第254話 戦勝祝賀会

 王都フローリアに夜のとばりが下りる頃、国王主催の戦勝祝賀会が幕を開けた。

 三々五々、夫々それぞれの家紋が入った馬車で現れた招待客は、夫人などの同伴者を伴い、王宮の大広間に吸い込まれていった。


 今日はゴラン帝国とデルファイ公国による侵略戦争に勝利したことを祝う祝賀会なのである。


 今回の侵略戦争で功績があった者に、国王陛下が褒賞を授与し功績を称えるのである。

 デルファイ公国に駐留中の5人の将軍も一時帰国し、ソランスター王国の9人の将軍全員が顔を揃えた。


 オレはシュテリオンベルグ伯爵家の家紋が入った4頭立ての馬車に乗り、正門前に到着すると、6人の婚約者(フローラ、アリエス、ジェスティーナ、エレナ、アスナ、リアンナ)を伴い、馬車を降りた。

 この馬車は、バレンシア商会に依頼して儀礼用に新たに設えたものである。


 オレ達は、執事の先導により、赤絨毯を進み王宮の大ホールに姿を現した。

「シュテリオンベルグ伯爵閣下、並びにフォマロート王国第1王女リアンナ殿下、ソランスター王国第1王女フローラ殿下、並びに第2王女アリエス殿下、並びに第3王女ジェスティーナ殿下、並びにエレナ・アルテオン公爵家ご令嬢、並びにアスナ・バレンシア家ご令嬢、ご到着~」


 オレたちの到着を告げる執事の口上が辺りに響くと、500名を越える貴族や王都の名士が一斉に振り向き、オレたちを拍手で迎えてくれた。

 今夜は王都在住の貴族と有力商家や名士が勢揃いするソランスター王国最大級の晩餐会なのである


 この日、褒賞受賞者の席は用意されているが、一般参加者には決まった席は用意されていない。

 一般参加者には、その代わりとなる多数の円卓が用意され、そこを止まり木のようにして渡り歩くのである。

 広い大広間の天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられ、会場のあちこちには色とりどりの花が飾られて華やかさをかもし出していた。


 この日の晩餐会には200人の侍従や侍女たちが控えており、豪華絢爛ごうかけんらんな料理を次から次へと給仕していた。

 アクアスター・リゾート特産のワインやチーズ、ハム、ソーセージ、スモークサーモンなども振る舞われていた。


 雛壇の最上段には国王と王妃、その隣にマリウス王子、王弟のチェザーレ・アルテオン公爵、軍務大臣のジョエル・リーン伯爵、内務大臣のロカレ・ブース子爵など重臣が並んでいた。

 オレの席は王室一家と同じ雛壇で、左隣りにはジェスティーナ王女、アリエス王女、フローラ王女、右隣にはリアンナ王女、エレナ、アスナが座り、まるで色とりどりの花に囲まれたように華やかだった。


 国王暗殺未遂事件の教訓から、至る所に聖騎士隊の女戦士ヴァルキュリーが配備され目を光らせていた。

 ステラはリーン伯爵家令嬢として、セレスティーナ、アンジェリーナ、ジュリアーナはレイシス男爵家令嬢として、リリアーナ、レイフェリアはブルーアイズ男爵家令嬢として、レクシアはスタージェス将軍令嬢として、ルーシアはガーランド将軍令嬢として、それぞれ正装して護衛任務に当たっていた。


 開式宣言のあと、早速褒賞授与の儀が始まった。

 内務大臣のロカレ・ブースが、褒賞を授与する者の名を順に呼び、国王が褒賞の目録を直接手渡すのだ。

 今回の褒賞授与者は合計32名で、勲功が下位の者から順番に名前が呼ばれた。

 その中には情報省の国外情報本部長のジェラルド・ミュスカと、情報統括官のリリアン・ブライデの名もあった。

 侵攻初期の速やかな情報提供が評価されたらしい。


 終盤になるとブルーアイズ、レイシス、スタージェスなど9名の名だたる将軍の名が呼ばれた。

 それぞれの将軍には、爵位の1階級陞爵と褒賞金1万~5万枚が授与された。


 続いて、軍務大臣として陣頭指揮したリーン伯爵が呼ばれた。

「軍務大臣ジョエル・リーン伯爵。

 貴公の勲功に報い、1階級陞爵しょうしゃくさせ、侯爵位を叙爵する。

 合わせて旧ボルテーロ侯爵領を所領として加増し、更にはその王都屋敷、並びに褒賞金としてスター金貨10万枚を授与する」


「はは~、有難く頂戴します」

 ジョエル・リーンは国王から目録を授与された。


 最後にオレの名前が呼ばれた。

「情報大臣カイト・シュテリオンベルグ伯爵。

 貴公は、此度の戦争に於いて特に目覚ましい勲功を上げた。

 よって、その勲功に報いるため、ブルースター勲章を授与し、更には2階級陞爵しょうしゃくさせ、公爵位を叙爵する。

 合わせて旧ハフナー公爵領を所領として加増し、その王都屋敷、並びに褒賞金としてスター金貨20万枚を授与する」

 それを聞いた会場からは、どよめきが起こった。


 ちょっと待て、ブルースター勲章ってなんだ?

 この前の国王の内示では、そんな話は無かったはずだ。

 後で聞いた話であるが、ブルースター勲章はこの国の最高勲章であり、王族と同等の待遇が得られる特別な勲章らしい。

 今更断れないし、くれるっていうモノは貰っておけとジェスティーナが言っていたから貰っておくことにしよう。

 オレは国王の前に進み出て、ブルースター勲章と褒賞の目録を受け取ると、国王は「カイト殿、良くやった」と小声で言い片目を瞑って悪戯っぽい笑みを見せた。


「ははー、有難く頂戴致します」

 オレは型どおり答礼した。


 全員の褒賞授与が終わり、国王陛下からお言葉があった。

「皆の者、今日はソランスター王国戦勝祝賀会に、よう来てくれた。

 我が国及び我が同盟国を侵略し、その国土と民衆を蹂躙しようとしたゴラン帝国、デルファイ公国を主軸とする悪の連合国に正義の鉄槌が下された。

 ここにいる9人の将軍と軍務大臣であるリーン侯爵らは王国法に則り、迅速かつ的確な働きにより、国土を防衛してくれた。

 此度の褒賞に相応しい勇敢な働きだと儂は思おておる」


「中でもシュテリオンベルグ公爵の活躍は特に目覚ましいものであった。

 皆も知っておろうが、シュテリオンベルグ公爵は儂の娘を3人とも掻っ攫った、稀代の悪党じゃ」


 え、なんか、オレの話になってるんですけど…

 しかも、悪党呼ばわりとは、冷静に聞いては、おられん。


 国王の話は更に続いた。

「更には、儂の姪のエレナ、バレンシア商会のアスナ嬢、遂にはフォマロート王国のリアンナ王女まで嫁にしてしまうと言う大悪党じゃ。


 しかも、この男、中々悪知恵が働く男でのう…

 我が国に攻めてきたデルファイ兵4万に奇襲を仕掛け、目眩ましを使って根こそぎ捕虜にしたのじゃ。

 兵4万じゃぞ。

 儂は、その話を聞いた時、呆れて開いた口が塞がらんかったわい…


 クーデター未遂事件の時もそうじゃ。

 どこで嗅ぎつけたか分からんが、ゼノスとハフナーの企てを察知し、奴らをまんまと罠に嵌めたのじゃ。


 実にずる賢い男じゃ…

 しかし、このずる賢い男のお陰で、こうして今、儂はこのような話ができるわけじゃ

 この中には、彼奴きゃつに褒賞をやり過ぎじゃないかと思っておる者がいるかも知れん…

 儂の娘婿になる男じゃから、贔屓したのだろうと申す者も居るかも知れん…

 しかし、儂はそんなケツの穴の小さい男ではないぞ。


 彼奴きゃつは、此度の褒賞に見合う十分な働きをしたのじゃ。

 考えてもみよ、ゼノスらのクーデターが成功しておったら、今ここで呑気に祝勝会などやっておれんぞ」

 4万の兵が国境を超えたとしたら、どうじゃ?

 今頃、王宮は戦場となっておるかも知れんのじゃ…

 この男は、それだけの働きをしたと言うことじゃ。


 言うて置くが、彼奴きゃつの勲功は、これだけではないぞ…

 アプロンティア王国のクーデターを未然に察知し、反逆者を炙り出し…

 フォマロート王宮で捕虜となっていたレイナ王女と従妹の救い出し…

 更には、ゴラン帝国皇帝を人質に取り、フォマロート王国から14万の敵を撤退させた。

 これらは、今回の褒賞には入っておらんが、それぞれの国で褒賞を考えているであろう。

 のう、リアンナ王女」

 急に話を振られたリアンナ王女は、クラウス国王に何度も頷いた。


 彼奴きゃつは、女神フィリア様の加護を受けておるとか、フザけたことを申しておるが、実際にその通りらしい。

 今回も未知の力で敵を翻弄したのじゃからのう。


 さて、あまり婿殿を茶化すと娘たちが怒り出しそうじゃから、この辺にしておこうかのう。

 儂が言いたかったのは、シュテリオンベルグ公爵は、褒賞に見合う以上の勲功を上げたと言うことじゃ。


 もし、シュテリオンベルグ公爵と同等の勲功を上げたと言う者が居れば今すぐ申し出よ。

 その働きが真であれば、儂は喜んで今以上の褒賞を与えようぞ。


 最後に、ソランスター王国を窮地から救った英雄たちに拍手を送ろうではないか」

 国王がそう言うと、参加者全員が割れんばかりの拍手で、救国の英雄たちを称えた。

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