参話:学園はるま譚 其の肆
ー肆ー
「にしてもさ、今日の朝はびっくりしたよね!まさか身近で集団ヒステリー的なのが起こるだなんて」
彼女、つつでは私とふじに対して新たな話題を提示する。
それは今日の朝に起こったとても身近な話。
1ーB組で起こった大人数の同時体調不良事件の事だ。
私、九院坂尊命は現在、クラスメイトの
傾き始めた太陽の下、私達は他愛も無い話をしながら家へと帰っているのです。
三人それぞれの影は細長く伸び、アスファルトに三つのスライドする棒が映し出されている。
ブロック塀に立て掛けられた『不審者注意』の看板が視界の端に映る。
「うんうん、驚いたよね。前兆も無く突然の事だったし」
「そうでもないみたいよ。当然1-B では異常は無かったらしいけども、他の学年では同様の事象が度々起こっていたらしいのよ。まぁ、今日のあの騒ぎ程では無かったみたいだけどね」
今話を広げたのが青木ヶ原ふじ、長髪で背の高めな子だ。
彼女の言うように異常事態は前から起きていた。
そう、例の連続体調不良事件、私と幽真が追っていた怪異事件。
今回の騒動はその一連である可能性が高いのだ。
「そうらしいよね。その直前までは何とも無かったのに、突然体調が悪化する。まさに今まで上の学年で起こっていたのと同じなんだよね。だけど……今回は規模が大きすぎないかな?」
疑問を述べたこの子が小堤土手、短髪の私より少しだけ背の高い子だ。
彼女が疑問を持ったそこが肝心の所。
つまりは……。
「怪異が力を増している……」
「みこと?怪異って何の話?」
「あ、いやー、何でもないですぅー。最近は妄想にハマっていてぇー。つい声に出ちゃったんですよねぇー」
やべ、声に出ちゃった。
当然霊能関連の事は友人にも基本は言ってはならない決まりごとがある。
凄い棒読みになってしまったが、とりあえず誤魔化しをしておこう。
「……あながち間違っていないのかもしれないわ」
「ん?ふじまでどした?最近はそーゆーノリが流行りなんですかね?」
「いえね、みことさんの言っていたような超常的なものが原因だっていう噂もあるのよ。一回ぐらいならまだしも、何度も起こるものだから、一部の学生の間では
あー、これが原因かも。
怪異は認知度やその変動が存在そのものに大きく影響を与える。
噂等の拡散によって、本来弱かったはずの存在ですら、大きな脅威へと成り得る。
「でもさ、ツツデの聞いた話だと、
そう、通常はつつでのような否定意見が多く存在し、それの影響で怪異の存在の平衡性が保たれることとなる。
しかし、この学校では……。
「ですが、この学校は立て直したばかりですわ。土壌の再調査も行われたでしょうし、そうそう地盤沈下なんて起こらないでしょう」
本来は新しい学校というのはあまり怪異が集まらないはずなのだ。
その土地が曰く付き等の例外を除き、新しく出来た所にすぐに怪異が根付くことは無い。
しかし、この学校は何故か怪異だらけなのである。
そもそも磐戸には怪異が多いのに、その中でも特に顕著なこの学校。
新しい校舎であることも加わって、怪異の起こす現象が自然や人為的な物に思われないことが多く、結果今回を始めとした怪異の暴動事件に繋がるのである。
「そうだよねー。やっぱ不思議な事って起こるもんなんだね」
ずっと会話に参加してないのも難だったので、当たり障りのない事を言ってみる。
「そうだな。いつ何時不思議な事が起こってもおかしくはないよな?」
何者かが突然会話に乱入する。
この声は……あの人か。
「えっと、何か用かな?太久保君?」
背後にいたのは
私のクラスの生徒で所謂不良と呼ばれる系の男子生徒。
初日の顔合わせ以降何かと私に近寄ってくる。
私自身は問題無いのだけれど、周りの子達が怖がってるので、正直の所付きまとうのは止めてほしい。
太久保の隣に居るのは確か
話した事こそ無いけど、いつも太久保の周りに居る、側近ポジの人。
「いや、大した用じゃないだが、この後暇か?」
「残念だけど、暇じゃないよ。二人と一緒に買い物に行くの、そうだよね?」
「う、うん、そう。そうだったね……」
「……えぇ。その予定でしたわね」
本当はこの後用事は無い。
元々は三人で買い物に行くつもりだったが、今日の事件の影響でふじの家が帰ってくるように催促してきたらしい。
その為、買い物に行くのは後日になったのだ。
だというのに太久保の質問を拒否したのには理由がある。
あれ程の事件が起きた今、怪異をほったらかしておく訳にはいかない。
本来は休みの日だが、今日は幽真にも協力をお願いしている。
待ち合わせの時間まではそこら辺の店を巡って時間をつぶす予定だ。
「へぇ……そうか。それは残念だな。オレが誘ってるってのに断るのか。ふっ、明日が楽しみだぜ……」
「ちょっと、失礼。先程から態度が気に食わないのだけど?お願いするのであればもっと礼儀正しくするのが普通の事ではなくて?太久保さんの言い方は威圧的だわ。断られたからと言って、まるで報復を行うかのような発言までして。どうせ出来やしないというのに、何意地張っていなさるの?恰好が悪いわよ」
太久保の挑発にふじが食いつく。
ふじはこういうタイプの人が嫌いらしく、気に入らない人にはガンガン噛み付いていく。
……あまり騒ぎを大きくしないで欲しいんだけどな。
そりゃあ気に掛けて貰えてるのは嬉しいんだけど、通行人からの注目集めてるのがあまり良い気分ではない。
「なんだよ、女子風情が。彦之助さんに歯向かうってのか?調子乗ってんじゃねぇぞ、クソが」
今まで半笑い顔で太久保の後ろに立っていたツクバが険しい顔で睨みつけてくる。
「何よ、貴方。お口が悪いわね。その上強い人に付き従って調子に乗っているなんて、どちらがクソなのかしら……失礼、汚い言葉を使ってしまいましたわ。言い直します、おクソに。後、今の時代は女性差別は軽蔑の対象ですわ。もう少し発言に気を付ける事ね、虎の威を借るツクバさん」
ふじの渾身の煽りが炸裂する。
わぁお、ふじ、凄いじゃん!
私の気分までスッキリしたよ。
「てめぇ、ふざけんじゃーー」
ツクバは顔を真っ赤にし、私達に近づいて来る……事は無かった。
「逆上は良くないよ。喧嘩を先に吹っ掛けたのは君なんだから。ほら、落ち着いて。手を出したら君の負けだよ」
ツクバの肩を横から抑えたのは一人の少年だった。
この人も私達のクラスメイト、
彼は入学式の朝、私が危うく迷いかける所だった時にクラスの場所を教えてくれた男子生徒本人だ。
どうやら机が
顔付きがとても良く、クラスではイケメン5の一人に数えられているとかいないとか。
「邪魔すんじゃねぇよ、この部外者がぁ!!」
縊齋に怒りの矛先を変えたツクバが襲い掛かる。
しかし、その拳はすんなりと躱された上、足を引っ掛けられて転倒する。
「ぐはっ!!」
「ほーら、折角忠告したのに。手を出したら負けだったでしょ?」
「くそっ、ざけんなよ……彦之助さん、やっちまって下さい!!」
ツクバは立ち上がりながら見事な三下ムーブをかます。
見てるこっちも恥ずかしくなってくる。
「いや、今日はこの辺にしておこう。あまりおおごとにするのはお互い良くないだろうからな」
流石に分が悪いと感じたのか、太久保はそのまま引き下がり、道を曲がる。
「覚えとけよっ!!ちくしょう!!」
最後の最後まで無様な三下ムーブを披露して、ツクバも太久保を追いかけていなくなる。
本人には悪いけど……滑稽だったよ、めっちゃ。
「ありがとう、縊齋君。助かったわ」
「俺はそんな大した事はしてないよ。ただ人として当たり前の事をしたまでさ。ところで九院坂さん、大丈夫かい?太久保君から何かされてないかい?」
「ううん、大丈夫。ありがとね、いつき君」
「だからお礼はいいってば。そういえば、太久保君に何かしたのかい?やたらと君ばかりに執着しているようじゃないか」
「うーん……私は何かした覚えは無いんだけどなぁ。気に食わない行動でもしちゃったのかな?」
「そっか。まぁ、そういう事もあるよね。もし太久保君の事とかで困ったことがあったら俺を呼んでよ。いつでも出来る限りのアシストをするからさ」
「うん、分かった。頼りにさせてもらうね」
「……じゃあ、俺はこれぐらいで。じゃあ、また明日」
縊齋は嵐の如く来て去っていった。
そういえば、太久保もそうだけど、縊齋も私に
今もタイミングがばっちりだったし、ちょっと違和感があるんだよな。
……まぁ、いっか。
「ごめんね、みことぉ……ツツデ、怖くなっちゃってさ。全然何もできなかったよぉ……」
「無理もないよ、太久保君見た目なり言動なりがいちいち怖いからね」
「うぅ……みことぉ……あ、話は変わるんだけどさ、縊齋君かっこよすぎない?ツツデ惚れちゃったよ!」
切り替え早いな、おい。
まぁ、でも縊齋がかっこいいのは同意かな。
ありゃあイケメン5選ばれて当然だよね。
「ふじ、ありがとね。ツクバ君への完全論破、凄いスカッとした」
「うふふ、お褒めありがとう。にしても、あのツクバとかいう男、ムカつくわね。太久保は百歩譲って許すとして、あいつだけは駄目ね。ちゃんと後悔させないと気が済まないわ……」
……寒気がしてきたんですが。
いや、あれ程までにツクバの心を傷めつけといて、まだやる気なんですか、フジさんや。
ちょっと鳥肌立ったよ、今。
でも、何がともあれ……。
「二人と友達になれて本当によかった」
「突然どうしたのよ、みことさん」
「ふふ、なんか言いたくなってさ」
「……ツツデも二人と仲良くなれて嬉しいよ。これからもよろしくね!」
「つつでさんまで……あぁ、もう!私も嬉しいわよ!!ほんと変な事言わせないでよね!!」
ふじの照れた姿に私とつつではクスクス笑う。
なんやかんやで九院坂尊命の学園生活、滑り出しは順調です。
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