レイクリゾート編

第1話 メイド喫茶かよ

「お帰りなさいませ~、ご主人様~!」

 そこには30人以上ものホンモノのメイドたちがオレを出迎えていた。

 しかも全員アイドル並みのハイレベルな美少女たちである。

 まるでメイド喫茶のようだ。


 ここはオレが転生した異世界にある豪華リゾートの入口だ。

 オレは今日からここの所有者になったのだ。

 このリゾートを、どのように手に入れたのか、それは少し長い話になる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オレの名前は速水海都はやみかいと、年齢は30歳だった。

 某有名大学の建築学部を卒業し、大手ゼネコンで建築デザイナーとして勤務していた。


 父親は世界的に有名な建築デザイナーで、その2世だから所謂いわゆるサラブレッドという訳だ。

 ちなみに母親は業界をリードするコスメブランドの社長。

 小さい頃から何不自由なく育ったが、両親とも超多忙で愛情に飢えていたのは確かだ。

 大学在学中から、国内の建築コンペに入賞し、鳴り物入りで大手ゼネコンに勤務してからは、権威ある海外建築コンペでグランプリを受賞するなど「将来を嘱望された新進気鋭の建築デザイナー」というのがオレの評価だ。


 才能に恵まれ、仕事も順調、そういう意味では幸運だったのだろう。

 ただ一点を除けば… 


 唯一恵まれなかったのが「女運」だ。

 将来有望なオレに、言い寄ってくる女は数多あまたいたが、決まって悪女ばかり。


 結婚まで考えた女もいたが、他の男と二股だったり、付き合っている内に他の男と浮気したり、金目的だったりと不運の連続だった。

 その反面仕事は順調で、忙しさにかまけて、女運の悪さはさほど気にしていなかった。


 超多忙な日々が続いたが、ある大型プロジェクトが終了し、1週間のリフレッシュ休暇をもらい、東南アジアのある国へ1人旅に出掛けたのだ。


 その日は有名な仏教寺院遺跡を「トゥクトゥク」に乗って巡り、夕方ホテルに戻ってきた。

 古代建築に触れ、インスピレーションも湧いて、新たな仕事に取り組む「充電」も十分できた。


 明日は帰国と言う異国最後の夜、快く旅行に送り出してくれた同僚や先輩にお土産を買おうと、繁華街に出かけた。


 少し怪しいネオンが灯る繁華街で、辿々たどたどしい日本語の客引きをあしらいながら、土産物を購入し、ホテルへ戻ろうと思ったその時。


 物売りの少年が土産物を売りつけようとオレ目掛けて道路を横断して来た。

 その時、猛スピードで走ってきたトラックがクラクションを鳴らしながら、少年に向かって突っ込んできた。


 オレは、反射的に荷物を放り出し、少年に向かって走った。

 間一髪、少年を抱きかかえて反対車線に走り込んで「助かった」と思った瞬間、反対側からも車が来ていたのだ。


 声を出す間も無くオレは宙を舞っていた。

 頭の中で今までの人生がコマ送りで走馬灯のように蘇ってきた。

 あ~、これって死ぬ時に見るやつだなぁと思いながら、最後に見えたのは、やけにくっきりした星空だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 気が付くと、オレは果てしなく続く白い雲の上に立っていた。


 周りを見廻すと、微笑みを浮かべた絶世の美女が立っていた。

「も、もしかして、女神さま?」


「私は、女神フィリア、この世界の管理者だよ」

 なんか、随分と軽そうな女神である。


「すると、ここは天国?」


「ん~、カイトくんが思っている『天国』とはちょっと違うかなぁ」

 女神はオレを、くん付けで呼んだ。


「私、実はパラレルワールドを管理する超時空生命体の一員なの…

 180の世界を1人で管理してるから忙しいんだよ」


「パラレルワールドを管理する超時空生命体?」

 にわかには、信じがたい言葉だった


「まあ落ち着いて、こちらでお茶でもいかが?」

 どこからかメイドが現れコーヒーを出してくれた。

 それを飲むと不思議と心が穏やかになった。


 対面に座った女神はニコニコ微笑みながら言った。

「少しは落ち着いた?」


「はい、何とか……」


「カイトくんは、命をかけて子供を助けようとしたよね。

 お陰であの子は助かったけど、それと引き換えにカイトくんは命を落としたの…」


「えっ、あの子、助かったんですか?」

 命掛けで救った子供が無事だと聞いてオレは安堵した。


「私ね、カイトくんの行動は、称賛に値すると思ったの」

 女神フィリアは真顔で言った。


「でも残念だけど、一度死んだら元の世界に生き返らせることは出来ないんだ。

 だから、カイトくんの選択肢は2つ…

 1つは、魂を浄化して、記憶も消去して新生児として別の世界に転生すること。

 もう1つは、魂も記憶も今のまま、違う体で別の世界に転生すること。

 カイトくんは、どっちがいい?」


「ん~、そうですね~……

 やはり、今の知識・記憶を持ったまま、人生をやり直してみたい、かなぁ…」

 

「分かったよ、それじゃカイトくんの言う通りに転生させるね。

 それと、命懸けで少年を救ったご褒美として、望みを3つ叶えてあげるよ。

 カイトくんの望みは何?」


「えっ、ホントですか?」


 オレは、暫く悩んだ後、こう答えた。

「オレは景色が綺麗で、静かな場所に住んでみたいと思ってたんです…

 例えば、森と湖に囲まれた白亜の城みたいな…

 2つ目は、前世で女運が悪かったから、今度は女運に恵まれると嬉しいなぁ。

 3つ目は、生活に困らないようにして貰えると助かります」


「森と湖か…、ちょうど良い場所があるから、そこにするね…

 それと、カイトくんの女運、確かに最悪だったみたいだねぇ…

 ん~、それじゃあ、カイトくんが好意を持った人が、カイトくんを好きになるスキルを付けておくね」


「え、そんなこと、できるんですか?」


「うんうん、なんせ私、この世界の管理者だからさ…

 後は、身の回りの世話をする者、生活に便利なスキルも付けておくね。

 カイトくんの未来は、自分の努力次第で如何ようにでも出来るから…」


 女神フィリアは、オレに紺碧に光輝く指輪を渡した。

「この指輪はカイトくんに特別なスキルを付与してくれる『英知の指輪』だよ。

 カイトくんが念じれば、その時のステータスが見られるから…

 レベルアップしないと使えないスキルもあるから注意してね。

 一定の条件を達成したら獲得できるスキルもあるから色々と試してみて」


「何から何まで、ありがとうございます」


「カイトくん、他に聞きたいことは?」


「ん~、今は思いつかないです…」


「了解、向こうの世界で困ったら、その時はサポートしてあげるから大丈夫!

 それじゃあ、カイトくん、異世界リゾートライフを楽しんでね~」

 女神がそう言うと辺りは眩い光に包まれ、オレは異世界へと転生した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 気が付くとオレは霧が立ち込めた深い森の中に倒れていた。

 オレは本当に異世界に転生したようだ。


 しかし、元の世界と何処が違うのか、森の中なので判断材料に乏しい。

 辺りは、見渡す限りの森で人影や建物、生物の影は見えない。

 この深い霧が晴れてくれれば、何か見えてくるのかも知れないが…


 いきなり濃霧の森の中に放置されるとは…、女神様も意地が悪い。

 じっとしていてもらちがあかないので、日の差す方向へ歩いてみた。

 森は広く、霧で先が見通せない中、当て所なく彷徨さまよっている内に日が暮れて夜になった。


 夜は月明かりを頼りに大きな木の窪みに身を潜め、遠くで聞こえる獣の声に怯えながら眠った。


 次の朝、霧は嘘のように晴れ、光が指す方向に一本の道を見つけた。

 やがて細い川が現れ、その川沿いの道を辿って歩いた。

 空腹に耐えながら、道を辿って行くと霧の中に忽然と白亜の館が現れた。


「目的地に到着しました。

 イベントクリアおめでとう」

『英知の指輪』が派手なファンファーレで知らせた。

 これは女神さまが用意したイベントだったのか…


 城壁に囲まれた白亜の館に近づくと、門は開いており、オレは中へ入っていった。

 石畳の道の先には、50歳くらいの紳士が執事服姿で立っていた。

 入口の両側にはメイド服姿の少女30人ほどが整列していた。

 どの娘も目移りするほどの美少女だ。


「お帰りなさいませ、ご主人様~」

 メイドたちが声を揃えてオレを出迎えた。


「こ、ここは?」


「ここはカイト様専用の館でございます。

 私は、この館を管理しております執事長のローレンと申します。

 どうぞ、お見知りおきを…」

 ローレンと名乗るロマンスグレイの紳士は深々と頭を下げた。


「この者は、メイド長のソニアでございます」

 ソニアは20代前半と思しき、知性を感じさせる黒髪の美女だった。


「メイド長を務めますソニアでございます。

 カイト様、何なりとお申し付け下さいませ」


 彼らは人間ではなく、ヒューマノイドタイプの生命体『メイドロイド』なのだ。

 オレがこの館で快適に過ごせるようにと、女神フィリアが創造したと教えてくれた。


「一見すると人間みたいに見えるけど、人間じゃないんだね」


「私たちはカイト様をお守りし、お世話をするために特化したメイドロイドでございます」

 オレには見た目も話し方も人間と何ら変わらないように見える。


 神テクノロジーを駆使してくれるとは、女神フィリアに感謝である。

 メイドたちは、どの娘もスタイル抜群、しかもいずれ劣らぬ美少女揃いだ。

 オレの口元が、つい緩んでしまったのは内緒にしておこう。

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