第29話 発覚

ヌイトゥーラの魔法のおかげで、何も考えなくても体が勝手に剣を振った。持ち方も型も自然とできていた。

騎士たちも幾人かは感嘆の息を吐いたほどだ。

なるほど、さすが『魔道王』の後継者である。なんの魔法かはわからないけれど、剣が持てるようになるだなんてすごすぎる。


幾人かとも手合わせをしたところ、いろいろ指摘を受けた。

振り方とかフェイントのかけ方や目線の動かし方とかであったけれど、どう動かしているのか考えていないラナウィにとってはよくわからない。

とにかく熱心に教えてくれるので、申し訳ない気持ちで一生懸命に頷く。


そうして夢中で剣を振っていると名前を呼ばれた。


「……ラナウィ様?」


思わず名前を呼ばれたので、はいと返事した。

習慣とは恐ろしい。

名前を呼ばれたらきちんと返事をしなさいと教師に教え込まれたからだ。


たいていは注意を受けるときだったから、ついでに背筋も伸びた。

顔を向ければ、茫然と立ち尽くしているバルセロンダが見えた。


「あら、バルセロンダ。今日はこちらで稽古はしないと聞いていましたが?」


にこりと微笑みかけたが、これが最悪の選択だったことはわかる。

彼はとにかくラナウィが笑顔で物事を対処することが嫌いだ。


気持ち悪いはもう言われ慣れているけれど、新たな暴言が出たら、心が折れそうだなと身構えていたが、一向に口撃がこない。攻撃ならぬ口撃であるが。


バルセロンダは口を開いたり閉じたりしたあと、はっと何かに気が付いて周囲を見回した。


「バルセロンダ、どうかしましたか?」

「ばっか、お前、それ以上口開くな!」

「はあ?」


よくわからないが、ラナウィは、そういえば今は大人の姿をしていたのだと気が付いた。しかも髪や瞳の色まで変えているというのに。なぜ、彼は一目でラナウィだと気付いたのだろう。


「あんの馬鹿ども――」


憤怒の形相になったバルセロンダがひょいとラナウィを抱えた。

俵担ぎである。

大きくなったら、せめて横抱きにしてくれてもいいのではないか。


揺れる視界に目を回していると、バルセロンダはラナウィの体を抱え直した。腕に座らせる形の縦抱きだ。


「首に手を回して、顔伏せてろ」

「は、はい」


おろしてくれれば目を回すこともないけれど、と思いながらラナウィは決しておろしてとは頼まなかった。言われたとおりにバルセロンダの首に腕を回して、彼の鎖骨に頬をくっつける。

男らしい筋肉質のたくましい体を感じながら、ラナウィはひたすらに煩悩を振り払っていた。


「こら、テンス! 今度はなんのいたずらだ!!」

「ひえっ、なんであんなに離れてたのに見つけられるんだよっ」

「いいから、お前もこい。ここにいるってことはあいつらも集まる日だろう!?」


バルセロンダが空いた方の手でハウテンスを捕まえたのか、そのまままとめて抱え上げた。


「テンス、とにかく諦めることも大事だと思うわよ」

「ラナウィは諦めるのが早すぎると思うよ」

「馬鹿どもが、きっちりと話をつけてやるからな!」


怒れるバルセロンダに抱えられながら、『箱庭』へと運ばれるのだった。

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