心に考えることにしよう。













しばらく歩いているとエレベーターを見つけた。下の階に続くどこにでもありそうなエレベーターだ。周りの色に合わせた白色だがちょっとだけ灰色に近かったので見つけられた。


「これ下の階にしか行けないね」


桃がそう行った。ボタンの所を見てみると、確かに下にしか行けないようだった。


こういうところは基本何か隠されてる。俺はゲームを結構してたから分かるんだ。


「行ってみるか」

「うん」


エレベーターに乗り込む。中も真っ白になっており、廊下よりも狭いので圧迫感を感じた。


ボタンを押すと、下に落ちる感覚が来た。どうやらちゃんと下には行っているようだ。


そういえば違和感がなくて気にならなかったけど、ここには電力が通っているのか。どこかで発電機でも置いているのかな。




扉が開いた。その瞬間、とんでもなく暑い空気がエレベーター内に入ってきた。呼吸をしただけで体内の温度が5度上がったような感覚だ。


「あっついな……」

「なんか蒸し蒸しするね」


状況が状況だったらエロい感じになっていたのにな。ちょっとだけ残念だ。


桃を連れて外に出てみる。外は1面コンクリートの廊下だった。なぜここがこんなにも暑いのかが疑問だ。


廊下の奥に扉があったので進んでみる。暑い。死ぬほど暑い。なんでここにクーラーをつけてないのかが不思議でならない。設計ミスかな。



廊下の奥の扉を開けた。そこは操作室みたいなところだった。近づいてみてみると、レバーやボタンがずらりと並んでいた。


前に貼られてあったガラスを覗いてみる。


「……そりゃ暑いわな」


ここは廃棄物処理場だったようだ。正面から見て右には巨大なアームがあり、その下には大穴がある。中には袋詰めにされたゴミがいくつも捨ててあった。


そして正面から左にかけては溶岩が敷き詰められてあった。下までは約100mはあるだろう。溶岩は沸騰したお湯のようにブクブクと泡を立てていた。


巨大な磁石のクレーンでゴミを大量に取り、それを下に敷いてある溶岩に落とすという設計らしい。なかなか効率的ではある。色々と有害な物を出しそうだが、ここは製薬会社だから対処はできるだろう。


「ここには何もなさそうだね」

「……」


なんか怪しいな。ここら辺に何かがありそうな気がする。


近くにあったロッカーや棚を手当り次第探していく。服やどこにでもあるような本ばかりで、何か手がかりになるようなものはなかった。


「ここ暑いね……一旦上に戻ろうよ」

「……そうだな」


いくら探しても何もない。ここは暑いしさっさと上に戻ろう。


操作室を出ようとした時、ふとガラスの奥の先を見た。下には1面黄色と赤色が混ざったような溶岩が音を立てている。その奥。ここからちょうど向かいの所。そこに扉があるのが見えた。


「ちょっと待って」


桃を引き止める。あっち側に何かある。俺の本能がそう言った。













続く

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