魔王様は常識人。

もみじおろし

勇者襲来


 俺の名はイグレシオン。

 周りからは勇者と呼ばれている。

 まあ、そんな事より聞いてほしい。先程俺は、魔王城に颯爽と入城した。そして、意気揚々と魔王の間まで駆け上がると、扉を豪快に開け放なち魔王に宣言したのだ。

 『魔王、貴様の暴虐も俺がここで断ち切ってくれる!』そう宣言したのだ。

 

 しかし、そこで問題が起こった。

 魔王が怒って攻撃してきた? 

 答えはNo

 俺の攻撃が強すぎて一撃で魔王がられてしまった? 

 答えはNo

 俺が昨日の晩、食った飯はクリームシチュー? 

 これはYes パンに付けて食うシチューは美味かった。

 

 と、まあ冗談はさて置き、正解は俺の宣言を聞くと奴は怒った。ここまでは、まあ想像出来るだろうが、その後のキレ方が予想外だった。

 あろう事か奴は俺に「帰れ!」と怒鳴ったのだ。

 信じられるか、奴は魔王だぞ? 魔王なら勇者の挑戦を受けて立つものじゃないのか?

 俺にビビって怖気づいた様子ではない事から本当に「帰れ!」と怒っている様子だった。

 ─おっと、また魔王が何か言っているな。


「なあ、コレ見ろよ!」


 魔王が手を広げ、目の前の光景を見るように促すのでとりあえず目を移す。

 長い長方形のテーブルに、食器が沢山並んでいる。

 そして、魔王の前には食事物が置かれている。

 このと言ったのには理由がある。

 何故なら食器の上に乗っている物は、石や、まるで溶岩の様に赤く光り、蒸気を発している物など、とても人間の感覚からしたら食事だとは思えないからである。

 まあ、魔王ともなれば石でも食えるのだろう。知らんけど。


われ、食事中。分かる? 何なの突然? 言っとくけど不法侵入だからねコレ」

「貴様の都合など知らん。俺は人類の希望を背負って、貴様を倒しに来たのだ」

「なんだよ、人類の希望って。自分勝手すぎるだろ」

「貴様には言われたくないな」

「はい? 我、何もしてなくない?」


 この糞野郎、とぼけやがって。貴様ら魔族が、どれだけ人間に対し殺戮さつりく行為をしているか、それを何もしていないだと? ……なるほど、人間の命など『何もしていない』と言うほどに気にも掛けていないと言う事か。


「貴様は、俺が必ず倒す! さあ、剣を抜け!」

「剣とか抜かないから! 帰れよ! 何なんだよ急に!」


 人間など相手にする価値も無いってか? いいだろ。貴様にその気が無くとも俺がその気にさせてくれる。


「喰らえ! 『聖 真 衝せいしんしょう』!」

「ッ!」


 ……はたき落としただと!? 岩をも切り裂く俺の斬撃を……!


「ねえ! 何なの君? 初対面の魔族に斬撃放つとか頭イカれてんじゃないの?」

「初対面の人間を散々殺戮してきた、貴様ら魔族には言われたくない」

「いや、殺戮とか我してないから! 誰と勘違いしてんだよ!」

「とぼけるな! 貴様が魔王ということは知っているぞ!」

「はい? そうだけど、それがどうした?」


 あくまでしらを切る気か。いいだろう。ならば、その気になるまで貴様には、俺の技を受けて貰う。


床 下 刃アダンソード!』


 勇者イグレシオンは、勢いよく剣を地面に突き刺す。

 すると剣を突き刺した地面から、次々と刄が突き出し、魔王の元へテーブルや食器を破壊しなが進んでいく。

 そして、魔王の漆黒の鎧と激突すると、物凄い金属音を轟かせ停止する。


 どうだ、魔王。これは流石にただでは済まないはずだ。

 ………? あれ、嘘、もしかして無傷? ん、何か呟いているな。 


「ねえ、何してんの。ほんと、信じられないんだけど」

「なんだ、泣き言か? よく聞こえんな。何か言いたい事があるのなら、もっと大きな声で話せ」


 魔王は声をあげた。


「ねえ! 何してくれてんだよ! お前、この下に落ちた料理見て、作ってくれた料理人の方に申し訳ないとか思わないわけ?」

「知ったことか、その石ころが何だと言うんだ?」

「ふっざっけんな! お前からしたら石ころかも知んないが、我からしたら立派な料理なんだよ!」


 散々人間を殺戮してきた奴が、食事が下に落ちた事ぐらいで嘆きやがって、都合のいい野郎だ。

 その下に落ちた石ころの様に、どれだけの命が地に落ちたか、貴様は気にも掛けていないのだろうな。


「そんなくだらん事で嘆く暇があったら、早く俺と勝負しろ」

「勝負とかしないから! そんな事より謝れよ!」

「何を謝る? 貴様に謝るような事はしたつもりは無いが」

「料理人さんに謝って!」


 その漆黒の兜からは表情は伺えないが、頭から蒸気が上がるところを見ると、相当怒っているようだな。

 しかし、よく観察して見れば如何にも魔王ぽっい姿をしているなコイツは。

 漆黒の鎧、兜、そして兜の隙間からは赤く光る目、身長はおそらく2メートルは優に超えているだろう。


「ねえ! この溶岩石の石とか、作るの大変なんだぞ? それを料理人さんが、一生懸命作ってくれたのに」

「……俺ら人間は貴様ら魔族に理不尽に命を奪われてきた。それを食事が下に落ちた事くらいで謝れだと?………ふざけるな! 魔王! 貴様が行った暴虐の数々、忘れたとは言わせんぞ!」

「いや、知らんて! 魔王に対する偏見ヤバくない?」

「どうやら貴様とは話しても無駄の様だな」


 勇者は剣の切っ先を魔王に向ける。

 すると、地鳴りの様な音と共に、勇者の足元に魔法陣が浮かび上がった。


「え? ちょっと、何する気?」


 床が揺れている、いや城全体が揺れている、勇者の周囲は床にヒビが入り、床の残骸が巻き上げられ、重力を無視して空間を彷徨う。


「ちょっと! マジで何する気!? それ絶対ヤバそうなやつじゃん! ここ我の家なんですけど!」


 何か技を放つ準備でも整ったのか、勇者は魔王に向けている剣を両手で構えると、雄叫びを上げた。


「ハァァァァァア!」

「ねえ! 人の話聞いてます!?」

「喰らえ! 『グランインパクト!』」

「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

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