第37話 デルファイ公国の陰謀

 ジェスティーナ王女の話では、父である国王クラウスのめいにより、遠縁に当たるデルファイ公国へ王国の公使として向かう途中だったとのことであった。


 デルファイ公国は、ソランスター王国の初代国王エリオス・ソランスターが王国の建国に尽力した弟オルランドの功績に報いるため、王国の飛び地であるデルファイ地方の統治権を与え、独立承認したのが始まりであった。

 それ以降ソランスター王国とデルファイ公国は、親しい親戚筋の国として、交易や人事交流、共同軍事訓練などを行ってきたのだ。


「親戚筋と言っても、もう120年前のことなので、最近は徐々に疎遠になっていました」

「今回の公使派遣には、少しでも交流を深めようと言う意図もあったのです」とジェスティーナは噛みしめるように言った。


「何故、盗賊共は王国の紋章が入った馬車を襲ったのでしょう」

「盗賊と言えど、その行為が王国を敵に回すことになるくらい、分かりそうなものですが」


「それは、捕虜を尋問すれば分かるはずです」

 ルイス・エルスタインは何か思い当たることがあるかのように言った。


「それにしても、ハヤミ様は、良くその場に居合わせましたね」


「実は私も王都からの帰りだったのです」

 オレは領内で作った4種類のポーションを売るために、バレンシア商会に商談に行き、錬金術師ソラリア・シュヴェリーンに依頼して錬金釜を作ってもらうこと、錬金術師のトリンが3ヶ月間ソラリア師の元で修行することなどを掻い摘んで説明した。

 アスナは、バレンシア商会の副当主として、領内の視察に来たこと、ステラは王都往復の護衛として雇用したことを王女に話した。


「そう言えば、花の女神のパレードで王女殿下を見かけましたよ」


「花の女神など、私には過分な役だと最初はお断りしたのですが、陛下からの勅命で仕方なく参加したのです」


「そうなんですか、でも殿下のイメージにピッタリの衣装で、とてもおキレイで、思わず見惚れてしまいました」


「まあ、ハヤミ様ったら、お上手ですこと」

 超絶美少女が照れながら頬を染めている姿を見るのは、眼福がんぷくの極みである。


「カイト様の館も本当に素晴らしいですね。

 女神様が作られたそうですが、森も湖もこの白亜の館も庭園も全てが調和していて、とても素晴らしいですね」


「そうなんです、素晴らしすぎて女神様に感謝しても仕切れないです。

 それに最近、温泉も出たんですよ」


「え、温泉ですか?」


「そうです。

 女神様の許可を得て、地下700mまで掘ったら、温泉が出たので露天風呂を作りました。

 湖畔の綺麗な景色を見ながら入る天然温泉は最高ですよ」


「その露天風呂、私も入ってみたいです!」

 ジェスティーナ王女は子供のように目を輝かせた。


「もしよろしければ、女性の方々で温泉に入られてはいかがですか」


「はい、ぜひ入らせて下さい」

 女性たち3人は目を輝かさせた。

 なんとステラまでが目を輝かせていたのには驚きだ。


「カイト様、こんな立派な館に1人で住んでいるなんて勿体ないですよ」

 デザートを食べ終わったアスナが口を挟む。


「確かにそうですね。

 この館には、スイートルームを含む客室が27室もあるので、希望者がいれば、ご招待しても良いと思っているんです」


「それは良い考えです。

 でも招待するにしても、流石に無料という訳にはいかないでしょうから、応分の対価をいただくとか。

 ハヤミ様が、じっくりと検討されては如何でしょう。

 もし宜しければ、私もお手伝いしますよ」

 何か商売に繋がりそうな匂いを感じたのか、アスナは目を輝かせていた。


 その話にジェスティーナが反応する。

「この館を宿泊施設として開放されるのでしたら、私もまた泊まってみたいです。

 私は明後日帰国しますが、また機会があればここに来ても宜しいでしょうか?」

 ジェスティーナ王女は、懇願するような目でオレを見た。


「もちろん王女殿下でしたら、いつでも歓迎致します」

 むしろ、それはオレも望むところだ。


 3人の美女に囲まれ、心地よい時間を過ごした宴の後、酒の酔いも手伝って、オレは部屋に戻るとすぐに寝てしまった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 目を覚ますと既に深夜1時を廻っていた。

 会食の後、そのまま寝てしまったので、オレは露天風呂に入ることにした。

 24時間、何時いつでも入れるのが源泉かけ流しの良いところだ。

 この時間帯なら露天風呂には誰も入っていないはずだ。


 オレは専用エレベーターで1階まで降り、露天風呂へと向かった。

 案の定、温泉には誰も入っておらず、貸切状態だった。

 少し肌寒かったが、温泉に入ると、ちょうど良い温かさだ。


 見上げると満天の星空が素晴らしかった。

 湖の上方には、新月に近い三日月が遠慮がちに出ていた。

 深夜ということもあり、周囲の灯りは消え、通路の僅かな灯りだけが灯っている。


「やはり温泉はいいよな~」っと独り言を言い、星空を眺めていると、誰かが入って来る音がした。


 そして小さな声でこう言った。

「どなたか、いらっしゃいますか?」

 それは、まぎれもなくジェスティーナ王女の声であった。

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