その13 幸男とデート?

 「……なんか今日のライブに、すんごいイケメンが二人も来ていたんだよ」

「お、おう。そうか」

俺が女装から着替えて帰宅するとライブを終えて俺の部屋に来ていた幸男に会う。幸男はいつも通り俺の部屋に置いてある客用の布団を敷きながらぶつぶつ言う。

「アンナちゃんの列に並んでさ、握手している時嬉しそうに見えたんだ」

「は、はあ……」

幸男の言っているイケメンって『青月堂』のあの二人だよな? 俺が動揺してたの気付かれた?

「アンナちゃんやっぱりああいうキリっとしたのが好みなのかな?」

幸男は『青月堂』の二人にやきもちを妬いているように見える。

「幸男だってイケメンじゃないか」

「そう?」

幸男は複雑そうな顔をしている。あんまりイケメンの自覚ないのかな、やっぱり。俺自身平凡な容姿にコンプレックスがあるから幸男や父さん、つまり幸男の父親で俺の継父がイケメンなのが少し羨ましい。

「あのさ俺、『青月堂』って中華料理の店に行きたいんだけど。明日一緒に行かないか?」

「え? 中華の店?」

俺はスマートフォンを見せて『青月堂』の記事を見せる。明日の日曜日は俺の久々の非番。これは行くしかないと思った。

「あ! 僕が見たイケメンの二人だ! 兄ちゃんこの人だよ!」

ああ、わかってると内心思いつつ俺は記事にある店員二人の写真を見せる。

「この店の料理うまそうだから行こうぜ」

「兄ちゃんこのイケメン達が見たいだけだろ?」

「それもあるけど、ラーメンと餃子食べたい!」

「あーはいはい。じゃあ行く」

俺と幸男は明日、『青月堂』に行くことになった。

あれ? これってデートになるんじゃないか??

「じゃあ明日だけ兄ちゃんの彼氏になってやるよ」

「お、おう……」

幸男に言われて俺は少し照れる。


 ※


 「ほらここ!」

翌日の昼。『青月堂』の前に俺と幸男はいた。レトロな感じの店の中に入る。

「いらっしゃいませー」

店に入ると、記事の写真にあった店員の一人が視界に入る。黒髪の、昨日俺と話したあの人だ。昼時より少し早めの時間だがお客さん、それも女の人が結構多く思えるのはやっぱりこの人ともう一人の茶髪の人の評判か?

「二名です」

「こちらの席にどうぞ」

店員に指定されたカウンター席に幸男と並んで座る。厨房のほうを見ると昨日見た茶髪の店員もいる。

「……」

店員二人の様子を見る。俺がアンナだってバレてないよな? 女装も化粧もしていないから、問題ないよな?

「ご注文は?」

「餃子定食を」

「ラーメンセットを」

黒髪の店員に注文を聞かれて俺は餃子、幸男はラーメンを頼む。

注文を聞いてきたのは店員は間違いなく昨日来ていたあのイケメンだ。彼は俺の顔を見ても何も気にしていないように見えるから、バレてないよな?


 ※


 「ああ~、うまかったぁ! 食ったぁ!」

「兄ちゃんうるさい」

食べ終わって会計を済ませると俺と幸男は店を出て歩いていく。

「兄ちゃん最近実家に帰ってこないけど、やっぱり仕事忙しい?」

「え? ……ああうん」

幸男はまだ俺がサラリーマンだと思っている。本当はもう辞めてアイドルに専念してんだけど。

「志保は元気? あいつもう高校生だろ?」

俺は志保を話題に出す。志保とは俺と幸男の妹で実家の末っ子。両親の再婚後に産まれた俺にとっての異父妹で幸男にとっては異母妹だ。

「うん。相変わらず生意気。兄ちゃんのことちょっと心配してたよ」

「そうかそうか」

俺がアイドルになって以来、あまり帰れていない実家は特に変わっていないみたいだった。

父さんも母さんも志保も、俺が幸男を好きになったから家を出たのと、俺が今女装してアイドルやっているって知ったらどう思うだろう……

それから、事務所の社長と関係持っているって知られたら……

「兄ちゃん? どうした?」

「いや、何も」

「? そういや兄ちゃん、前から言おうって思ってたけど……なんか厚着多くない?」

「へ?」

幸男に問われる。

「なんで?」

「だって前はまあまあ体型わかりそうな恰好してたけど、今はちょっとでかいパーカーとかわかりにくい服多くなったじゃん」

「え……」

ぐさりと来た。社長と関係を持って起きた体の変化を隠すために大きめのパーカーを着るのが多くなった。胸とか腰のくびれとか尻とか気付かれたくないと……

「き、気のせいだろ? お前がそう思っただけだろ?」

「そうか」

幸男はそれ以上何も言わなかった。

「ていうか、お前来週の土曜日もアンナのライブ行くのか?」

「ああうん。今度はチェキ会も行こうと思う」

「お、おう」

俺からアンナの話題になると幸男は嬉しそうになる。やっぱり俺よりアンナのほうがメインだよなぁ。そのアンナが社長とヤッていてしかもそれが俺だなんて……。


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