第134話 MOGとBIMの組合せは最強!

 サエマレスタ・リゾートの最上階にあるスイートルームで、オレは海を眺めながら女神フィリアと電話していた。 


「え、3Dプリンターで作る?」

 フィリアは設計データを元に3Dプリンターで建物の部品ユニットを生成し、ブロックのように組み立てると言いたいようだ。

 なるほど、ユニット工法のオリジナル版か。


 オレが転生する前の世界、つまり地球にいた頃、3Dプリンターは普及期に入り、街の大型家電店やネットショップでも多種多彩な機種が販売されていたので、ある程度の知識は持っていた。


 3Dプリンターとは、コンピュータで設計した3D(3次元)CADデータを元に立体的な物体オブジェクトを作り出す機械マシンのことだ。

 フィラメントと呼ばれ螺旋状らせんじょうに巻かれた細い棒状の樹脂レジンを溶融し、薄い層を積み上げる積層方式が基本で、様々な性質の樹脂や金属などの素材から物体オブジェクトを作り出すことが可能だ。

 最近では大型車の部品等、大きさと強度が要求される物体オブジェクトを製作可能な大型3Dプリンターも開発されたと聞いている。


 しかし、女神フィリアの説明を聞く内にオレが知っている『3Dプリンター』とは、似て非なる機械マシンであることが徐々に分かってきた。


 それは機械マシン内部の真空無重力空間でナノサイズ(1億分の1mm)の粒子を100万分の1ミリ秒単位の時間を制御し、寸分の狂いもなく指定した座標に配置して特殊な技術で結合させ物体オブジェクトを生成する技術なのだ。


 地球上の3Dプリンターの場合、重力を無視できないので下から積層して生成するのが基本だが、無重力空間ではどの部分から作ろうと関係ないのだ。

 ナノ粒子をどのように配置し、どのように結合するかは謎であるが、原理は何となく理解できる。


「この装置の正式名称は多次元物体生成装置(MOG:Multidimensional Object Generator)って言うのよ」

 なるほど、確かにその呼び名の方がしっくり来る気がする。


「ねえ、カイトくん聞いてる?」

 オレが押し黙り、考え込んでしまったのでフィリアがそう聞いたのだ。


「ええ、聞いてますよ。

 でも建物の素材って、樹脂だけじゃなく金属とか石材とか木材もあるんですが……」


「MOG(多次元物体生成装置)の素材は約7000種類あって、今は作れない物が殆ど無いみたいだよ」


 女神から聞いた話では、ABSなどの樹脂、金属、セラミック、ポリカーボネート、カーボンファイバー、ポリプロピレン、ガラス、不織布、木材など多岐に及ぶ素材が使えるらしい。


 MOG(多次元物体生成装置)は建物だけでなく、乗り物や機械装置、構築物など3Dデータさえあれば、ありとあらゆるオブジェクトを生成できるそうだ。

 ちなみに『空飛ぶイルカ号』の船体は、MOGで作っていると女神フィリアが教えてくれた。

 ということは、アダマンタイトやミスリルも素材として使えるということだ。


「ところでMOGって、最大でどれくらいの物体オブジェクトが作れるんですか?」


「そうね~、確か3辺が最大で18mまでは大丈夫だったはずよ」


「どれだけ巨大な装置なんですか」

 思わず笑ってしまうくらいの規模だ。

 そんなのあれば何でも作れるじゃん、とオレは思った。


 しかも設計図通りに作れて、組み立てもしてくれるのだから言う事なしだ。

 女神フィリア曰く、これを「MOG工法」と呼んでいるそうだ。


「ところで建物の基礎はどうなるんですか?

 基礎だけ別とか言わないで下さいね」


「基礎も設計図があれば、その通り作って設置してくれるよ」


「は~っ」

 オレは思わず溜息が出てしまった。


「確か、カイトくんって建築デザイナーだったよね~」


「そうです」


「それなら自分で設計したデータを使えば良いんじゃない?」


「そうですね、設計は本業だからできますが…

 でも何か特殊なソフトを使うんじゃないですか?」


「う~ん、普段使ってるので大丈夫だと思うけど…

 カイトくんは、いつもどんなソフト使ってるの?」


「最近はBIM(Building Information Modeling)を使ってますね」

 BIMとはコンピューターで、現実と同じ建物の立体モデルを作成して、平面図や立面図、断面図、展開図、屋根形状、パース図などの図面の他、その建物に使用する壁材、建具、設備、部材、家具などの配置、性能、品番、数量、価格など建築設計で取り扱う全ての情報を一元管理できるシステムである。


「へ~、そんなシステムがあるんだ。

 でも、私が管理している世界のデータ形式であれば、変換できるから大丈夫だよ」


「設計図を送ってくれれば、あとはこちらで最適化したユニットに分割するから」


「ところで、お値段はおいくらくらいですか?」


「建物の大きさにもよるし、構造の複雑さにもよるから一概にいくらとは言えないけど、製作自体は自動だし、案外安いと思うよ。

 BIMのデータがあれば見積もりできるから、完成したらメール送ってみてね」


「一番難しい建築設計を外注しなくていいから、その分安くできるね。

 カイトくんの設計の実力が認めらたら、他から仕事が来るかもよ。

 建築設計費って、外注したら高額だから良い稼ぎになるんじゃない?」と女神フィリアは笑っていた。


「話が壮大過ぎて、頭が拒絶反応起こしてますよ…」


「あ~、それ無理ないかも。

 カイトくん、メールでMOGのマニュアル送っておくから、読んでおいてね~。

 それじゃ、バイバイまたね~」

 そう言ってフィリアはオレの返事も待たずに電話を切った。


 相変わらず、せっかちな女神だ。


 女神の話を総合するとオレが設計した建物のデータを送ると、それを最適化してブロックを組み立てるような感じの建築ユニットをMOGで自動生成してくれると言うわけだ。


 もし本当にMOGによる建築が、実用に耐えうるレベルであるとするならば、エメラルド諸島のリゾート開発に使えるんじゃないかとオレは内心期待していた。

 MOGとBIMを組み合わせれば、それこそ最強。

 どんな斬新な建物でも強度があって3Dデータで表現できれば実現可能なのだ。


 オレが独りでニヤけていると、スマホが鳴った。


 見ると女神フィリアであった。

「はいはい、どうしました?」


「あ、カイトくん、さっきのMOGの件なんだけどさぁ…

 レンタルって方法もあるんだけど、どうする?」

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