第28話 再開

眠っている桃に毛布をかける。最近は精神も疲弊してたから休められてよかった。桃の顔を10秒くらい見たら精神回復するわ本当に。


「ほら、缶ずめだ」


ログに空けられた缶ずめを渡された。コーンが沢山詰まってる。最近甘い物を食べてなかったから嬉しい。とゆうか最近何も食べてなかったな。最後に食べたのはいつだっけな。別にどうでもいいか。


「ありがとう」


コーンを1粒食べた。コーン特有の甘い汁が口の中で弾けて美味しい。最高に幸せだ。コーンをかきこむ。


「おいおい、食べ物は逃げないぞ」

「……やっぱり上手いなコーンは」

「私もコーンは大好きだ」


ログが笑った。久々の食べ物が体に染み込む。やっぱり人間の三大欲求は1つも外したらダメだな。





「ワン!」


奥の方からヒルが走ってきた。俺を見つけたかと思うと飛び込んできて顔を舐めてくれた。


「お!お前元気だったか~」

「えらく懐いてるな」

「ヒルも保護してくれてたのか……あんたには助けられっぱなしだな。恩を返すのは遠くなりそうだ」

「別にいいさ。命の恩人についてきてた犬だからな。悪いやつじゃないんだろうしね。あとその子ヒルって言うんだ……独特な名前だね……」


今考えてみるとヒルって名前はどうかと思う。名前つけるセンスはないな……俺。





「ワンちゃ~ん!!……ってあれ?起きてたの?君?」


ヒルが入ってきた方向から誰か知らない5人と俺を呼びに来たあの男の人がこっちに来た。


「おぉ、お前ら来たか。ちゃんと挨拶しろよ」

「あいあいさー」


男が5人と女の子が1人だ。皆なかなか個性が強い見た目をしてる。


「俺はハンガー。元傭兵だ。よろしくな」


銀髪の男だ。顔が長方形みたい。体はこの中で1番でかい。2m近くはある。


「俺はバジル。一応これでも五つ星ホテルのシェフをやってたんだ。よろしくね」


黒い坊主頭の黒人だ。ハンガーについで大きく、腕もかなりごつい。


「私は笠松よ。前までは教師やってたの。よろしくね♡」


坊主頭の男。見た目は結構ごついのに口調がオネエでなんか怖い。でも強そうだ。


「俺も名前は言ってなかったな。俺はマギー。あの時は助かったよ」


あの赤髪の男だ。周りの個性が強いがこの人は普通っぽい。


「僕っちはワイト。外国でホワイトハッカーをしてた。ワイトだけにね……プププ」


茶髪でデブの男だ。見た目はあれだが口調は優しい感じだ。正直ギャグはおもんなかった。


「僕はマヤって言うんだ!フィギュアスケートをやってたよ!」


オレンジ髪の女の子だ。髪は肩にかかるくらいのストレートパーマだ。体格は小さいが桃よりかは大きい。


「こいつらはあのゾンビ共から逃げてた時に出会ったんだ。その桃もな。それで今はグループになってサバイバルしてるんだ」

「あぁ。この方が何かと都合がいいからな」


食料や水の面以外だと確かに多人数で行動した方が都合がいいな。俺の場合、誰かと絡んだらすぐにその人たちが死んでしまうけど……。


「俺は如月楓夜だ。桃の彼氏。アーチェリーしてた」

「へぇ。だから弓持ってたのか」

「楓夜ってすごいね!あんな遠くから化け物の頭をぶち抜いちゃうなんてさ!」

「確かに凄かったな。俺でもあんなのはできねぇよ」

「そう褒めないでくれよ」


ちょっと照れた。この人たちは気さくでいいな。今まではいい人か悪い人かは抜きにして、初対面の人にグイグイ来るような人はいなかったからな。初っ端からライフルを撃たれたのが懐かしいな。


「僕っちは君の話を聞きたいんだけど。そ、そのくらいの傷がつくようなことは気になる」

「あー確かに僕も気になるー!」

「傷のついてる男って素敵だけど、そこまでつくのは素敵って言うより気になるって感じかな?」


そりゃそうか。こんな傷が着いていたら誰でも気になるわな。


「わかったよ。刺激の強い話だから嫌なら言ってね」

「おいおい、俺らはもうこの世界を結構生きてきたんだぜ?多少の刺激じゃ目覚ましにもならねぇよ」













「うぷ……ごめんちょっと吐いてくる……」

「僕っちも……」


マギーとワイトが壁の裏に歩いていった。まぁそうなるよね。マヤと笠松とバジルは涙目で俺の方を見ている。


「あ、あなたがそんなことになってるなんて……」

「た、確かに臭いとは思っていたが……」

「え?待って俺臭い?」

「僕とは比べ物にならないくらい辛い思いしてるんだね……」

「ねぇ俺臭いの?確かに変なところには入ったけどそんなに臭い?」


ログとハンガーが驚きの表情でこちらを見ていた。


「いやはや……俺はお前のことを舐めてたようだよ」

「あんたが居ればかなり心強いよ。ぜひここにいてくれ」

「それはこちらからお願いしたいくらいだったよ。桃もここに居れば安全だしね。……やっぱり俺臭い?」


「「「「「「「うん」」」」」」」


「……辛い」


後で水洗いしないとなー。










「……ん、うぅ?」


しばらく話していると、桃が起きた。久しぶりに桃の声を聞いて耳が癒された。


「あら、起きたの?桃ちゃん」

「んぅ。……楓夜は?」

「隣にいるわよ」

「え?」


桃が俺の方を見た。俺も桃の方を見る。


「……え?……ふ……うや?」

「あぁ……会いたかった……」


桃の目から1粒の涙が流れた。俺の胸におでこをつける。


「心配したんだよ……死んでるかもって……それで……ようやく会えたと思ったら……傷だらけで……死にかけてて……どんだけ心配したと思ってるの……」

「俺も心配だった」

「……私に会いたかった?……」

「ずっと会いたかった」

「……私の事考えてた?」

「ずっと考えてた」

「私の事……夢にも見てた?」

「ずっと見てた」

「……私の事……好き?」

「ずっと好きだ。今も好きだ。これからも好きだ……」


桃が俺に抱きついてきた。声をあげて泣いている。俺だって声をあげて泣きたい。慰めてほしい。だけど桃に会えたことでそんな感情が吹っ飛んでしまったようだ。


抱きついている桃の背中をさする。暖かい。生きてる。桃は生きてる。

桃の鼓動を感じる。

桃の体温を感じる。

桃の匂いを感じる。

桃の声を感じる。

桃の姿を感じる。

桃を体全体で感じる。


桃だ。ずっと会いたかった桃がいる。夢や妄想でした会えなかった桃がいる。二度と会えないと思った桃がいるんだ。


「好きだ。愛してる」

「……私も……」


俺は胸の中にいる桃にそう呟いた。













続く

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