レイクリゾート・オープン編

第111話 リゾートのプレオープン(1)

 女戦士ヴァルキュリー3人との『忠誠の儀』が滞りなく終了し、その夜、彼女たちはジェスティーナが用意した客間に泊まった。


 彼女達にとって初めての『忠誠の儀』であり、緊張し疲れもあろうから、ゆっくり休んて欲しいと、ジェスティーナが気を使ってくれたのだ。


 3人の女性を相手にしてオレも精神的に疲れていたが、その夜は更に続きがあった。


 寝室に来たジェスティーナがベッドで休んでいたオレの横に座り、意味ありげな目をして、耳元でこう囁いた。

「カイト、わたしとの『忠誠の儀』が、まだ残っているわよ」


 ジェスティーナはオレと女戦士ヴァルキュリー3人との『忠誠の儀』が終わるまで、1階のリビングで待機していた。

 時折2階の寝室から漏れ聞こえる声に刺激され、図らずしも興奮状態となり、それを沈めないと寝られなくなっていたのだ。


 オレが他の女性達と関係を持っても、兎や角言わないと、ジェスティーナは口では言っていたが、心と身体は別物なのだろう。

 オレは健気なジェスティーナの要求に答え、彼女が満足するまで何度も体を重ねた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 次の朝、目覚めるとジェスティーナはダイニングで朝食の用意をしていた。

 昨夜の『忠誠の儀』を労う意味もあるのだろう。

 女戦士ヴァルキュリーの3人に自らが用意した朝食を振る舞うのだ。


 とは言っても、その日のメニューはベーグルとベーコンエッグ、オニオンスープにサラダと紅茶と言う、さほど手間のかかる朝食ではなかった。

 オレたちは朝食を済ますと出発準備に取り掛かった。


 今日は記念すべきアクアスター・リゾートのプレオープンで、オレには招待客ゲストを飛行船に乗せリゾートまで送り届ける主催者ホストとしての重要任務があるのだ。


 来週に迫ったグランドオープンまでの1週間はプレオープン期間として、招待客5組のみの限定営業でスタッフの対応状況を見極めることになっている。


 王室庭園中央広場に停泊していた飛行船に、最初に乗り込んだのはオレの婚約者フィアンセであるジェスティーナ王女であった。

 長い間、王宮の外に出られない『籠の鳥』の生活を続けたのだから、彼女にとって外の世界へ出られる喜びは格別のものだろう。


「お姫様、お手をどうぞ」

 オレは少しおどけて、ジェスティーナの手を取り、飛行船『空飛ぶシャチ号』の船内に招き入れた。


「あら、カイト、ありがとう」と素直にオレの好意を受け入れた。

「この船、初めて乗るけど、前の船より大きいわね」と感想を述べた。


「そう、この船にはイルカ号の倍の人数が乗れるんだ」と説明し、操縦席の隣の席へ彼女を案内した。


 続いて船に乗りこんだ女戦士ヴァルキュリー3人は初めての飛行船を物珍しそうに眺めていた。

「席に座ったら、シートベルトを締めてね」

 そう言ってオレは彼女たちにシートベルトの締め方と外し方を教えた。


 次に乗り込んだのは、王宮の客間に宿泊していたステラとサクラ、そしてメイドたち4名である。

 そして小さな天才リトルジーニアススーがソフィアと手を繋ぎタラップをゆっくりと上がってきた。

「カイトお兄ちゃん、おはよ~」と愛くるしい笑顔でオレに挨拶した。

 今日も金髪ツインテールで天使のような可愛さだ。


「お早う、スー、今日も可愛いね」

 オレは笑顔で彼女の頭を撫で飛行船へ乗せた。


 その後、補佐官アーロン・リセット、連絡担当官ヴァレンス、レガート部隊長が乗り込んだ。

 彼らも飛行船は初めてで興味深げに見回していた。


 駐留軍司令官のルイス・エルスタインは、兵を率いて後日陸路で来ることになっており、今回は飛行船には乗らないのだ。


 集合時刻の午前9時になると、オレの顧問であり、今回の招待客ゲストでもある王室顧問のオディバ・ブライデ博士が妻を連れてやってきた。

「カイト殿、昨夜は楽しみで寝られんかったぞ」と顔をクシャクシャにしながら言った。


 続いて王弟のアルテオン公爵夫妻と娘のエレナがやってきた。

「カイト殿、今回は世話になるが、よろしく頼むぞ」

 そう言って公爵はオレの肩をポンポンと叩き、公爵夫人はオレに笑顔で会釈した。


「カイトさま~、お早うございま~す」

 そう元気に挨拶したのは娘のエレナだ。

「わたし飛行船に乗るの楽しみだったの~」と はしゃいでいた。


「もし良かったらジェスティーナの隣が空いてるから、そこに座るといいよ」

 エレナはジェスティーナの一つ年下の従姉妹で、実の妹のように可愛がっているのだ。


「カイト様、王宮から搭乗する方、全員乗船されました」

 乗船漏れがないかサクラがリストでチェックしてくれたのだ。

 乗客の乗船チェックは、サクラがマニュアル化してくれて、毎回乗船時にチェックすることになっているのだ。


 飛行船は王室庭園中央広場を離陸し、王都上空を低空で移動した。

 向かう先は、アクアスターリゾート株式会社王都支店の飛行船ポートである。

 自動操縦で静かに着陸すると、既にバレンシア商会当主と娘のアスナ、それとトリンの師匠である錬金術師ソラリア・シュヴェリーン師が待っていた。


「カイト様、この度はご招待ありがとうございます、今から温泉楽しみにしています」

 そう言って、ソラリア師はタラップを上り、ソニアが案内した座席に座った。

 ソラリア師は、どう見ても20台後半にしか見えないのだが、実は100歳を超えていると言う噂だ。


「カイト殿、リゾートのオープンおめでとうございます」

 そう言ってタラップを上がってきたのは、アスナの父でバレンシア商会当主のリカール・バレンシアだった。


「いえいえ、これもバレンシア商会の全面的な協力があったからです、ありがとうございます」とオレは感謝の意を伝える。


 少し待ってみたが、踊る銀ねこ亭の女将と亭主が姿を現す気配はなかった。

「時間、間違えてるのかな~?」

 オレは飛行船に乗り込んで来たアスナに聞いた。

「アスナ、踊る銀ねこ亭の女将、見かけなかったかい?」


「見てないわ、まだ来てないんじゃないの」

 定刻になっても現れないとは、何かあったのだろうか?


 少し考えてから、オレは飛行船で迎えに行くことにした。

 銀ねこ亭から、ここまで徒歩だと往復30分は掛かるからだ。

「1組来ないので、飛行船で迎えに行きます」

 オレは乗客に事情を説明し、飛行船を低空飛行で銀ねこ亭へ向かった。


 銀ねこ亭の近くに飛行船が着陸できる位の公園があったのを思い出した。

 そこから銀ねこ亭までは、5分もあれば往復できる筈だ。


 公園には、数人の人がいたが、飛行船を降下させていくと場所を空けてくれた。

 そして遠巻きに飛行船を取り囲み、珍しそうに見ていた。


 オレは1人で踊る銀ねこ亭まで走った。

 ドアをノックし中に入ると女将と亭主が荷物を抱えて座っていた。

 亭主の顔をハッキリと見たのは、この日が初めてだ。


「女将さん、時間になっても来ないから、忘れてるんじゃないかと思って迎えに来たよ」


「えっ、カイトさん、馬車で迎えに来るって言ってたじゃないか」


「あっ、そうか、迎えに来るって言ってたんだった、忘れてたよ」


「なんだい、しっかりしとくれよ~」と女将は呆れていた。


「ごめんごめん、みんな待たせてるから、とにかく急いで」


 オレが急いでいるのを理解し、女将と亭主は荷物を抱え、広場に向けて走り出した。


 息を切らし、公園に着くと、飛行船の周りには人集ひとだかりができていた。

 女騎士ヴァルキュリーの3人とステラが飛行船の四方に立ち、野次馬が飛行船に近づかないように警備してくれていた。


「え、これは何ごとだい」

 大勢の野次馬が集まっているのを見て女将が言った。


「えっと、女将には説明してなかったけど、これに乗って行くんだよ」

 オレが飛行船を指差すと、女将は目を見開き驚いていた。


「え、ホントにこれに乗るのかい…」

 理解が追い付かず、些かパニック気味な女将を急かし、タラップを昇らせた。


「皆さん、遅れてたいへん申し訳ありません」

 そう言って謝りながら、女将は飛行船に乗り込んだ。


「女将、荷物は預かるよ」

 オレは女将と亭主が抱えていた大きな荷物を預かり、荷室に積み込んだ。


 その間にサクラにもう一度、乗客の点呼を指示し、全員揃っていることを確認してもらった。


「カイトさん、あのキレイな女の人、どこかで見たことあるんだけど、誰だっけ?」

 女将が小声で言い、指さしたのは操縦席のオレの隣りの席に座っているジェスティーナだった。


「ああ、あれはジェスティーナ王女、オレの婚約者フィアンセだよ」


 そう言うと女将は目を見開き、口をあんぐりと開け固まった。

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