第33話 鎧

「おぉ……来たか」


戻ってみると、既に皆の準備ができているようであった。


「遅れたか?」

「いや、まだやつは来ていない」

「作戦は?」

「ない」

「……どんな姿をしてたのか、もっと詳しく教えてくれないか?」

「えっと……カニが二足歩行しているみたいな感じで……ハサミが鉄みたいだった」


カニか。甲殻類なら外骨格の間に隙間があるはずだ。どんだけ硬かったとしてもそこを狙えば一発で終わるだろう。


「ワン!!」


話していたら横からヒルが出てきた。拷問してる時は会ってなかったから久しぶりだ。


「おぉ~ヒル!元気にしてたか~?ごめんな、会えなくて。ちょっと用事があったんだよ~」

「クゥゥゥン」


ヒルを抱きしめる。すごくいい気分だ。これなら頑張れそうだ。


「よし、皆。覚悟は決まってるね」

「おう」

「当たり前でしょ?」

「結構前から決まってたけどね」

「任せて!」

「ワン!!」


大きく深呼吸をした。


「ヤツを殺して今夜はカニパーティにするぞ」













柱に隠れながら入口の方を見る。今は夜で暗い。月の明かりが玄関を照らしてかろうじて誰が入ってきたかはわかる。1階の柱の数は6本。玄関から見て、縦2本横3本。真ん中の扉に近い所に俺とヒル、右にマギー、左にワイト、俺の後ろの柱にマヤと笠松、の配置だ。


前衛の俺達で相手をして、後ろの2人で援護する……という感じで戦う。入口はここしかないので、この狭い空間内の俺たちが有利な所に絶対に来るんだ。相手が未知数だが倒せる。初めて味方と一緒に戦うからちょっと緊張している。だけど殺る。ハーデストを倒してさっさと桃を助けに行こう。










カシャン、カシャン。

音が聞こえた。鎧を着たやつが歩いているような音だ。扉の方を見てみる。


そこには確かにカニが二足歩行をしたような姿の化け物がゆっくりと扉から入ってくる姿があった。マギーの例え方が上手い。


目はカニのように外に出ており、口は縦になっている。外骨格が真っ黒だ。両手の先はハサミになっており、金属のキラキラとした光沢がある。足は太く硬そうだ。


心臓が鳴る。得体の知れない恐怖感が体を包んだ。殺気というのだろうか。今までにも命を狙われたことはあるが、これほどの緊張感は初めてだった。常に頭に拳銃を突きつけられている気分だ。呼吸が少し乱れた。



両隣の2人に合図をして。化け物の目の前に姿を現した。化け物が俺に気がつく。両隣の2人にはまだ気がついていないようだ。


ハーデストと目が合った。しかし化け物は動かない。なぜ動かないかは分からないが、そのまま一生動かないでいてくれたら助かるんだがな。


矢をつがえてハーデストに向ける。とりあえずハーデストの装甲の硬さを知りたい。俺の弓でどこまで傷が付けられるか。見させて貰うぞ。


指の力を抜いて、矢を放った。狙うはハーデストの頭。多少傷がついてくれれば勝機はあるんだ。










瞬間、矢がに突き刺さった。肋骨の間をすり抜け、矢が肺に穴を空けたのだ。突然だった。


「か……」


声が出ない。突然すぎた。刺さった矢を見てみる。矢は半分に折れており、普通の矢より短かった。つまりハーデストの外骨格に当たって弾かれたということだ。


ハーデストの頭には傷1つなかった。この硬さなら銃弾すらも弾いてしまう。横を見るとすでにワイトとマギーは銃口をハーデストに向けている所だった。


「やめ――」


遅かった。銃口から放たれた銃弾は甲高い音を立てて弾かれた。弾かれた銃弾はそれぞれマギーの脇腹、ワイトの左腕に当たっていた。ワイトに関しては俺が貸したショットガンだったため左腕は全て吹き飛んでいた。


「ガッッッ――」

「なっっ――!!」


2人が地面に倒れた。俺は膝から地面に崩れ落ちた。


呼吸ができない。肺に矢が刺さっているせいだろう。喉に異物があるような感覚だ。呼吸する度に変な音が出る。痛い。痛いがそれよりも苦しい。





ふと前を見てみた。そこにはなんの感情もないような目をした、ハーデストが立っていた。片腕をあげて俺を叩き潰そうとしている。


体を右にずらして、ハーデストの攻撃起動から外れる。ハーデストの手は地面へと叩きつけられた。地面のコンクリートが割れて、破片が飛び散る。


急に動いたせいで酸素がなくなった。肺に空気が入ってこない。大きく息切れをする。まずい――。次の攻撃が来る――。


「楓夜!!」


マヤの叫び声によって体に力が戻った。化け物はアッパー気味の起動で俺にハサミを叩きつけようとしている。


背中に力を入れて後ろにブリッジをするようにして避ける。しかし肺に空気が入ってない状況でそんなに素早い動きはできなかった。




化け物のハサミが俺の顔を切りつけた。それが俺の右眼が見た最後の景色だった。


右側の視界が消えた。真っ暗になった。痛いの感情より困惑という感情が俺の頭に出てきた。なぜ消えたのか。なんで消えているのか。答えが出るのには時間がかからなかった。


その瞬間に痛みがどっと来た。痛い。痛い。斬られた場所が焼かれているような痛さだ。熱い。熱い。痛い。


右手で右目を抑える。焦りが出てきた。次の攻撃が来る。さっきの所からほとんど移動していない。それならもう一度攻撃が来るはずだ。この視界不良の状態だったら攻撃を避けられない。


ハーデストの方を向いた。ハーデストは既に攻撃の体勢に移っていた。ハサミをめいいっぱい開けて、俺をその大きなハサミで切ろうとしている。


体が動いてくれない。呼吸ができない。酸素が回らない。ハーデストのハサミが俺の方に向かってきた。













続く

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