1章 楽園の天使生
1話 侵入
「そういえば私、高校中退なんッスよね」
「あ、そうか」
「ジュマ」
今日は七月最初の水曜日で、天気は晴れ。
私は街の中心から少し離れたところにある、母校ではない女子校の前を通っているッス。
四、五階建てのビルに囲まれたかんじッスが、そういう場所は全国的にたくさんあって、珍しくはないと思うッス。
そんで、季節は夏なんで、通りを行きかう人たちはみんな半袖なんかの涼しげな格好。
働く人たちもクールビズってやつッスね。
あちらのふくよかなおじ様もハンカチで汗をふきふき歩いているッス。
まあ、私も大人で仕事なんっスけど、ピンクのビスチェにデニムパンツっていうラフなもんになってるッス。
会社に勤めているわけではなく、
「さすがにツインテールの子はいないわね」
グラウンドで行われている体育の授業を見ながら
華彩は私の金髪ツインテ。
ちょっとした事件をきっかけに、人格を持って喋るようになったんッスよね。
いろいろとサポートしてくれるし、いまでは相談役になっているッス。
「ジュマ!」
そうッスね! みたいに答える
早い話が使い魔で、相棒になってから五年になろうかという
白い子犬みたいな姿ッスが、空間倉庫を使えるんで私の荷物なんかを入れてもらってるッス。
ただ、この世界では姿を維持するのにも魔力を消費するんで、いまは私の魔力体の中。
だから会話はしても
「──これで一回りッスね。じゃあ行くッスよ」
「オーケー、
「ジュマ!」
確認をとると、私は閉められた校門を魔力で飛び越えたッス。
同時に
「ほへー、こんなかんじなんッスね」
「すごい」
「ジュマ!」
着地してみると、生徒さんたちの姿は消え、四階建ての校舎は宮殿みたいな建物になり、グラウンドはきれいな庭園になったッス。
宮殿は中世ヨーロッパみたいな雰囲気があってなんか豪勢な飾りが施されているし、白くて丸い石造りの柱なんかも並んでいるんで、神殿の要素も感じられるッス。
柱以外の外観は年代物の建物といったかんじなんで、ビジネスとして考えたら、ホテルとしても利用できそうッス。
庭園も、王様とか偉い人が利用してそうな立派なやつで、意図的に作られた小川や装飾された橋、生垣で区画された通路、ティータイムを楽しめるテーブルやイスなんかがあるッス。
とはいえ、これらはこの学校を触媒にした異空間にある仮初のもの。
空間を支えるものがなくなれば、まるごと消滅してしまうッス。
そんなわけで、この空は晴れなんッスが、意志が働かない限り、曇りや雨になることはないと思うッス。
「彩……」
「ジュマ……」
おっと。
さっきまで認識阻害の魔法を使って、人間からは見えないようになっていたッスが、ここでは隠れないといけないッスね。
私はそばの立ち木に移動し、そこからあらためて覗いてみたッス。
でっかい建物ッスね。
もとの学校がベースになっているんで、大きさで驚くことはないはずなんッスけど、ちょっと宗教色がつくと印象がかわるみたいッス。
では、宮殿に近づくッスよ。
私は周囲を警戒しながら、木から木へ身を隠しながら宮殿の外壁へ。
そこから少し壁伝いに歩いて窓のところへ着いたッス。
「華彩」
「了解」
心のなかで呟くと、華彩は右のツインテを伸ばして窓から覗き込んだッス。
感覚としてはスパイカメラ。
窓っていってもガラスがないんで、ぶつかるとかの心配はないッスね。
「中は吹き抜けで、なんかがらんとしてるわね。そして、制服を着た女の子が見える。おしゃべりをしてる子が二人。本を読んでいる子が一人。寝てる子が一人ね。あ、彩、一旦そっちの
私は身体を回転させるようにして角に隠れ、そっと覗き込んだッス。
すると三階部分の窓から、背中に白い翼がある制服女子が二人、飛んでいったッス。
その様子はまさに天使ってかんじ。
笑いながらふわっと向こうへ行ったんで、空の散歩をするみたいッスね。
二人とも制服が違うんでここで知り合ったんだろうと想像がつくッス。
あの白い翼、
あれが私のターゲットであり、都市神が
翼魔は寄生タイプの魔物で、宿主から精気を得るかわり、その翼で空を飛んだりして宿主とウィンウィンの関係になっているのが普通なんッスが、これはちょっと違うッス。
弱い心を狙って寄生し、宿主にそう思うように仕向けて動く性悪なもの。
例えば、宿主に戦う理由がなくても、翼魔があれは敵だから倒さなくてはならないもの、倒せば英雄になれる、てなかんじで気持ちを誘導し、宿主を戦わせるみたいなことをするわけッス。
宿主を乗っ取って動くことはできないんで、そういうことをするんッスが、最終的には宿主の命を食いつぶして別の宿主へ移るんで、寄生させないかやっつけない限り生き続ける魔物ッス。
「彩、情報を得るためにも、中へ入って接触してみるといいんじゃない?」
「そうッスね」
「二階の方に一人で本を読んでいる子がいたわ。その子なら場所的にもいいと思う」
「ふむ」
「さっき私が覗いた窓から入って行けるわ」
「了解ッス」
「ジュマ」
さて、そんじゃ暗殺モードに入るとするッスか。
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