第24話 生命線
後ろからまだあの化け物は追いかけてきている。ただ速さ自体はそれほどでも無さそうだ。俺の全力ダッシュで逃げきれる。
ヴォロロロロ!!!
後ろから何か汚い音が聞こえた。それと同時に肩付近に何かが付いた。ちらっと肩を見てみる。
そこには白いヒルが10匹程、俺の肩に付いていた。
「キモっっ!!」
手で払いのける。気持ち悪いやつだ。見た目で言えば過去一最悪の敵だ。さっさと殺してしまおう。
化け物に追いつかれないようにひたすら走る。10分くらい走ったと思うが、まだ化け物はこっちを追いかけてきている。なかなか体力がある。
下水道の油を見つけるのは結構簡単だ。知ってる通り、水と油は混ざらない。下水道に流れている水を見れば油を見つけられるはずだ。
ひたすら走る。水を見るが油は流れていない。そもそも下水道に油は流してはいけないので、少ないのは当然だろう。誰か何もせずに排水溝に油を流す馬鹿な人がいてくれることを願わないといけないようだ。
角を2回、回ったところで何か違和感がした。
「追いかけてくる音が……ない?」
立ち止まった。おかしい。追いかけてきていないのか。わざわざ10分も追いかけてきやがったんだ。こんなにサラッと追いかけるのをやめるわけがない。何をする気だ。
ここでもう1つの違和感に気がついた。
「……えっ?なんだこの音……」
何かを掘るような音が聞こえた。ランマーで地面を掘っている時のようなあの低い音。どこから聞こえてるかは分からない。だが音が段々と近づいてきていることは確かだった。
走り出そうと足に力を入れたその時だった。横の壁が爆発したかのように砕け散り、そこから化け物が出てきたのだ。
「なっっ―――!!!」
驚く暇もないほど、素早かった。化け物に首を掴まれる。
「が……あぁぁ……」
体が宙に浮いた。化け物は俺の体を片手で持ち上げているのだ。首を絞める強さが段々と上がってくる。
思い切り化け物に蹴りを入れたが化け物の分厚い皮膚に弾かれた。化け物の腐った生ゴミのような匂いが鼻を刺してきた。吐きそうになるが首を絞められてるせいで吐くこともできない。
カカカカカカカフフフフフフフッッ
化け物の口が開いた。口の中にはびっしりと尖った歯が着いており、なんかネトネトしている。ムワッとした気持ち悪い匂いが辺りに充満した。
もう限界だ。クイーバーから矢を取り出す。矢を握りしめて化け物の口の中に突き刺した。
刺さった。皮膚は固くても中身は割と柔らかいようだ。
化け物が怯んで俺を後ろに投げ飛ばした。排水路に腰から落ちた。臭い。だが化け物の匂いよりかマシだ。
傷口に汚水が入ったらヤバそうだが……今頃遅いな。ふと手元を見てみた。水に浮いている黄色い物を見つけた。
「油だ……」
化け物が俺を睨みながら排水路に入ってきた。鼻息?口息?を荒くして怒っているようだ。臭いから近寄らないで欲しいんだがな。
かかかふふふぁだあやわてそ(まま!!!
化け物が発狂し始めた。見苦しい姿だ。これで終わらせてやる。
「さっさと消えてくれよ……!!」
矢を油につけた。それと同時に化け物の腹がへこんだ。またヒルを出すようだ。そんなことはさせない。
油の付いた矢を横の通路のコンクリートに擦り付けた。摩擦の火が油に引火し、矢の先端が燃え始めた。1発で付くとは思わなかったが嬉しい誤算だ。
燃えた矢をつがえた。化け物の体がブリッジをしているかのように反っている。弦を引いて化け物に向けた。
弓を持っている左手が熱い。だがこれでここからちゃんと出られるなら、この程度の熱さは問題などない。
化け物がヒルを吐き出そうと口を開けた刹那、矢を撃ち出した。燃えた矢は化け物の口の中に刺さり、完全に貫通はしなかったが化け物の後頭部に矢の先端が飛び出た。火は化け物の口内を通過した際に鎮火したようだ。
化け物が膝から崩れ落ちた。口からヨダレのようにヒルをポロポロと出している。死ぬ時まで汚い奴だ。化け物の体が徐々に灰になって崩れ落ちていった。
「これで終わり……か」
横の通路に倒れるようにして寝転がった。連戦はさすがにきつい。疲れた。泣きそう。精神面がもうやばい。
ゾンビより化け物の方が戦ってる気がする。天国に行ったら桃に絶対膝枕してもらおう。ついでにむっちゃ褒めてもらう。それくらいしないとやってられないわこんなの。
ほんの少しだけ寝ようかな。今回も血を流しすぎた。腕の傷はまだ少し血が出ているが、だいぶ血が固まってきている。
……俺の体どうなってんだろ。まぁいいか。俺はゆっくりと瞼を閉じた。
クゥゥゥン……。
「んあ?」
目が覚めた。どれくらい眠ってたんだろう。フラフラとした頭を振って無理矢理整える。腕の血はもうほとんど止まっており、頭の血も止まっている。俺って血の量どうなってんだろ。
前を見てみると寂しそうな目をした狼がいた。俺が助けてあげたあの狼だ。そういやボスっぽい狼、俺が殺しちゃったからな。行く所がないんだろうか。……俺も行くところはないんだけどな~。
「……」
ワン!!
狼ってやっぱり犬のように鳴くんだな。見た目はかっこいいのになんか可愛いな。
「……ついてくるか?」
「……ワン!!」
狼が目をキラキラさせて吠えた。
「仕方ないな!じゃあ行くか!」
「ワオン!!」
「あー待って。一緒に来るんなら名前が必要だよな」
「クゥン?」
どうしようかな~。いい名前がないかな。無難に『ポチ』にするか。いやダメだ。無難すぎてなんかヤダ。なんかなー。なんか可愛い名前……『桃』にしようかな。でもな~。桃は桃1人だけだからそれはダメだ。ん~どーしよっかな~。悩むな~。見た目が黒いし『クロ』にしようか……いや単純すぎる。……そういやこの子ヒルに襲われてたな……。
「……あっそうだ、いいじゃん。お前の名前はこれから『ヒル』だ」
この狼の名前はヒルだ。見た目はヒルと似ても似つかないが別にいいや。
「ワン!!」
ヒルが俺の顔を舐めてきた。血の味しかしないだろうに。
「おおっ。可愛いヤツめ~!」
ヒルの頭を撫で回す。これは癒しだな。
「じゃあ行くか!ヒル!」
「ワン!!」
俺は歩き出した。ヒルもその後ろについてくる。可愛いな。精神面が回復してきた。最高だ。心に開いた桃の隙間が埋まった気がした。
続く
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