第22話 追放者ガチャの酒場〜低需要職四天王
「ジャンヌさんの遠征メンバーですか?」
「そう。マスターやウリカ様も知っておいたほうがいいと思って。他にもいるけど、主要なメンバーね。ギルドマスターに紹介されたんだ」
「ウリカ様にも紹介するですよ」
三人は冒険者組合に併設されている酒場に集まっていた。
ドワーフたちと飲む酒場とは別の場所である。
「ああ。腕は立つ。遠征で採集なり近場の迷宮なり連れていくなり、こきつかってやってくれ」
中年のギルドマスターが告げる。
「四天王と言われているんだが、ちと狩りでは不憫な連中でな」
「四天王?」
ウリカがアーニーに尋ねる。
「ああ。狩り火力が低い連中はパーティからハブられる。追放もあり得る。」
「そうなんですか」
「そこにいる四人だな」
四人の男性がそこにいた。
青い甲冑を身に着けたファイターと黒い甲冑を身に着けたファイター。片手剣と楯で武装した軽装の青年。そして中年の司教だった。
「彼らは低需要四天王——レアクラスだが狩り効率が悪く、比較的不遇な思いで冒険者をしている。それぞれの理由で追放され、そしてこの町に流れ着いた」
「名も無き町は、居場所がない人間には優しいな」
多くの亜人を受け入れるこの町は、アーニーのようなパーティに居場所がない冒険者にも寛容だった。
「おかげでこの町の冒険者組合は追放者ガチャの酒場とまでいわれる有様だ。仲間を求めるパーティに紹介したら、だいたい追放された者だからな」
「いい酒場じゃないか」
「王都に集まる冒険者は狩り効率求めすぎるんだよ」
ギルドマスターが苦い顔をする。
「低需要四天王?」
どう反応していいかわからないウリカ。
「ウリカ様にも紹介しよう」
ギルドマスターが張り切って紹介を始めた。
「黒い甲冑の男は、ラルフ。対軍戦に優れたテラーナイトだ」
「ラルフだ、よろしく。両手剣使いだが、よく片手剣と楯か持って壁してくださいといわれ、それでも両手剣を担いでいたら追放されてしまった……」
黒い甲冑に全身を覆われた男がウリカに一礼する。
「青い甲冑のファイターはバイロン。竜特攻を持つドラゴンファイターだ」
「ドラゴンファイターのバイロンです。よろしく。特技は跳躍からの降下攻撃での必殺攻撃ですが、跳ぶと邪魔といわれ追放されました」
人の良さそうな笑顔を持つ、穏やかな青い甲冑の男だった。
「軽装の剣士はグラディエイターのニック。対人特化の技巧派だ」
「俺はニック。よろしくな! とにかく狩りでの火力が低くて追放された! 口癖は『俺いらねー!』だ。ははは!」
ハイテンションで細身の男。軽装備の剣士が自虐を込めて自己紹介する。
「最後にアークビショップのカシミロ。回復のスペシャリストだ」
「アークビショップとか面倒臭いです。おっちゃんっ呼んで。特技は回復、復活もできます。ですがMP回復ができないのであまり需要はありません。墓地の覇者と言われていますが、墓地ソロしとけといわれて追放です」
口ひげを蓄えた、穏やかな瞳を持つ男が一瞬表情を曇らせ自己紹介した。
「なんで追放理由まで教えてくれるんですか……」
ウリカは取り合いになるほどの需要職なので、むしろ気まずい。
「低需要職はアタッカーが多いな。多くはあぶれるからな。あとMP効率需要で、そこらの管理ができない支援職はパーティで肩身が狭くなる。多少性格が捻じ曲がるのも仕方ないのです」
ギルドマスターが解説する。
「パーティリーダーになって人集めたところで、リーダーがいると効率悪いから抜けてくれませんか? と言われるほどには需要がねーんだぜ。リーダーなのに追放! すげえだろ!」
ニックが笑いながら言った。
皆、眼を背けて笑わない。いや、笑えない。
「うん、俺も特殊アタッカーだからわかるぞ。中途半端だと、特化した連中が集まって補うパーティのなかでは居場所がないんだよな」
アーニーも同じような器用貧乏系のソロ専門だったので、彼らの気持ちはよくわかる。
「そのわりに
「その席すらねーぜ! ははは」
「両手剣は盾代わりにもなるし便利なんですが……」
「私は事情が特殊ですしね」
「パイロンさんはどう特殊なの?」
ウリカが尋ねた。
「私は竜の卵を運び出して、交感を行うと、竜に乗れるので
「どうして?」
「卵を取られた竜が可哀想で……」
「それを言うならそもそもドラゴンファイターになっちゃいけないんじゃ……」
「私が倒す竜は邪竜のみですよ! あとは本能のみで人を襲う竜だけです。心優しい竜もたくさんいます」
「こういうお人好しは実にジャンヌちゃん好みなのです」
「おう。俺も嫌いじゃ無いぞ」
アーニーも人ごとと思えないので四天王に悪い感情は抱いていない。
「どうせこいつらは酒場で燻っているだけだからな。もったいない。ジャンヌさんがきてくれて助かったよ」
「マスターに遠征行けって言われていますからね!」
「俺とウリカだけじゃいつかは行き詰まるし、トラブルが起きた場合は狩り以外の場合が多いと思う。特殊アタッカーは歓迎だ」
「そんなこと言ってくれる冒険者はアーニーさんぐらいだよ、本当」
しみじみとパイロンが言う。
「遠征に行っている間も経験値も溜まるし報酬もある。ジャンヌさんはパラディンとして一流だしな」
「ね? マスター。聞きました? 一流ですって私」
「そこは疑ったことはないぞ!」
「本当かなぁ」
あまりの扱いに不信感がマックスになっているジャンヌだった。
「ジャンヌと四天王には引き続き、遠征と近場の迷宮攻略を進めてもらいたい」
「了解でっす!」
ジャンヌは胸を張って答える。
「着々と迷宮攻略のための下準備、進んでいますね」
「ああ。慌てず急がず、ゆっくり進めよう」
二人の名も無き町の振興と仲間集め。まだはじまったばかりだった。
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