第17話 作戦開始・後編

 私はマリの背中にかついでもらい、マリの能力で空を飛んで追いかける事にした。

 ふわっと浮き上がり、徐々にスピードを上げて上空へと高度を上げていく。


 マリは、森繁もりしげさんと、逃げた3人が飛んで行った方角へ向かって勢い良く飛行する。

 同時に地上からも追撃部隊が追走している。

 部隊の人たちは、身体能力が向上しているのか、並みの人間の速度よりは早い。


 マリに担がれている私の体は、不思議と安定していた。

 まだ朝日が昇ったばかりの肌寒い空の中、私は森繁さんたちを探す。


 先に見つけたのはマリのほうだった。


《いました。あそこです。大型デパートの屋上で戦っているようです》


 どうやら、逃げきれないと判断した3人は、森繁さんと戦う事にしたようだ。

 私の目でも、交戦しているのが確認できる。


「マリ。一つ布石を打っておこう。ボーラを――」


《了解です。では、急ぐので速度を上げます》


 そう言うとマリは速度を上げた。今までの速度が本気で無かったことが良く分かる……。

 近づくにつれ、森繁さんと犯罪者3人の戦闘は、明確に目視できる距離になった。


 3人相手に一歩も引かずに戦っている森繁さん。

 私は急いで加勢に向かわなければと、心だけが先走っていた。


 高度を下げ、デパートの屋上につき、戦闘態勢を取りながら森繁さんに声をかける。


「森繁さん! 大丈夫ですか!」


 こちらに背中を向けたまま森繁さんは答える。


「あら、中島君だったかしら? 来てくれたのね」


《私もいます》


 犯罪者の3人は私たち二人を見て、若干渋い顔をする。


「また追っ手か…。チッ。だが、お前たちさえ取り除けば問題ないな」


 主犯格の魔法使いらしき男が呟いた。それに応じるように森繁さんも言葉を返す。


「逃がすわけない――けどね!」


 森繁さんは言い終わると同時に右手に纏った切断魔法で攻撃をしようと前方へ突出する。


 それに対し、側近の一人が片腕で森繁さんを食い止める。


「へっ。またそれか。対人用に威力を抑えた魔法なんて怖かねぇんだわ」


 マリも戦闘に参加するように攻撃の態勢を取った。


《中島さん。私は前に出ますので、状況に応じて、後ろでサポートに回ってください》


 私が相槌を打つと、マリはもう一人の側近に対して、持ってきていたボーラを投擲する。


 しかし、死角から放つボーラと違い、直線的に放たれた攻撃は相手に防がれてしまった。


 鋭い刃物を持っているようで、射出されたボーラはいとも簡単に空中で切断されていく。


 マリは、そのまま接近戦に持ち込んだ。


 後方で、待機している主犯格の男が詠唱している。魔法を放つのか? その目線は――。

 森繁さんに向けられていた。


 どうやら、一人で3人を相手していた森繁さんを一番に狙う算段のようだ。

 そんなこと、させるわけにいかない。私は<<疾走のカルマ>>を発動し、


 一直線に魔法使いへと距離を詰めていく。


 ――が、これが良くなかった。考えなしの悪手だった。


 魔法使いの周りには、防御魔法が展開されていたのである。


 私は、その防御魔法の壁に塞がれて魔法使いに近づくことができない。


 反射の性質があったのか、私は後方に吹き飛ばされてしまった。


 魔法使いは、私の瞬発的なスピードに一度は驚いたようだが、私をさげすむような眼で見た後――。

 魔法使いの上空に出現した大火球が、森繁さんを襲う。


 味方ごとか? そんなこと――。考えている暇はない。


 <<庇護のカルマ>>


 <<治癒のカルマ>>


 相対していた側近の一人ごと、森繁さんを大火球が襲う。


 森繁さんの周りは、炎に包まれる。


 私は、損傷の肩代わりとして、身が焼かれていく損傷を受け始める。が、同時に

 治癒のカルマも発動していたので、痛みは少ない。


 やはり、側近は炎を防ぐ手段があったようだ。既に安全圏から森繁さんを眺めている。


 炎が薄まり、森繁さんの姿が確認できるくらいにはなってきた。


 だが、こちらにだって、味方を守る事くらいはできるんだ。


 森繁さんは無事だった。側近も、魔法使いも、驚いている。


 しかし、森繁さんはこのチャンスを逃しはしなかった。


 相手が油断している隙に、側近の一人に魔法の刀による斬撃を食らわせ、ノックダウンさせたのだ。


 そして、このチャンスを逃さなかったのは私だって、マリだって一緒だ。


 大火球を放ち、防御魔法の展開が解かれている今。


 魔法使いの足元に、捕獲用のボーラが絡みつく。


 私達が交戦に入る前、私とマリは相談をして、一つの遠隔操作のボーラを上空に放っていた。


 相手に気づかれないように遥か遠くを……。弧を描くように大回りをして、相手の死角となる後ろ側から確実に攻撃を当てるために戻ってきた、反撃の一矢いっしである。


 私は再び<<疾走のカルマ>>を発動し、魔法使いの至近距離まで一瞬で移動する。


 足元に絡みついたボーラのせいで、まともに動くことができない魔法使い。

 私は後方に回り込み、後ろから羽交い絞め、<<膂力のカルマ>>でゆっくりと首を絞めていきながらそのまま地面に押し倒す。


 もう一人の側近は、本来ならばマリと互角の戦いを繰り広げる所であるが、森繁さんの援護により

 打倒うちたおされていた。


 私達の勝利である。

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