バグ持ちの壊れたキャラだった冒険者。ガチャ確変SSRとなり不具合仕様認定で【真の壊れ性能】に!〜ユニーククラスの知識で自然と共生する産業革命!
第55話 大量のゆで卵にライ麦パンと牛の胃のモツ煮込み、きのこのクリームスープをお忘れ無く
第55話 大量のゆで卵にライ麦パンと牛の胃のモツ煮込み、きのこのクリームスープをお忘れ無く
町への襲撃から三日経過した。
今日はウリカとアーニーの家で、ささやかな打ち上げ、の予定だった。
ウリカとエルゼは二人でせっせと料理を作っている。二人とも料理するため髪を結い上げており、本当の姉妹のようだ。
「アーニーさんみてみてー」
ことさらうなじを強調するウリカ。
アーニーは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
「アーニー様の反応が普段と違う?」
「アーニーさんはうなじがウィークポイントなのです。今私たちは勝ち確なのです」
「む? 私は継続ダメージを与えていたのですね」
にやりと悪い顔のエルゼ。
「早く作らないと皆がくるぞー。大飯喰らいがな!」
アーニーは照れ隠しに二人を急かした。
大きな鍋で作っている料理は牛の胃のモツ煮込み料理。フラツという。
「いちゃついてないで手伝ってくださいよー」
ジャンヌも今日はお手伝いだ。
彼女は家の外で即席の窯を用意し、アヒルの肉や牛肉をせっせと焼いている。
「おう。そっちいくわー」
「逃げられた!」
ウリカが笑いながら見送る。
「テーブルの用意は終わったよー」
ポーラも今日は魔法使い用ローブではなく、普段着だ。
家事力は、このなかで一番高い。
「おお、ありがとう。ポーラ」
「どういたしまして♪」
冒険が無いときのジャンヌや、最近きたポーラもこの家に入り浸っている。
何せ、豪華な風呂があるのだ。
遠征終了時、アーニーから風呂入っていけよと言われて、ジャンヌが本気で嬉し泣きしたりしたこともあるほどだ。
男性も女性も基本的には村で用意された公衆浴場を使うので、珍しい浴槽型の風呂があるこの家は天国だった。
「ゆで卵は…… もうちょっと欲しいかな。ライ麦のパンもいいけど、じゃがいももいいよね」
そういつつ、ウリカは大量のふかしたじゃがいもを用意する。
「私はスープに移りますね」
数種類のスープを作り始めていた。きのこをふんだんに使ったクリームスープや、そばの実を使ったスープだ。
「ソーセージも買ってきたからあとで焼いておいてね」
ポーラも昨日から買い出しを手伝ってくれていた。
そんな楽しげな前準備も終わり、約束の時間がきた。
四天王やディーター、ドワーフ四兄弟、ハイオーガのマロシュやフロレスのテテもいる。
アーニーが代表して挨拶する。
柄ではないが、女性陣に任せるわけにもいかない。
「みんな。よくきてくれた。堅いことはいわず、早速始めよう。乾杯」
歓声とともに、宴会が始まった。
「邪魔するよ」
日が暮れたあと、マレックもやってきた。
緊張する人々に対し、アーニーが声をかける。
「おう、さっそくやってくれ。新作もあるぞ」
ワインボトルを掲げてみせる。領主に対する態度ではない。
「それは楽しみだ。——今日の私はアーニーの友人で、堅苦しい話は無しだ。皆もそう思って接してくれると嬉しい」
と片目を瞑る。
場の緊張も一気に和らいだ。
「ウリカ。よくやってくれた」
マレックがウリカに声を掛ける。
「あのときはひやひやしたよ」
「でも…… 犠牲者が出たことは事実です」
ウリカが眼を伏せながら言った。
本当はパーティという気分にならなかったのも事実だ。
死者六名。蘇生者三名。負傷者は五十名を超えたが、全員治療を受けているので現在は問題ない。
「自分を追い詰めることはよせ、といいたいが、お前にはまだ無理か」
「……厳しいですね」
「それでも、お前いてのこの町だ。自分さえいなければ、と思うなら大間違いだ。お前がいなければ私はこの町をここまで大きくしていない」
「マレック……」
「もちろん亡くなった者には通用しない理屈だが…… どんな町に住んでいても危険はある。そしてこの町は少なくともリスクが非常に少ない町だ」
「はい」
「いなければ、どうだろうな。アーニーがそもそもこの町にきていない。だろ?」
「そうだ」
突然話題を振られたアーニーだが、それを肯定した。
「あんな邪神の【使徒】が暴れていたらこの町は全滅だ。自分がいなければ、などという仮定は忘れなさい」
「わかりました」
「被害者家族の保障等も進めている。これも領主の役目だ」
「ありがとうございます」
「私はウリカの無事が嬉しい。アーニー、ありがとう」
「おう」
改めて礼を言われ、アーニーも少し気恥ずかしそうだった。ウリカもそれをみて微笑む。
マレックはウリカの側を離れ、ポーラのもとに近寄った。
「ポーラ殿ですね」
「領主様!」
新参のポーラは緊張する。初対面だからだ。美形だと噂に聞いていたが、間近でみると噂などあてにもならない。超がつく美形だ。
「この町を、そしてウリカを救っていただき、ありがとうございました」
優雅に一礼し、頭を下げて礼をいう。
「あ、いえ、とんでもない、私なんて何もしてなくて!」
両手を突き出し慌てて否定する。
「何をおっしゃるやら。私は全部、この目で見てましたよ」
ポーラの顔が真っ赤になった。吸血鬼であることはしっているが、そんなことをみじんも感じさせない魅力だ。
「お恥ずかしい話ウリカが出て行く時も、己の無力さに歯噛みしていた。この町の人間ですら絶望し膝を屈する中、ただ単身巨大ゴーレムに立ち向かった勇気。我が長い人生のなかでもこれほど高潔な人物はみたことがありません」
掛け値無しの賛美だった。
「褒めすぎですよー!」
「まったく褒めたりませんね。ポーラ殿を褒め讃える歌を作るべく、王都の作曲家に依頼したいほどです」
「やめてくださいー」
ポーラの丸い顔から湯気がでそうだった。
マレックはポーラの両手を手に取って、さらに近付いた。
常時発動技能で【魅了】を装備しているといわれてもおかしくない美形が、優しい笑顔を浮かべている。
ポーラが気絶していないことが奇跡だった。
「今日が待ち遠しかった。直接貴女に礼をいいたかった。魂も高潔で知識も深く美しく――何より優しい。よろしければ館にご招待して、後日魔法談義でも交わしたいですね」
まん丸顔で愛嬌はあると思うが、美しいはずがない自分であることをポーラは理解している。しかしマレックは本気でそういっている。それが彼女にも伝わった。
「よ、よろこんで。領主様の【メテオ】も本当に凄かったです! 視線だけで【使徒】がびびってたし!」
噛み噛みながら返事ができた。顔が近い。嫌では無いが、こんな美形に迫られるなど生まれて初めてだ。仕方ない。
「遠距離であのゴーレムに有効打を与えることができる魔法はあれぐらいで。【使徒】は私自ら処断したいほどでしたが、アーニーが代わりにやってくれましたからね。良しとします」
穏やかな笑顔。あのときの殺気を放っていた人物とは別人のようだ。
「今後は私のことをマレックと呼んでください、ポーラ殿。アーニーのように」
「わ、わかりましたマレック!」
「恩人に領主様呼びは寂しいですからね」
ポーラの手を取り、そっと手の甲にキスをする。意味は——敬愛だ。
「はわわわわー」
目がぐるぐるになっているポーラ。立っていることが奇跡だった。
マレックはそんなポーラを笑いもせず、一礼し移動した。
「ポーラさんすっごい…… マレックがあんなに女性に敬愛表現するの、生まれて初めて見た……」
ウリカが唖然とするほどだ。よほど希なことなのだろう。
「マレックは顔が良いから女性からのアプローチも多いけど、こっちが顔を背けたくなるぐらい塩対応なんです」
「勘違いされると困るだろうからな。――実際バンパイアロードを虜にするほどいい女だよ、ポーラは」
「うん!」
ウリカもすっかりポーラに懐いている。姉のように感じているのだ。
「血を吸われないか、心配はあるが」
「まさか。ああ、でもそれは…… 愛情行為の一種でもあるから、ないとは言えないか。マレックに対してこんな心配する必要があるって珍しいことなんですけどね」
「それはわかる」
「ポーラさんなら当然なのかも」
嬉しいような、心配なような、微妙なウリカだった。
自慢の保護者が、姉のように感じている女性に興味を示したのだ。その女性は自分の好きなアーニーを好いていて、複雑な関係でドキドキしてていることは絶対に内緒である。
マレックはニックとラルフに向かった。
「二人とも。今回は町の防衛、ゴーレムの撃退。ありがとう」
「り、領主様っ。いえいえ。当然のことをしたまでです。お声をいただいて大変光栄です」
慌てて頭を下げるニック。目を細め嬉しそうにしているマレック。
「俺なんて何もできず、活躍した冒険者はニックだけで……」
テラーナイトのラルフは悔しそうにいった。
「何をいっている。君はドワーフたちを瓦礫から引きずり出し、救援していただろう?」
「そ、そうですが」
「ポーラ殿が危機のときは、必死にヘイトを奪い取ろうと大剣をふるっていたじゃないか」
「は、はい」
「そうじゃぞ、俺たちはお前に助けられたんだ。もっと胸を張らんかい!」
ドワーフたちも参戦する。
ラルフは泣きそうになり、顔をしかめて我慢した。
「そのとき為すべきことをした。そしてそれを私は見ていた。あのとき何もできなかった私を君は笑うかい?」
「とんでもありません。——ありがとうございます」
「こちらこそ、感謝するよ。これからも、よろしく頼む」
「はい!」
その様子のラルフをみて、にっこり笑ったマレックは席を外した。
「見ている人は見ているんだ。ラルフ」
ニックが相棒に声をかける。
「ああ、ありがたい……」
ラルフも思うところはあるようだ。卑屈な影は薄らいでいた。
安堵で胸をなで下ろすニックだった。
「ニックもマレックさんと話すとき、キャラ違うじゃん」
そんな二人をみて、隣にいるウリカに声をかけたポーラ。
「確かに違いますね」
「ああ、あれが素です。普段のお調子者は演技ですよ、彼」
おっちゃんが会話に入る。
「え? まじで」
ポーラが目を丸くする。
「ええ。ニックは本来なら王都で宮仕えしていてもおかしくないぐらい生真面目な性格ですよ。陰キャといいかえてもいいですが。以前は行政経験していた実績もあるとか」
「そんな役人気質の生真面目な人間が、なんであんな寒い陽キャラ演じているの?」
「火力の低い物理アタッカーゆえの定めですね。パーティに火力低い上に暗い奴いたら鬱陶しいでしょ?」
「返答に困るんだけど……」
「調子に乗りすぎると、夜一人反省会していますよ、彼。素で自分のことイケてるとかいいだすアタッカーいたら引きますし」
「それは指摘しちゃだめ。おっちゃん」
ポーラがさすがに同情する。
「意外すぎる面ですね」
ウリカがリックの意外な面を知って驚いた。
「気持ちはわかるな」
アーニーはニックの気持ちはいたいほどわかる。
中途半端な職ほどパーティには居場所がない。
「アーニーもガーチャーしているしね」
ポーラも知っている。
アーニーはおそらくニックと同じような理由で、冒険者として最小限の交流を保っていたのだ。そのガチャ芸で。
そもそも酒場や組合のみんながいる前でガチャを回す理由などないのだ。
あれはアーニーなりの社会性なのだろう。
「ああ……うん、まあな」
意外な人間の意外な面は、こういう付き合いでわかるものなのだ。
ウリカがまじまじとアーニーを見詰めていて、気恥ずかしくなりそっぽを向いた。
「落ち着いたらゆっくりガチャを回したいなあ」
付き合いの長いポーラに指摘され、アーニーはしみじみと呟いた。
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