第25回 置き去り
学校ダンジョンへ入りたい。
その気持ちは自分の中で増していくばかりだったが、周りには規制線が張られ、俺のような一般人の身では中に入れてもらえない。当然、この状況で入れるのはスレイヤーだけだ。
そこで俺は、こっそり学校のグラウンドのほうから忍び込むことに。
「――なっ……」
俺は思い立ってすぐ、屈みこむようにして慎重に回り込んだわけなんだが、すぐに絶望することになった。警察官がずらっと列をなすように並んでいたからだ。
これは、あれか……。それだけ中へ入りたがっている一般人が多いんだろうな。ってことは、一般人からスレイヤーに成り上がった黒坂優菜の影響力が大きくて警察からもマークされてるってことだ。
確かに夢のある話に思えるかもしれないが、実際は裏切者と虐殺者のコラボが実現しただけだからな。
「おい、そこのお前!」
「あ……」
俺は巡回中らしき警官に見つかってしまった。
「す、すんません、ちょっと催しちゃって……」
「こんなところで小便なんぞするとはけしからん……と言いたいところだが、魂胆はわかっているぞ。どうせお前もダンジョンへ入りたいんだろう」
「……バ、バレちゃいましたか」
「当たり前だ」
「やっぱり、ダンジョンへ入りたい人って多いんですかね?」
「だからこそこうして巡回しとるんだよ」
「ですよね……」
「うむ。黒坂氏のような英雄になりたいという気持ち、わからんでもないがな、それは例外中の例外だ。元から突出した才能がなければ、決してああいう風にはならん。いくらガタイがいいからといって、ダンジョンに飛び込もうなどというバカな真似はやめることだ。本官も若い頃はな――」
「…………」
それから延々と警察による説教染みた長話が始まってしまった。自分も若かりし頃はお前みたいにガタイがよかったからスレイヤーを目指したが結局ダメだったみたいな退屈な話だ。
レベル0からレベル1にすらなれなかったやつに言われたくないし、あんな卑劣なやつのどこが英雄だと思いつつ俺は我慢して聞いたあと、渋々引き下がることに。
いっそ、何かにステータスポイントを振って強行突破してやろうかとも思うが、どうしても決断できない。一度姿を見られてるだけに、覆面とかしても俺だとバレそうだし、勝手に入れば当然逮捕されてしまうだろうから。
……いや、待てよ? 俺はすぐに考えを改めた。速度にステータスポイントを振れば、警察に姿を見られることなく中へ入れるんじゃないか。
「おおぉ……」
俺は残り19あるステータスポイントを試しに1つ、速度に振ってそこら辺を歩いてみたわけだが、全力で走っているのと同レベルだった。1振っただけでこれだ。じゃあ、残り18ポイントを思い切って全部速度に振ったら……。
「ちょっ……!?」
速いなんてレベルじゃなかった。なんていうか、それまでの景色を丸ごと一瞬で置き去りにするようなスピードなんだ。
これならモンスターからも逃げ切れるはずだし、中にいるパーティーメンバーも早く回収できる。まさに一石二鳥どころか三鳥、四鳥にもなりそうだな。
ん……?
俺は人間離れした桁外れなスピードを愉しみつつ、さあいつ侵入してやろうかと思っていたところで、視界に新しいウィンドウが現れ、そこに黄色いマーカーが表示されるのがわかった。
こ、これは……学校ダンジョンの中にあるものとは別だ。その外部、しかも俺の近くに野球帽の藤賀か、あるいは警備員の風間、どっちかがいるってことだ。
どうやら方向的に、そいつは野次馬たちから少し離れた場所にいるってことで、俺はほぼ一瞬で学校の表口のほうに戻ってみせると、周辺をざっと見回してみた。
――うーん、それらしき人物はいないように見えるが……って、あれは……。
俺が注目したのは、ニット帽を被りサングラスをかけた爺さんだ。マーカーの位置と一致してるし、白髪頭が覗いてるしで、あの老翁が風間昇で間違いない。
お、向こうもウィンドウが表示されてるらしく、周辺を見回している様子で、まもなく目が合った……と思ったら、ギョッとした様子で逃げられてしまった。
おいおい、なんで逃げるんだよ……。
だが、ステータスポイントを19も速度に振った俺のスピードなら、逃げられるはずがない。
そう思って、障害物にぶつからないように速度を若干緩めつつ追いかけ始めたんだが、すぐに違和感に気付いた。
全力を出していないとはいえ、この異常なスピードをもってしても追いつかないのだ。
ってことは、間違いない。風間はスレイヤーになっているということだ。
それならますます俺から逃げた意味がわからなくなるが、スピードは俺よりないのか徐々に距離が縮まってるし、なんとしても捕まえて事情を聞かねば……。
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