第29話 悪夢の夜
――3日後
あれから3日が経った。俺はログ達と一緒に暮らさせてもらっている。傷の手当を桃にしてもらったり、食料をみんなで分け合ったりして、なんとか今を生きていた。
「俺には疑問があるんだ」
そんなある時、ログが言った。桃は俺の腕に抱きついたままだ。冬ではないが暖かくて幸せだ。
「まず、ゾンビは何で私たちを感知しているのかだ」
「そりゃあ匂いとかじゃないのかな?」
「だとしたらここら辺にゾンビがいないことの説明がつかない」
「まぁ確かにそうだね」
「そもそもゾンビ自体に謎が多い。楓夜ならよく分かるだろうが、化け物は絶命すると灰になるんだ」
「……あ、ゾンビは灰にならないや」
「そうだ。ゾンビはその場に死体が残るんだ。これも謎だ。更にもう1つの謎がある」
ログが立った。窓があったであろう付近まで歩く。みんなもログについて行った。
「空を見てみろ」
言われるがまま空を見てみる。空は現実とは思えないほど清々しく晴れており、まるで今の終末世界が嘘のように綺麗だ。小鳥のさえずり、爽やかな風の音。全てがいつもの日常のように軽快に鳴り響いていた。
この状況の何がおかしいのか。確かに今の状況には合ってないが……ん?あれ?
「……小鳥?」
なんで小鳥はいつも通りなんだ?なんで何もないかのように飛んでいるんだ?人類が一晩で壊滅するようなことがあったのだ。普通は他の動物にも影響が出るはず。
「そうだ。この状況は人間にしか起こっていない」
「……でも俺は狼にあったぞ」
「おそらくその狼は普通の狼だ。ヒルくんも普通の狼だし」
「え!?」
ヒルの方を見る。俺の隣で丸まって寝ているようだ。寝顔が可愛い。
「ヒル……お前普通の狼なのか……」
「私が会った人間以外の生物は全て普通だった。……最初はウイルスが蔓延したのかと思ったがもしかしたらそうでもないかもしれないな」
確かに俺もなんとなくウイルスかと思っていたが、何か色々とおかしいな。分からないことだらけだ。
「……考え事してたら頭が痛くなったわ。そんなことを考えるよりも、今の食料問題を解決する方がいいんじゃない?」
「……そうだな。変なことに付き合わせて悪かった」
ログがタバコに火をつけた。
「今日はここのスーパーに行く」
ログが地面に広げられた地図に指を指した。そこにはグリコスーパーと書かれている。ここから結構離れている場所だ。
「チームAが俺とバジルと笠松。チームBがハンガーとマヤと楓夜とヒル。チームCがマギーとワイトと桃だ。チームAとチームBがスーパーに突入して、チームCが外で待機。この作戦で行くぞ」
「OK!」
食料の調達に行くらしい。できれば桃と一緒のチームになりたかったが文句は言えない。
みんなで準備をしているとワイトが何も持っていないことに気がついた。
「武器を持ってるのか?」
「僕っちは持ってない……もう弾薬切れた」
「なら俺の使っていいぞ。人から借りた物だから壊すなよ」
俺はバッグからウィンチェスター銃と弾を取り出してワイトに渡した。あんまり貸したくはないが、こういう時は助け合いだ。
「あ、ありがとう……これウィンチェスター銃だよね!?」
「うん」
「僕っちこの造形好きなんだ……ありがとう」
「あげるわけじゃないんだからな。ちゃんと返せよ」
「わかってるよ」
ワイトがお辞儀してくれた。正直ちょっと怪しいんだが。
「準備はできたな!行くぞ!」
ログが外に出た。俺たちもログについて行くように外に出たのだった。
月明かりが暗闇の世界を照らしている。空には様々な色と大きさで光る星が敷き詰められている。夏の涼しい空気が俺たちの体を包み込んでいた。
「なんで夜に行動したんだ?」
俺が隣にいたハンガーに話しかけた。
「ゾンビは夜に行動しない。おそらく寝ているんだろう」
「へぇ、何だか意外だな。むしろゾンビは夜に行動しそうなんだがな」
納得した。そう言えば夜の校舎にはゾンビがいなかったな。
「着いたぞ」
ログが立ち止まった。目の前にはグリコと書かれたボロボロの看板を上に立てかけているスーパーがあった。なかなか広い。こんだけ大きかったら色々見つかるだろう。
「じゃあチームCはここに残ってて。チームAとチームBは突入するぞ」
ログを筆頭に皆が入り始めた。
「楓夜……無事でいてね」
桃と目があった。
「……おう」
俺はスーパーに突入した。
スーパーの中はやはり暗く、懐中電灯がなかったら何も見えなかった。匂いも結構きつく、食べ物が腐ったりカビてるせいで鼻が曲がりそうだった。俺は少し慣れてしまったがな。
「じゃあチームBは日用品コーナーに行ってくれ。チームAは食料品を探すぞ。30分後にまた会おう」
チームAの皆が食料品コーナーに向かっていった。食料品といっても食べられるものはもう既にほとんどないだろう。あっても缶ずめとかそこらだ。あまり食料品には期待ができないな。
「じゃあ俺達も行くぞ」
俺達も行動を始めた。
雑貨品の所にきた。分厚い雑誌やガムテープなどの結構使えそうなものを袋に入れていく。バッグの中身は拠点に置いてきてるのでヒルに多少は持たせられる。
「……化粧品って使えるか?」
「色々使えるよ。クレンジングは服の汚れを取れるし、口紅は黒錆取れるし。僕もお世話になってたんだ~」
マヤが答えてくれた。割と使い道あるんだな、化粧品って。そういえばマヤはフィギュアスケートやってたって言ってたな。だから化粧品のこと知ってるのか。
「キッチンペーパーや新聞紙も多く入れておけよ。結構使えるんだアレ」
「食べたりでもするのか?」
「馬鹿言うな。食料が底を尽きた時はそうするかもだが……キッチンペーパーは折れば紙マスクとかランタンになるし、新聞紙はスリッパになるんだ」
「はぇ~」
色々と知識がついてきたな。色んな物にも使い道はあるもんなんだな。
しばらく物を漁っていたら、いつの間にか雑貨品は全て取り終わってしまった。
「どうする?まだ30分も経ってないぞ?」
「……俺達も食料探しに行くか」
ハンガーが歩き出した。俺も後ろについていく。しかしマヤは立ち止まったままだった。
「どうした?もう行くぞ」
「……あそこに何かあるよ」
マヤが指を指した。ハンガーが懐中電灯を当ててみると確かに何かがあった。
「ちょっと行ってみるか」
ハンガーがその謎の物体に向かって歩き出した。俺とマヤも気になったのでついていく。
ヒュゴゴゴゴ……
何か音が聞こえた。外で風が吹いている訳でもない。このパターンを俺は知っている。とんでもなく嫌な予感がした。
「……おい、ここはダメだ逃げるぞ」
「何か見つけたのか?」
「俺の勘が言ってる。ダメだ。何かがいる」
「も~。大丈夫だよ、中に何かいたらもう誰かが見つけて――」
俺は見た。ハンガーとマヤの前に大男が立っているのを。顔には頭巾を被っており、手には俺の身長の2倍はあるであろう大きなハンマーを持っている。男はそのハンマーを横に振りかざしていた。
俺の行動は速かった。ハンガーとマヤの服を掴んで、思い切り俺の後ろにやった――。
大男の振ったハンマーが俺の右腕に直撃した。しかし、持っていた雑誌でガードをしたおかげで腕が折れることはなかった。しかし衝撃は来る。
俺の体は置いてあった棚をなぎ倒しながら突き進んで行った。痛い。痛い。衝撃が脳を揺らしまくっている。
俺の体は奥の壁に叩きつけられた。鈍い音と共に壁にヒビが入った。腕が熱い。視界がグラグラする。呼吸ができない。立てない。死んではいないが生きた心地がしない。
視界がぼやけながらも立ち上がった。腕はビリビリしてる。痺れてるのかな。鼻も麻痺してる。さっきから匂いがしない。顔を叩いて前を向いた。暗闇にずっといたおかげで目は慣れた。
弓を握りしめる。右手は震えているが使える。弓は撃てる。矢の弾数は24本。後はヒルが持ってる。
皆の位置が分からない。どこに誰がいるのか分からない。ハンガーとマヤはどうなっているんだ。
俺は大男のいた方にじわじわと歩き出した。
続く
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