第162話 エルドラード・プロジェクト懇親会(前編)
会議は、シュテリオンベルグ伯爵領の観光振興を主目的とする企業体の検討に移った。
協議の結果、名称は『シュテリオンベルグ開発共同企業体(SDC)』とし、出資金の残り25%、金貨40万枚(400億円)が資本金と決まった。
当初は、名称にリゾートの文字が入っていたが、領内全体の地域振興が主目的だと言うエルビン・サエマレスタの主張により、リゾートの文字を削ったのだ。
SDCの役員は下記の通りと決まった。
会長 カイト・シュテリオンベルグ伯爵
副会長 ジェスティーナ・ソランスター王女
副会長 チェザーレ・アルテオン公爵
副会長 ゼビオス・アルカディア
副会長 エルビン・サエマレスタ
副会長 リカール・バレンシア
監事 レオナード・イシュトリア
監事 ロランド・アランベルグ
監事 アスナ・バレンシア
監事 エリオス・アルカディア
監事 アンジェラ・サエマレスタ
監事 カレン・イシュトリア
監事 マリエル・アランベルグ
『エメラルド・リゾート株式会社(ERC)』と『シュテリオンベルグ開発共同企業体(SDC)』の職員は、それぞれの企業から数名ずつ出向させ、その他の社員は領内から公募することとなった。
2つの企業プロジェクトの総称は『
以上で、全ての議事を終え、閉会した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、ほぼ同じメンバーで懇親会が行われた。
会場は、イシュトリアシーフード2階のテラス席だ。
VIPばかりの宴席なので、もちろん2階は貸し切りである。
イシュトリア・シーフードのオーナーであるレオナード・イシュトリアと娘のカレンが自らの店の威信を掛けて、自慢の料理を提供したのであろう。
それもその筈、参加者は何れも名士ばかりなのだから。
王都からはオレとジェスティーナ、アルテオン公爵一家、バレンシア
公爵は今回、夫人のマリアと娘のエレナを連れてきている。
飛行船に乗りたい、旅行がしたいと言うエレナの要望で急遽同行が決まったのだ。
エレナはジェスティーナの1歳年下の
それ以外はシュテリオンベルグ伯爵領の経済界を半分以上は掌握しているであろう名士である。
発起人であるオレの挨拶の後、乾杯の発声を王弟であるチェザーレ・アルテオン公爵にお願いした。
「皆さん、ここにいるカイト殿は、姪のジェスティーナ王女の婚約者であります。
という事は、将来国王陛下の
彼は、姪を盗賊の襲撃から救い、国王陛下を刺客の襲撃から救い、しかも女神フィリア様の加護を受けていると言う、驚くべき人物です。
そして自らの
更に今回、前領主の悪行悪政を暴き、その褒賞としてこの所領を与えられた。
これらの偉業は、彼が幸運だったから成し得たことでしょうか?
いいえ、そうではありません。
彼には元々卓越した才能があり、それを実現するために緻密な計算を行い現実化していく
おいおい、公爵様、それは幾ら何でも褒め過ぎでしょ、と思いながらオレは黙って聞いていた。
「その彼が、この地の復興のため、力を尽くすと言う。
しかも、その方法がリゾート開発と言うユニークな手法で、地域振興を行おうと言うのです。
私はその話を聞いた時、これは是が非でも力になりたいと思いました。
それは恐らく、国王陛下も同じでしょう。
ここにお集まりの皆様も、カイト殿の話を聞いて賛同された方ばかりだと聞いています。
今ここで断言しましょう。
このプロジェクトは、必ずや成功する事でしょう。
我々の想像を遥かに超える大成功へ、カイト殿がきっと導いてくれる筈です。
私はそう確信しております。
少々話が長くなってしまいました。
それでは乾杯しましょう、皆様グラスをお持ち下さい」
一同は、フルートグラスを持ち、公爵の方を向いた。
「皆様のご健勝と
参加者は『カンパ~イ』と唱和し、お互いのグラスを合わせた。
乾杯が終わると、このレストランのオーナーであるレオナード・イシュトリアが口を開いた。
「アルテオン公爵閣下、ありがとうございました。
さて、皆さんの中には、レストランチェーンやカフェを経営されている同業の方もいらっしゃいますが、本日は私どもイシュトリアシーフードが、現在ご提供できる最高の食材をご用意致しましたので、ぜひご賞味下さい」
確かに最高の海の幸が並べられている。
中には前回、伯爵領中心メンバーの慰労会を行った際、好評を博した刺盛りがあった。
ここの料理長は刺盛りの造り方をマスターしたらしく、今ではこのレストランのレギュラーメニューに加えているそうだ。
ヒラメ、マグロ、ブリ、タイ、ノドグロ、ホタテ、ヤリイカ、牡丹エビなど12種類の新鮮な刺し身、真ん中の小鉢には
その他にも車海老の塩焼き、ノドグロの塩焼き、シーフードパエリア、海鮮スープ、アサリのワイン蒸し、アクアパッツァ、カクテルシュリンプ、3大ガニ(タラバガニ、ズワイガニ、毛ガニ)の盛り合わせなど、食欲を
「本日のワインは、シュテリオンベルグ伯爵閣下が地元で造られた『アクアスター・ワイナリー』の珠玉のワインをご提供頂いております」
「シーフードに合わせて、泡と白が御座いますので、ご賞味下さい」
「また、赤白泡の3本セットをお土産として頂戴しましたので、お帰りの際にお持ち帰り下さい」
レオナード・イシュトリアが、そう言うとワゴンに載せられた山のようなワインが運ばれてきた。
そう、これはオレの領地でローレンが丹精込めて造った自家製ワインだ。
それをオレとサクラが名付けた『アクアスター・ワイナリー』と言うブランドで、領外で販売することにしたのだ。
今夜は、最大のライバルであるアルカディア・ワイナリーのオーナー、ゼビオスも出席する懇親会でワインを提供するのだから、言わば『宣戦布告』のようなものである。
案の定、ゼビオスがオレの方にやって来てこう切り出した。
「ご領主様、このワインは中々に良いワインですなぁ」
「ゼビオス殿、その呼び方はこの場では違和感ありますから、私のことはカイトとお呼び下さい」
「承知しました、それでは今後はカイト殿とお呼びします。
それにしても、カイト殿がワインを造られているとは知りませんでしたぞ。
このワインはどこで造られたのですか?」
「私の領地、アクアスター・リゾートで造っているワインです」
「なるほど、これほどのワインを造られるとは、私もウカウカしておれませんなぁ」と言って豪快に笑った。
「いや~、実はゼビオス殿のワインがあまりに美味いので、ついつい
「そうですか、それは光栄です。
でもこのワインも十分に美味いですぞ。
商業ベースでも当社の商品と十分に戦える品質だと思います。
お互いに
ゼビオスはそう言うと余裕の笑みを浮かべた。
恐らく、彼は自社ワインの方が、まだ上だと思っているのだろう。
経験と実績では、
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