第14話

 この零月と言う駅のベンチの上に白い球がフヨフヨと浮いていたがいた。


(ゲームのチュートリアルとかに出てきそうだな……)


 球は移動を始めたので、俺は慌てて付いて行った。

 先導されること数分、副隊長の言っていた鳥居が見えると同時に、球はスゥッと姿を消した。


「この先か……」


 その鳥居は、まるでシャボン玉を吹く前の膜のようなものが張っていた。

 ペシッと両頬を叩き、気合を入れる。そしてズブブと、その膜を通り抜けた。くぐると同時にその鳥居は消える。


「おや、来たんだね。いらっしゃい、嘉神零紫くん。私はCRASクラースのトップに当たる人、イデアだよ。今回は君と、四軍それぞれの総隊長に集まってもらったよ」


 俺の目線の先には、白いローブを羽織り、フードを被り、白い椅子に座っている者がいた。伊集院さんと同じ、宝石のように美しい黄金の瞳を持っており、中性的な顔立ちだった。

 そして、その奥には雲を貫くぐらい巨大な樹木が聳え立っている。


「ふ〜ん、このチンチクリンが邪眼の持ち主ねぇ……。案外弱そうだけど、可愛い顔してるわね」


 俺の右側にも座っている者がいた。

 腰まで伸びる金髪に青葉の様な翡翠色の瞳。黒いとんがり帽子に、同じく黒いドレスを着ており、魔女の様な女性だった。


「僕は楽しみだな〜! だって相当強い眼を持ってるんでしょ? それだったら僕の暗黒空間に入れてもバラバラに分解されなさそうだしさ〜!!」


 俺の左側。陽気な声色でとんでもないことを口走っている者がいる。

 右眼が黒色、左目が白色。髪も右半分が黒色、左半分が白色に分かれていて、低身長に中性的な顔立ちをしている。服装はモノクロかつ星の様に散りばめられた金の模様があり、ふわっとしたファンタジーっぽいものだった。


「バラバラにするとは、酷いのう……。野蛮な奴じゃ。一番年配の儂を見習え、儂を」


 俺の右後ろには、紺色のオーバーオールを着た言動の一致していない者がいた。『一番年配』と言っていたが、見た目は小学生だからだ。

 灰色の髪に黒いメッシュが入っており、顔の右半分は肌ではなく、金属になっていた。


「…………」


 左後ろには、狐の仮面をかぶって顔を隠し、白い着物を着て茶色の羽織を羽織っている寡黙な者がいた。腰には刀と真っ黒の木刀を携えている。


「っ……」


 ここにいる俺以外の五人は何者だ? 少しだけレイニィの実力が再生したから分かるが、

 特にイデアという人と、狐の仮面はヤバい。直感的にそう感じた。


「はい、みんなには事前に知らせたからわかっていると思うけど、紫水晶眼アメシスト・アイの持ち主である嘉神零紫君。もとい前世の名をレイニィ・ウィンクルム君の処遇をどうするか決めようと思う」


 組織のトップがそう話を切り出す。

 なぜ前世の記憶があるとバレてるし。


「処刑でいいと思いますよ。また暴れられたら危険ですし」

「じゃあさじゃあさっ! 僕が戦って処刑するよ!!」

「うぅむ……。しかし、此奴はまだ子供じゃ。家族もおろう。実験対象にするにして生かすのはどうじゃ?」

「…………」

「あんた今日全く喋らないわね。どうしたのよ」


 言葉が飛び交う。コッコ副隊長、本当に処刑にならずに済むんでしょうか……?


「私は――彼を生かして且つ、組織の一員にしたいと思っている」

「!」


 トップの口からそんな言葉が出てきたので、俺は目を見開いて驚いた。


「イデア様っ!? そ、それはとても危険だと思います!!」

「僕は戦えたらいいよぉ?」

「ふむ、儂はそれに賛成……と言いたいところじゃが、『組織の一員にする』というのは反対じゃな。いかんせん、仲間に危険が及ぶじゃろうし」


 他の三人の言い分は至極真っ当なものだろう。なぜなら俺は超危険人物だからな。

 ……自分で言っていて落ち込んできた。


「因みにだけど、ここにくる途中でコッコ君が彼の事を『今まで見た優しい人間のトップスリーに余裕で入るくらい優しい雰囲気感じる』と賞賛していたよ」


 トップがその事実を伝えると、四人は驚きを隠せていない様子だった。


「あ、あの鳥ちゃんがですか!?」

「へぇ〜! あの唐揚げくんにそんな言われようだなんてすごいな〜!!」

「あの鳥公もどきは生意気じゃが、その判別は一丁前だからのう」

「っ……」


 あの鶏副隊長って、この四人の総隊長からかなり信頼されてるんだな。


「処遇は私たちから決めるけれど、君がどうしたいかも聞いておきたい。嘉神零紫くん、君はどうしたい?」


 皆の視線が俺に向く。答えはもちろんYesだ。例えこれから困難な人生になろうと、俺が決めた選択だ。


「俺も、この組織の一員になりたいです……!」

「そっか、そういうと思ったよ。……そこで質問なんだけど、君はこの組織に入ったら何をしたい?」

(なんというか……面接みたいだな……)

「ああ、確かに面接みたいだね」


 当たり前のように心を読まれていた。組織のトップだからこれぐらい当たり前なのだろうか。

 だが、俺は俺の答えを出すまでだ。


「俺はこの組織に入ったらまず……伊集院さん――シエルを救いたいです」


 金髪の魔女っぽい人の眉が動く。そして俺に質問を始めた。


「あの子が発動させた魔術はこの魔術軍トップであるワタシですら解除することはできない。アナタはどうやって解除するつもりなのかしら」

「あいつは〝防御〟の魔術に特化してます。それに対して俺は〝攻撃〟や〝破壊〟の魔術に特化してるので、あの防御魔術を無効化できる魔術を持っています」

「なるほど、〝矛と盾〟って訳ね。わかったわ」


 納得したようで、ふぅと息を吐く。そして、話す人物は再びトップに変わる。


「ふむ、それで? その彼女を救った後はどうするつもりなんだい? 目先の目標だけを求め、そこで終わるつもりかい」


 その言葉を聞いた途端、あの悪魔の『弱肉強食の世界』と言っていたことを思い出す。

 俺の第二の目標が、今決まった。


「俺は、このイかれた世界を壊してみせます。食ったり食われたりする世界なんか間違ってる。みんなで協力して行きて行く世界が合っていると、俺は信じています。俺は俺を信じて、その夢を叶えたいと思っています」


 自分の思っている事を嘘偽り無く語った。


「ごく普通――ありきたりだね。だけどそれがいい。シンプルが一番だね」


 トップはふふっと笑みを見せて笑ってみせるが、すぐに真剣な表情へと切り替える。


「だけど……この世界は君が思っているより相当特殊だ。私にも手に負えないほどね。それでも尚、その夢を諦めないかな?」

「もちろんです」

「……わかった。君のその夢に賭けるとしよう」


 取り敢えず、死刑や実験用のモルモットにならずに済んだと解釈していいそうだな。


「他のみんなもいいかな? 組織のみんなにはイエスかノーかで投票してもらうよ」

「ワタシはイデア様の命令ならば良いですが……」

「僕もいいよぉ〜」

「いいじゃろう」


 ここの人たちは承諾しても、組織の人たちは俺を疎むかもしれない。……ってことはまだ安心できないじゃん!

 まあでも、一難は過ぎ去って――。


「――俺は反対だ」


 声が響き渡る。

 俺は、言葉が出なかった。反対されたということでは無い。その〝声〟に驚きを隠せなかった。

 声の主は仮面を被った和風な者。椅子から立ち上がり、俺の方へと近づいてくる。


「ま、さか……」

「零紫、お前を危険な目に合わせたく無いんだ。


 その者は仮面を外す。《そこには見慣れた顔があった》。

 生まれたときからずっと一緒にいる存在。癖毛な茶髪にイケメンな顔。


「なん、で……――

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