その3 なんで好き?

 「……」

俺は自分の部屋に帰宅する。ウィッグも外して化粧も落として着替えて、俺は敏郎として戻ってきた。

「おかえり兄ちゃん」

「幸男……」

幸男は既にいた。しかも夕飯まで作ってくれている。

「仕事忙しいみたいだね。お疲れ様」

「え、うんまあ……」

俺は幸男の心配する顔を見て罪悪感を覚える。俺は荷物を置いて食卓について幸男の作った夕飯を食べ出す。

「幸男はライブ楽しかった?」

「うん! アンナ超かわいかった!」

幸男は嬉しそうにアンナについて語る。それが俺だと知らずに。

「幸男はアンナのどこが好きなんだ? もちろん男なのはわかって、だよな?」

俺はちょっと聞いてみる。幸男は照れながら更に語る。

「……歌が好きなんだ。男が歌ってるのはわかってるけど、それでもかわいいって思うんだ」

「そ、そうか」

『Man Made Lily』は男の娘達が女の子アイドルが歌うような歌を歌うのがウリだ。幸男もそれが好きらしい。

「しかもなんか懐かしいんだよ。兄ちゃんがああいう感じで歌ってたみたいに」

「へ?」

「兄ちゃん昔は歌手目指しててよく僕達の前で歌ったじゃん。あれに似てるんだ」

「ええ?」

俺は内心動揺する。ていうかコイツ、俺が歌手目指していたの覚えていたのか?

「アンナの声、小さい時の兄ちゃんに似てるんだよ。それが懐かしくなってね」

「ま、マジか!?」

俺は歌う時、出来るだけ声を高くしている。幸男にはそれが俺の小さい頃の声に聴こえるみたいだ。俺を思い出してなのか……?

「顔も結構好きなんだ。女装メイクなのはわかっているけど、だからこそ燃え上がるんだよ!」

「そういうもんか?」

「男だからオイシイものがあるんだよ」

やっぱり男の娘萌えも、幸男にはあるらしい。

「あと尻もちょっとでかめなのも」

「わかったからそれ以上はいらないから!」

いつかしっかり説明しようと思ったが余計に言えなくなった。俺がアンナだって。あと尻でかいのは気にしてんだよ、言わないでくれ。

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