第43話 子供の領分
デラアウェに再度、必要ないと答えさっさと追い払って踵を返す。
ずんずんと庭を突っ切って東屋の近くまでくれば、バルセロンダがおい、と声をかけてきた。第二公子は無事に引き離せたようだ。
立ち止まったラナウィは、振り返りもせずに早口で告げた。
「ごめんなさい、すぐに否定できなくて……バルセロンダにも不愉快な思いをさせてしまっているわね」
散策用に作られた小道に咲く花々も、美しく整えられた庭園も何もラナウィの慰めにならない。
破天荒だけれど、バルセロンダは騎士の仕事には真面目に取り組んでいる。
主人であるラナウィに対しても、常に一線を引いている。
騎士としてなんら落ち度のないのに、こうして実際に侮辱されても庇うこともできない。
現状に腹が立つ。肩が震えるのがわかった。
「いい、事情があるんだろ。どうせ噂なんて碌でもない。わかってるやつはちゃんとわかってくれるしな。そもそも悪いこともしてないんだから、胸を張ってろ」
ヌイトゥーラもハウテンスもバルセロンダも。
皆優しくて、だからますますラナウィは追い詰められた気持ちになった。
時期女王として我儘らしい我儘なんて言っていない。
けれど、これは最大級の我儘だ。
時間があるなら、ラナウィはただ一人を思い続ける。けれど、その時間がもうないのだと告げられているのも事実で。
「貴方の恋人に誤解をされていないといいのだけれど」
胸の痛みを堪えつつ、そんな軽口を叩き振り返れば、バルセロンダはへっと軽薄そうに笑う。
「ガキが余計な心配すんな」
「成人したわ」
「そうやって大人の仲間入りしたような顔をすることがガキだろ」
「どうせバルセロンダの年齢には一生追いつけないわよ」
バルセロンダに特定の相手がいるなんて聞いたことはないけれど、否定もしない。
浮名だけはあちこちで流しているのは知っているし、貴族の令嬢が遠巻きに黄色い声をあげているのも知っている。
何を言ったところで、いつもの子供扱いで、もう十年も経ってしまった。
永遠に十歳の差なんて埋まらない。
わかっているから、この想いに終止符を打つ何かが欲しい。
自分ではもうどうすることもできないのだから。
「さっさと結婚すればいいのに」
「ああ、何か言ったか」
「バルセロンダもいい年なのに、結婚しないのはなぜ?」
貴族だろうが平民だろうが二十歳前後で結婚するのが普通だ。バルセロンダの年齢だと子供がいてもまったくおかしくない。しかも騎士の給料は一般の平民よりも高い。容姿だけでなく、結婚相手として彼は好条件であるというのに、そんな話は一度も聞いたことがない。
「興味がないね」
「ああ、性格に問題があるからね」
「はいはい、それで結構だよ。それより、そろそろ会場に戻らなくていいのか。終わりには戻って来いって言われてるんだろ」
「そうなんだけど……そうだ、バルセロンダ。お願いを聞いてくれる?」
まだ子供だというのなら、それでいい。
いくら成人したと言い張ったところで、彼の認識を変えるのが難しいこともわかっている。
だからこそ、だ。
子供の領分を思い知らしめてやるのだ。
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