Re:Vive Destroyer《リバイブ・デストロイヤー》 〜最強破壊神、特殊能力が満ちた地球に逆転生する〜

海夏世もみじ(カエデウマ)

第1話

「――【滅刃めつじん】」

『GUAAAA……』


 薄暗い洞窟の中。その吹き抜けた場所で、夜に包まれたかのような漆黒のローブを羽織り、剣を片手に山のように巨大な竜に立ちはだかる人間がいた。

 ……いや、人間と呼んでいいのかもわからない。

 彼が剣を優しく空を切ると同時に、竜が真っ二つに切断されていたからだ。そしてあれよあれよと言う間にその竜が灰のようにサラサラと崩れ始めたからだ。


 淡紫髪の隙間から覗く紫水晶アメシストの色をしている不気味に煌めく瞳は、睨まれただけで気絶しそうなぐらいの異端さを孕んでいた。


『GURUAAAA!』


 一匹は静かに灰となって絶命したが、もう一匹の竜が大きく口を開け、その奥が輝いていた。


「ん〜、火力あまり出てないねぇ。【金剛壁こんごうへき】」


 腰あたりまで伸びる空色のメッシュが入った美しい銀髪をなびかせ、金剛石ダイヤモンドのような美しく輝く眼を持った貴族のような格好の美少女が竜の前に立ちはだかる。

 そして地面に魔法陣が描かれ、そこから金剛石の壁が出来上がる。竜から炎のブレスが吐かれるが、それは壁に反射し、全て自分に食らっていた。


『GUU! GAAAA!!』

「火力出てなくても油断すんなよ! 付与魔術エンチャント……【天穿ノ弓矢スカイ・アロー】!」


 燃え盛るような赤髪、そしてそれよりも紅蓮に輝く眼はまるで紅玉ルビーのように輝いている。髪を後ろで結んでいるポニーテールの美少女が、弓で竜に大きな風穴を開けた。


『GA…………A…………』

「ふぅ、新種のドラゴンが現れたと聞いてわざわざ来たが……こんなもんか」

「全然手こずらなかったねぇ。所詮、噂に尾ひれがついたんだろう」

「ア〜〜! 暴れたりねぇなぁ!!」


 ――〝異端〟。

 三人を言い表すのならばその二文字がピッタリであった。


「それにしても、あの巨体を一撃で崩壊させるとは……。流石『破壊神』とも呼ばれているだけあるね――」


 銀髪碧眼の美少女が最後に何かを言うが、そこで電源を切られたテレビのようにプツンッと視界が真っ暗になった。



###



「――……また思い出せない、か……」


 俺は天井を見つめながら、そんなことを呟いていた。


 物心ついた時から、よく同じ夢を見る。……と言っても、目が覚めたらその内容を全て忘れていて、〝同じ夢〟ということしかわからない。


「ふわぁぁ……」


 ベッドから降り、カーテンと窓を開ける。

 澄んだ空気が部屋の空気と入れ替わり、心地いい日差しを浴びる。窓の外は赤や青、多彩な屋根を見下ろせる。なんでもない、ごくごく普通の街だ。


零紫れいじー? 朝ごはんできたぞーい」

「父さん、今行くよー」


 頭をぽりぽりと掻きながら、ゆっくりとベッドから降りる。

 下の階に降り、俺は洗面台で顔を洗い始めた。


「あれ? こんなところにホクロあったっけ? ……あ、これゴミか」


 目の前に映るのは頭の左右で跳ねている猫耳のような癖毛の黒髪、黒く濁った瞳。見飽きた自分の顔だ。


「――……ん?」


 すると突然、視界がボヤーっと何かのフィルターにかかったかのようになる。

 目をゴシゴシと擦ると、自分の髪が淡い紫に。さらに目が宝石みたいな紫色に輝いていた。


「んんっ!?」


 再び目を擦ると、いつもの俺に戻っていた。

 夢と現実の境界が曖昧になってるのかもしれない。この歳で中二病にはなりたくないぞ。


「零紫? 鏡を凝視して何やってるんだ? ……自分に見惚れてたのか?」

「と、父さん!? 違うから!!」


 俺よりひどい癖毛の茶髪だが超イケメンで細マッチョのこの男。

 これが俺の父――嘉神かがみ凰心おうしん。母さんは俺が幼い頃に他界していて、父さんと一軒家で二人暮らしをしている。


「へいへ〜い、今日は零紫の入学式なんだし遅れないようにするんだぞ」

「わかってるよ」


 食パンを齧りながら父さんと他愛もない話をしていた。

 いつも通り、何もない平穏な日常だ。


「俺はこれから十日間出張行かなきゃだから入学式に行けないが、頑張って友達作ってこいッ!」

「はいはい。父さんも仕事頑張ってこい」

「おうさ! 飯はちゃんと自分で作って食えよ〜。零紫は俺より料理上手いからな」

「まあね」


 ボケーっとしながら新品の制服に袖を通す。

 あまり気がすすまないが、そろそろ出かけないと遅刻するから登校するとしよう。


「父さん、行ってきまーす」

「行ってらっしゃい、零紫」


 父さんは左手を上げて手を振る。薬指の付け根の指輪がキラリと一瞬煌めいた。



###



 電車を乗り継ぎ、高校に到着した。

 校舎は綺麗で、校門の周りには桜が咲き乱れている。見事な快晴で、空の青と桜のピンクで包まれていた。


「ん? なんだあれ」


 校舎の前に集まる人と、そのすぐ前でまるで誰かを囲むような人集りが出来ていた。


「少し覗きに行くか」


 人集りに近づくと、ザワザワと様々な話し声が聞こえてくる。少しばかり耳を傾けてみた。


「おお、あれが有名な〝ご令嬢様〟か!」

「見てるだけで眼福……!」

「あの――伊集院いじゅういん美空みそら様もここに通うんだな!」

「私の全てを捧げてもいい……!」

「俺にもチャンスが到来だぜ!」


 どうやら有名人がこの人集りの中心にいるらしいな。

 生まれてこの方、俺は芸能人やモデルとかの有名人と一度も出会ったことがないので、それなりに興味があった。

 なので俺はこの人混みの中に入り込んだ。


「う……潰される……」


 人に酔いそうになるが、なんとかして中心あたりに近づき、その人物を目の当たりにした。


「――ッ!?」


 目の前には、銀色の鎖骨あたりまで伸びる髪を緩慢に揺らし、てっぺんに生える一本のアホ毛。宝石のように煌めく空色の瞳に、整った顔。

 一度見たら忘れられないというぐらいの美少女で、女神の生まれ変わりなんじゃないかと思うほど慈愛に満ちた眼をしていた。


 俺は絶句した。もちろん可愛いと思ったのもあるが、多分違うことで絶句していたんだと思う。


「な、なんだ……!?」


 突然胸がキュッとなる感覚がした。

 恋に落ちたんわけではない。懐かしいような……なんというか、言葉に言い表せない感覚に陥った。


(……入学式で緊張してるんだな……多分。さっさと教室行くか)


 踵を返して俺は張り紙の場所へと向かう。

 だが突然、俺の手がひんやりとした誰かの手に包まれる。周囲も一気にどよめき始める。


(とても嫌な予感がするんだが……)


 恐る恐る振り向くと、そこにはキラキラとした眼差しを俺に向ける、伊集院美空がいた。


「――ようやく……見つけた!」


 ――この時、この瞬間が俺の人生の最初の分岐点ターニングポイントとなったことは、後々知ることになる。

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